佐賀大学医学部小児科学教室 松尾 宗明 教授

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増える医療的ケア児  支える仕組みの構築へ

【まつお・むねあき】 1985 佐賀医科大学医学部卒業 1986 鹿児島市立病院 1990 佐賀県医療センター好生館 1994 米ケンタッキー大学留学 1997 佐賀大学小児科小児神経部門チーフ 2010 同医学部小児科学教室准教授 2014 同教授

―2月に「佐賀県医療的ケア児等支援連絡協議会」が発足。会長に就任。

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 長期の入院を経て自宅に戻った後も、人工呼吸器やたんの吸入、経管栄養などを必要とする「医療的ケア児」が全国的に増加しています。

 協議会は2016年に公布された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」に基づき設置されたものです。委員は医療・看護、障害福祉、保育、教育、行政の6分野で構成。問題点の抽出や共有、連携体制のいっそうの推進を目的としています。

 私自身も、2014年の教授就任当時から関係者が一堂に会して定期的に話し合える場をつくりたいと考えていました。医療機器の小型化、高度化などによって家で過ごせるようになった。子どもたちにとってはいい環境でしょう。しかし、ケアを担うご家族には十分なサポートが行き届いていないのが現状です。

 2月1日の初会合でも重要なテーマとなりましたが、今、最も求められているのはレスパイト入院です。ニーズは高いものの、受け入れることのできる施設が不足しています。しかも、1人で複数の医療的ケアを必要とする子どもも増えていますので、看護のハードルは上がっているのです。

 限られた数の看護師で通常の入院患者さんに対応し、つきっきりで医療ケア児を見守るのは難しい。レスパイトが広がらない背景です。まずは、当協議会が中心となって、さまざまな視点から課題を把握することが第一歩。地域ごとに医療的ケア児が置かれている状況や医療資源も異なりますので、いずれは各医療圏にも「地域版の協議会」を設置していく計画です。

―虐待防止の活動は。

 佐賀県産婦人科医会と協力して「乳幼児揺さぶられ症候群」予防のための取り組みを進めています。一時期、揺さぶられ症候群が疑われるケースが明らかに増えたことがありました。特に2010年から2014年にかけて多く、当院に入院したのは12例。そのほとんどの子どもにまひや知的障害などの後遺症が残り、1人は亡くなりました。

 厚生労働省は、ホームページで動画「赤ちゃんが泣きやまない〜泣きへの対処と理解のために」を公開しており、赤ちゃんはよく泣くのが普通であること、泣き止まないときの対処法や、揺さぶりによる乳幼児への影響などを発信しています。

 私たちも視聴の後押しを含めて広く啓発するために、動画サイトにリンクするQRコードを掲載した母子手帳貼付用のチラシを作成。新生児訪問のスタッフである保健師や助産師に配布するなど、母親たちに渡してもらうよう呼びかけています。

 チラシには母親やご家族が動画を閲覧したかどうかが分かるように、確認用のチェックボックスも記載しています。乳幼児健診の時に確認し、視聴を勧奨します。また、新たに産科での産後2週間健診を導入し、うつや虐待の兆候などがあれば行政や小児科へ連絡。早期にケアする仕組みの確立を目指しています。

―他科との連携について。

 2017年9月、東病棟の再整備事業が完了。2階に小児病棟「こどもセンター」が開設したほか、各診療科が機能的に集約され、連携面がよりスムーズになりました。

 当院では、小児の希少疾患や高度な手術を要する症例などを多く受け入れています。さまざまな診療科が関わりますので「顔が見える関係性」は欠かせないのです。

 西病棟のNICUや産科婦人科をはじめ、脳神経外科、泌尿器科、形成外科、歯科口腔外科など各診療科の小児専門のドクターと定期的にカンファレンスを実施。看護師やリハビリテーションのスタッフなども含めた、多職種でのチームづくりが進んでいます。

 2016年度、佐賀県は都道府県単位としては全国初の試みである「未来へ向けた胃がん対策推進事業」をスタート。佐賀県内のすべての中学3年生を対象にピロリ菌検査と除菌治療を推進しており、当教室が事業の大部分を請け負っています。

 胃がんの原因の9割以上がピロリ菌だとされ、5歳までに感染するケースが多くを占めます。

 学校の健康診断で採取する尿を使って尿中の抗体を測定します。2017年8月時点の実施状況は、対象となる8519人のうち、一次検査を受けたのは7230人。2次検査が必要と判定されたのは356人でした。少子高齢化が進んでいく中、医療は治すだけでなく予防する役割がもっと求められます。引き続き経過を調査していきたいと思います。

―専門である小児神経疾患については。

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 国の指定難病「けいれん重積型急性脳症」を予防する研究に取り組んでいます。重積型は0〜2歳の間、特に1歳ごろの発症が多い急性脳症です。

 一般的な熱性けいれんは一過性のもので後遺症の心配もほとんどありません。しかし、熱性けいれんの持続時間が長かった症例の一部は、いったん落ち着いた後、数日後に再びけいれん群発、意識障害をきたし脳症となります。現状では有効な治療法はなく、およそ7割に知的障害やてんかんなどの後遺症を残すと言われています。

 発症機序はまだ明らかではありませんが、最初のけいれんのときに過剰に放出された興奮性アミノ酸グルタミン酸による神経毒性が原因との説が有力です。私たちのグループでは、グルタミン酸受容体を阻害する作用のある既存薬を予防や治療に応用することを検討しています。

 知的退行や進行性の運動障害、嚥下(えんげ)障害などを引き起こす難病「ニーマンピック病C型」の研究では、熊本大学と共同で薬剤開発に着手しました。現状は海外が先行していますが、聴力障害の副作用が報告されています。完成には何年も要すると思いますが、私たちの手応えとしては、副作用の少ない治療薬を実現できるのではないかと思っています。

 小児科医を含めて、医師の確保は佐賀県全体の課題です。地域での取り組みや研究成果などの発信は、人材を呼び込むことにつながる。そう信じて、私たちにできることを探します。

佐賀大学医学部小児科学教室
佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511(代表)
http://www.pediatrics.med.saga-u.ac.jp/


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