若手の育成に尽力総合力のある放射線科に
最先端の医療に挑み、後進の育成にも尽力する。その目指す先にあるものはー。2017年10月、放射線医学講座の教授に就任した伊東克能教授に就任の意気込みや医局の特徴を聞いた。
―医局の特徴を。
当講座は画像診断とIVR(血管内治療、画像支援治療)を中心とした診療を行っています。医療技術の発展した現代において、画像診断による正しい診断なくしては適切な治療を行うことはできません。正確で迅速な画像診断レポートを作成し、各診療科へ画像診断情報をフィードバックします。
放射線科の最大の特徴は、すべての診療科に貢献できることです。他診療科との連携を密にし、診断におけるリーダーシップを取ります。治療方針の決定にも積極的に貢献し、チーム医療の中で、放射線科医が中心的な役割を果たさなければいけないと考えています。
大学である以上、診療、研究、教育のバランスが大切だと思っています。当講座が特に力を入れているのは、被ばく線量の低減です。放射線による診断・治療は恩恵がある一方で、患者の医療被ばくの増加が問題となっています。特にCTが普及した現在、放射線の適切な使用が求められています。例えば、少ない線量で撮影した画像を鮮明に加工できるノイズ処理技術も向上しました。
現在、当講座から県内19の病院に常勤、22の病院に非常勤医師を派遣しています。地理的な問題で派遣が難しい地域もあります。そのような地域には、遠隔画像診断で対応しています。
画像を各病院から送ってもらい、当講座のドクターが読影するシステムです。遠隔画像診断の即時性の向上のために、今後マンパワーをさらに充実させ、リアルタイムに対応できればと考えています。
研究面についても、これまでは大学病院単独で進めてきましたが、これからは同じ症例を県内全体で取りまとめ、多施設共同研究に発展させたいと考えています。地域連携の中心的な役割を担っていくことも重視しています。
―先端医療の現状は。
画像診断というのは、従来静止画による形態診断でした。最近は動態画像診断へと範囲を広げています。これを機能動態イメージングといいます。
例えば、静止画では機能をとらえられない膵臓は、実際に口から管を入れて膵液を採り、酵素の量などをみる検査をしており、患者さんにも負担がかかる検査でした。
最近では高機能のMRIにより、膵臓の動き、膵液の流れを見ることが可能となりました。動態画像としてとらえることにより、膵臓の外分泌機能を検査することが可能となりました。
機能動態イメージングはスポーツ選手のトレーニング効果判定、怪我の予防予測にも使われています。選手のトレーニングは種目により、鍛えるべき筋肉が異なります。機能動態イメージングによって、運動負荷後にどの筋肉が有効に鍛えられているか画像で判定できます。例えば、負荷がかかった部分の筋肉が画像上で白色に見えます。
また、カーボローディングといって、運動エネルギーとなるグリコーゲンを通常よりも多く体に蓄えるための運動量の調節法および栄養摂取法があります。持久力を必要とするマラソン選手がよく用いている方法です。将来的にはグリコーゲンの量を画像化し、効率的な蓄積のための活用も進むでしょう。
最先端の分野として、ラジオゲノミクスというものがあります。放射線科領域で得られる画像情報、臨床情報、およびその他の検査情報に加えて遺伝子検査情報を取り入れ、診断、治療、予後予測をする手法です。
放射線医学、遺伝子科学、コンピューターサイエンスと多分野にわたる協働が必要とされますが、基軸となるのは放射線医学です。腫瘍を対象とした治療は、最終診断が遺伝子異常として結論づけられる場合、このラジオゲノミクスが主体となります。
また、この技術が確立されれば、体の深部などの細胞・組織の採取がしにくい場所でも、生検を伴うことなく診断が可能になります。まだ研究段階ですが、実現されれば、診断のあり方は大きく変わるでしょう。
―後進の育成について。
放射線科は全身を診る診療科です。画像診断は、画像を見てその中から異常を見つけていく。見えているものをその病態まで考えて、正確にレポートすることが大切です。画像から論理的に推理するのです。
一見、別の病変としてとらえていたものが、よく見ていくと関連した一つの異常所見としてすべてつながることがある。そこが非常に面白いところでもあり、放射線科の魅力の一つですね。
若いドクターは経験を積むことが重要です。放射線科の研修トレーニングの最も大きな特色は、過去17年間にわたって蓄積された臨床画像症例を瞬時に呼び出せる画像読影システムを使って、重要症例の読影トレーニングがいつでも行えることです。経験値を短期間で格段に高めることができ、臨床現場や学会発表で多くの若手の放射線科医が活躍できます。
まずは、すべての領域を網羅できるジェネラリストのドクターを育てる。その上で、サブスペシャルティ領域を持つことも必要だと考えます。
研究に打ち込む人材も増やしたい。その入口を見つけることも私の大切な仕事の一つだと考えています。
研究に興味を持ってもらう機会の一つとして海外留学をバックアップしています。国際学会での英語抄録の発表を奨励し、実際に海外の文化に触れ、また来たいと思うことが留学につながると思います。私も4年間アメリカに留学していましたので、その当時の話をして魅力を伝えています。
海外留学は経済的な理由で敬遠されがちですが、放射線科医は遠隔画像診断による収入源の確保が可能です。ドクターネットは日本最大規模の放射線科医による遠隔読影、画像診断のネットワーク。そこに登録することにより、海外にいても読影料が入ります。有効活用して、海外留学をしてほしいと思います。さまざまなことを端緒として、若手には外を向いてほしいと考えています。それがブレイクスルーにつながると思います。
―今後の展望を。
放射線科という領域は日進月歩の世界です。続々と新しい機器が開発されています。その変化にわれわれも対応していかなければいけません。新しい発見が日々繰り返されることは放射線科の魅力の一つでもあります。既成概念を破るような機械や診断法が出てくることはやはり楽しみですね。
画像は世界共通の言語です。画像診断を通じて世界への扉をともに開いていく若手を増やすためにも、まずは各診療科と深く連携し、診断と治療方針の両面で貢献する人材の育成に努めたいと考えています。
研究にももっと力を入れていきたい。臨床に根ざした研究テーマを設定し、その成果をフィードバックする。基礎研究を臨床に応用するためのトランスレーショナルリサーチを推進しています。また、世界へ向けて新しく有益な情報を発信し、国際的な貢献が可能な独創性のある研究も目指しています。
今後も、中核医療機関として地域に貢献していくと同時に、多様な画像から丁寧に所見を拾い上げ、患者さんに還元できるように日々研さんしていきます。
山口大学大学院医学系研究科放射線医学講座
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~radiants/