一般財団法人 倉敷成人病センター 安藤 正明 院長

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手術のあり方を見直すべき時期

【あんどう・まさあき】 1980 自治医科大学卒業岡山赤十字病院 1985 岡山大学病院 1986 倉敷成人病センター 2001 同産婦人科部長 2002 ドイツフリードリッヒ・シラー大学研修 慶応義塾大学客員助教授などを兼任 2009 倉敷成人病センター副院長 2015 同院長

 4月の診療報酬改定でロボット支援下内視鏡手術の適用が大きく広がることになった。今後の婦人科領域はどう変わっていくのか。黎明期から腹腔鏡下手術に取り組んできた安藤正明院長は「ロボット手術の健全な普及」に向けて動きだした。

―今回の保険適用に至るまでの背景は。

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 手術が低侵襲化していく流れの中で、腹腔鏡下手術が本格的に使用され始めたのは四半世紀ほど前のことです。

 2002年に進行大腸がん、2006年に前立腺がんに対する腹腔鏡下手術が保険収載。外科、泌尿器科領域では積極的に導入が進み、ロボット支援下内視鏡手術については2012年に前立腺がん、2016年に腎臓がんが認められました。現在、手術支援ロボット「ダビンチ」の国内の設置台数はおよそ250台。世界第2位です。

 子宮体がんの一部を対象に、ようやく婦人科領域の腹腔鏡下手術が保険収載されたのは2014年です。4月の診療報酬改定で、新たに「腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)」「腹腔鏡下膣式子宮全摘術」の二つのロボット支援下内視鏡下手術が保険適用となります。

 従来の開腹手術は、リンパ節まで切除する場合だと大きくみぞおちから恥骨にかけて切る必要がありました。腸閉塞のリスクがあり、多くのケースで輸血も必要になる。場合によっては回復までの2〜3週間、ほとんど寝たきりになるほどのダメージです。

 腹腔鏡下手術なら、小さな穴を数カ所開けるだけで済み、患者さんの負担は軽く、術後の傷跡は目立ちません。早期の回復が期待でき、70代の患者さんでも翌日には歩行や食事が可能です。

 数年内に、より高機能で操作性に優れた手術支援ロボットも登場するでしょう。保険適用の拡大で患者さんの選択肢が増えたという意味では喜ばしいことだと言えます。

 しかし、ロボット手術の急速な普及で、安全性が損なわれることがあってはならない。婦人科疾患領域で一気にロボット手術が広がった米国では2010年、それまでの主流だった泌尿器疾患の手術件数を逆転。その後の数年間で、腹腔鏡下手術のトレーニングを十分に積んでいない医師による事故が頻発し、死亡事故も発生しています。

 今回の改定でまったくの予想外だったのは、悪性腫瘍だけでなく良性腫瘍も保険適用となったことです。

 国内の良性腫瘍の手術件数が10万件を超える状況の中、経験の浅い術者がロボット手術を実施するとどうなるか―。米国と同様の事態になることだけは回避しなければならないと考えているところです。

―安全な普及のためにはどのようなことが大切でしょうか。

 婦人科領域のロボット手術の見学施設として、ダビンチを製造するインテュイティブサージカル社の認定を受けているのは日本では当院と東京医科大学のみです。定期的にロボット手術セミナーを開き、技術の普及に努めています。

 2014年に腹腔鏡下手術が保険適用となったときには、セミナーの回数を増やしたり、日本産科婦人科内視鏡学会の常務理事を務める立場として個人で勉強会を実施したりしました。

 保険適用は事前に通達があるわけではありませんので、これから教育や施設の認定制度などを整備していくことになります。やはり、日本産科婦人科学会、日本産科婦人科内視鏡学会、日本婦人科腫瘍学会など、関係する各学会が連携してサポートしていくことが重要でしょう。協力体制を呼びかけ、今後セミナーの共同開催などを予定しています。

 泌尿器科領域では、ロボット手術に関して十分な技量と経験を有する医師を指導者として認定する「プロクター認定制度」を運用しています。プロクターがいなければ1例目の手術を実施することはできません。認定の要件も非常にハードルを高くしている。

 医療機関がダビンチを導入するにあたり、メーカーサイドでも厳しい施設基準を設けています。オンラインでの学習をはじめ、動物ラボトレーニング、認定施設での症例見学などさまざまなプログラムが義務付けられており、準備が完了するまでにはおよそ3カ月を要します。

 婦人科領域でも、おそらくいずれかの学会が中心となってプロクター認定制度を検討していくことになると思います。しかし、各地に一定数のプロクターを育成するにはある程度の時間が必要です。また、制度には制約力も持たせなければなりません。

 東京医科大学産科婦人科学教室主任教授の井坂恵一先生が理事長を務める「日本婦人科ロボット手術研究会」が今年、学会へと発展。婦人科領域の既存の学会とともに新たな制度のあり方をまとめ、積極的に働きかけていく計画です。来年2月には、学会となって初めての集会を開催予定。私が会長を務めます。

―海外と比較すると日本の状況は。

 日本にまだダビンチが数台しかなかった2008年、ソウルの延世大学校にはすでに5台。韓国や中国、タイなどアジアの国々は、スピード感をもってロボット手術の技術を伸ばしてきました。米国では、いまや婦人科悪性腫瘍領域のロボット手術は9割を超えている。腹腔鏡下手術を経験しない「最初からロボット手術」を実施する医師がいるほど定着しています。

 日本の婦人科悪性腫瘍領域ではいまだ開腹手術が主流。低侵襲手術の恩恵が患者さんに行き届いているとは言い難い状況です。熟練した腹腔鏡下手術の術者が不足している現状を打破する一つの策として、ロボットが貢献するのは間違いないでしょう。

 腹腔鏡下手術とロボット手術では、回復についてはほとんど差がありません。決定的な違いは術者のラーニングカーブ。従来の腹腔鏡手術は奥行きがない2Dの視界で剥離したり縫ったりといった複雑な作業をする。鉗子に関節はなく極めて高度な技術が求められます。

 ダビンチの視界は3Dで、肉眼で見ているのと同じように空間を把握できます。3本のアームは多関節によって自在に動かすことが可能です。

 ただ、ロボット手術には感触がありません。視野の外で異変が起こっていても気づきにくいのです。修得までの期間が少々早いとは言っても、決して簡単というわけではない。米国の学会などでも「ロボットなら容易に使えるという発想を捨てて欲しい」と再三、念を押しています。

―育成面で重視していることは。

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 婦人科領域の腹腔鏡下手術の実績は当院が国内最多です。婦人科の医師数は国内有数の19人で、多くが腹腔鏡下手術に携わっています。当院では技術認定医を取得しても、さらに数年のトレーニングを経て初めて術者になれる。他の医療機関と比較して厳しい実習環境だと思います。教育の過程だからといって手術のレベルは一切落としません。

 当院が行う子宮全摘術は年間で約800例。98%が腹腔鏡下手術です。止むを得ず開腹手術に移行したり、輸血したりする割合は1000例に1例ほど。世界的に見ても誇れる成績です。

 手法が重要なのではありません。患者さんが安全に治療を受けることができ、できるだけ早く笑顔を見せてくれるような手術を目指すことが私たちの役割です。ロボットを導入することが目的化してはいけない。

 本当に患者さんの利益につながるのか? そんな観点からもう一度、手術のあり方を見直すべき時期に来ているのだと感じています。

一般財団法人 倉敷成人病センター
岡山県倉敷市白楽町250
TEL:086-422-2111(代表)
http://www.fkmc.or.jp/


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