日本全体の精神医療のレベルアップにつなげたい
精神科専門医制度は、どのような特徴があるのか。基幹施設である九州大学病院では、どんなプログラムを策定しているのか。日本精神神経学会の理事長を務める神庭重信・九州大学大学院教授に聞いた。
オンライン管理新評価制度も開始
―精神科における従来の専門医制度と新制度は。
当学会の精神科専門医制度は、2006年度に認定を開始。学会が定める研修カリキュラムに従って最低3年かけて目標に到達すれば、専門医試験を受けることができました。
新制度では、年次ごとに研修プログラムがあり、精神科では最低3年を原則として基本領域の専門医を養成。基幹施設と連携施設で研修施設群を構築してプログラムを作り、専門医はそのプログラムをもとに研修先を選んで応募します。
これまでは1施設に3年間いることも可能でしたが、新制度では複数の施設を回り精神医学の幅広い疾患を診ます。例えば、1年目は大学、2年目は総合病院、3年目は救急医療を担う県立病院などに行き、その施設が得意な領域について学んでいきます。
評価制度も新しくなりました。1年ごとあるいは施設を移るごとに、専攻医は自己評価をし、現場の指導医も評価。いつも専攻医と指導医で話し合い、フィードバックしながら形成的評価をして、1年終わったら達成度を評価するという、二つを組み合わせています。指導医が何人でも専攻医を受け持つことができたこれまでと違い、新制度では指導医1人に対して専攻医は原則3人までです。
新制度への移行に合わせて、従来の研修手帳など紙ベースの管理に代わるオンラインシステムも採用。中核施設にいる統括責任者が、システム上で専攻医の状況を確認できるようになっています。
開かれた制度だと言える
―地域偏在助長や大学による専攻医の囲い込みを心配する声もありました。
専門医機構は、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡に関して、特定の診療科を除き、過去5年の採用実績数を超えてはいけないという決まりを設けました。精神科の今回の応募状況をみると、やはり東京一極集中の傾向。都市集中をどう防ぐかというのは重要な課題です。
新制度の精神科のプログラムは全国で150以上。医学部のある大学は80しかありませんから、その他は地域の病院が基幹病院です。これは開かれた専門医制度だと言えます。医局が囲い込むのではないかという批判も出ていましたけれど、精神科に関してはそういうことはありません。
九大にとっては新しくはない
―九州大学が基幹施設となっているプログラムの策定で工夫された点は。
新制度のプログラム自体が、実は九大の精神科にとって新しいことではなかったのです。九大では伝統的に、3年間で大学や総合病院を回り精神科の広い領域の経験を積むやり方をしていたので齟齬(そご)なく移行できました。
ここで学んだ先生たちは自分の専門でない患者さんであっても最低限どう対応してその分野の専門医につなげていけば良いのかを判断するベーシックな能力が高い。その上で認知症、児童、精神療法など、自分の専門性を高めています。
さまざまな指導医を見ているので考え方、やり方などが偏っていないとも感じます。ずっと同じ指導医のもとにいると、その先生のやり方が良いと思いがちですが、実際は偏った医療をしている可能性もある。いろいろな医師から学び比べ考えられるほうがいいと私は思います。
これから九大では専攻医がやがて指導医になり、精神医療をしっかり担ぎつつ後輩を育てる、そんないい循環が生まれることを望んでいます。日本精神神経学会の理事長としても、この制度が十分に機能し、日本全体の精神医療のレベルアップにつながることを期待しています。
専攻医がやがて指導医になり精神医療を担ぎつつ後輩を育てる。
いい循環が生まれることを望んでいます。
九州大学大学院 医学研究院精神病態医学
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