リウマチ患者の日常を取り戻すために
40年近く、地元宮崎でリウマチ専門医として地域医療を支える税所幸一郎・都城医療センター副院長。患者の意志尊重と負担軽減を最優先し、信頼される医療の実現を目指している。
―都城医療センターでのリウマチ治療について教えてください。
都城医療センターは、宮崎県南部にあり、都城・霧島エリアの2次医療機関としての役割を担っています。私は、整形外科の中の関節リウマチが専門。紹介患者に対する診断・治療のほか、地域のリウマチ専門医を対象とした研修会などを通して、地域の医療の質向上にも努めています。
リウマチは、関節のはれや痛み、変形が主な症状です。痛みを我慢して治療を受けないまま病気が進行すると、内臓などにも症状が出ます。合併症が起きた場合、寿命が10年短くなると言われていた時代もありました。
しかし、今は以前に比べると効果的な治療薬が増えています。患者に合った治療薬を処方できれば、数週間で、リウマチによる苦痛が和らぎ日常生活に戻ることができます。
内科的治療だけで、いかに短期間でリウマチの進行である関節破壊を抑え、患者さんのADL(日常生活動作)を回復させることができるか。手術が必要な状態にまで進行させないか。それが、現代におけるリウマチ専門医としての腕の振るいどころだと思います。
―効果的だとされるリウマチ治療薬は。
大きく分けると二つ。抗リウマチ薬「メトトレキサート」と生物学的製剤です。
メトトレキサートはもともと抗がん剤として開発された薬です。関節破壊を抑止する効果があり、今のリウマチ治療薬の中心的存在です。発症後、できるだけ早い段階からこの薬を使って内科的治療をすることが大切です。
現在、メトトレキサートは7割の患者さんに使用され、多くの人で改善が見られますが、この薬だけで寛解状態になるのは3割程度です。メトトレキサートだけで症状や関節所見が十分改善されない場合、生物学的製剤を使用します。
生物学的製剤は、関節の痛みやはれを改善する効果や変形・破壊を抑制する働きが従来の抗リウマチ薬に比べ飛躍的に向上しています。ただ、免疫を抑制するため使用の際は感染症に注意が必要です。さらに生物学的製剤の次の薬剤としてJAK阻害薬も登場しています。
どの薬が高い効果を示すのかを患者さんごとに判断するのは非常に繊細な作業です。一番合う薬を見つけ、寛解状態に導くことがリウマチ治療の一つのゴールだと私は考えています。
以前は、妊娠中に服用できるリウマチ治療薬はないと言われていました。リウマチは妊娠可能年齢の女性に好発するため、妊娠・出産を諦める女性が多かったことに私も心を痛めてきました。しかし、現在は、妊娠中でも比較的安全に使用できるリウマチ治療薬の報告も出てきています。もちろん、妊婦への治療薬の使用には注意が必要ですが、治療と妊娠を両立できるようになったことは大きな一歩だと考えています。
―リウマチ治療の際、大切にしていることを。
治療を開始する時、患者さんが大切にしていることは何かを知るために、患者さんのバックグラウンドと心理面のヒアリングを大事にしています。
経済面や家庭の事情、仕事で頻繁にする動作などを知ることで患者さんが望む治療を目指せます。患者さんが求めている治療と医者が行うべき治療の齟齬(そご)を少なくすることができます。
リウマチの治療薬、特に生物学的製剤やJAK阻害薬は非常に高価で、薬剤費が年間20万円〜40万円必要です。中には経済的理由で治療を断念する方もいます。そのため、治療開始前には薬剤費の目安について丁寧に説明し、高額療養費制度のことも詳しくお伝えすることで、患者さんの経済的負担への配慮を大切にしています。
また関節リウマチは、早期に適切な治療をすることで、関節炎を抑制し、寛解状態にできる可能性が高くなりました。関節破壊に対する外科治療の必要性も低くなり、合併症による内臓機能障害も防ぐことができます。しかし、痛みがあっても我慢して受診しない人が多くいます。治療を遅らせることは、患者さんにとってマイナスであることを周知するのも、私たちの大事な役割です。市民講座などでの広報活動も大切にしています。
―整形外科医を目指す若い人に一言お願いします。
私は、もう一度人生をやり直すことができたとしても、リウマチを専門とする整形外科医の道を選ぶと思います。
リウマチの患者さんは、日常生活に支障が出て、身体的な痛みだけでなく精神的苦痛を感じます。共に生活する家族に影響が及ぶこともあります。ただ、治療すればその痛みを取り除くことができます。今、リウマチは治療によって「日常生活を取り戻す」ことができる病気になっているのです。
リウマチの人のADLを取り戻すため、内科的治療と外科的治療を総合して立ち向かうことができるこの分野は、とても魅力的です。ぜひ医学生の皆さんにも、挑戦してほしいと思います。
若い医師の皆さんに望むのは、医療技術の習得だけでなく、「時勢を読む力」を身につけてほしいということです。時代の流れや経済の動向を把握することは、患者さんとのコミュニケーション上、大切な要素となります。
私は治療費をサポートする国の制度について、患者さんに自分で説明するようにしています。毎年のように変化する制度を医師自らが正確に把握し説明することで、患者さんの反応を見たり意志を聞いたりすることも可能になります。効果的かつお互いにストレスの少ない治療につながるのです。
医師は医療、医学だけ知っていればいい、というのでは、患者さんのことを真に理解できません。さまざまなことに興味を持った、柔軟な整形外科医が増えることを期待しています。
独立行政法人国立病院機構 都城医療センター
宮崎県都城市祝吉町5033-1
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