ハッピーライフサイクルで地域を元気に
2017年10月、福岡市西区に「アーバンハートクリニック」が開業した。渋井俊之院長が目指す「ハッピーライフサイクル」とは何なのか。
◎心臓リハビリを推進
東京生まれ東京育ち。大学病院時代は、集中治療室などで、急性期医療の最前線に立ちました。東日本大震災をきっかけに福岡へ。5年半勤めた白十字病院(福岡市)では、急性期から慢性期までさまざまな経験を積ませていただきました。
福岡に来て思ったのは元気な高齢者が多いこと。ただ、高齢者は一度入院して寝たきりになれば足腰が弱ってしまい、自宅に戻っても、それまでのように生活することが難しくなってしまいます。病気を治すだけではなく、治療後のケアが重要だと強く感じました。
こうした思いから白十字病院では「包括的心臓リハビリテーションチーム」を立ち上げました。狭心症や心筋梗塞など心臓を患った方の病気の再発、悪化を防ぐため、理学療法士や作業療法士、薬剤師、栄養士などがチームを組んで対応。筋力的なリハビリや服薬、栄養摂取、退院後の生活についてアドバイスしてきました。
しかし、院内のシステムは確立できたものの、地域に戻った患者さんを近くでケアできる人材が少ない。そこで、自分がその役割を担いたいと、白十字病院から近く、人脈があるこの地で開業しました。
◎医師の指導で運動を
「心臓リハビリテーション」の一つに運動があります。心電図をつけ、循環器専門医の指導のもとで安全に行う運動です。
クリニック2階のリハビリ室には、心電図の変化を見ながらサドルにまたがって自転車のペダルをこぐ動作をする機器「エルゴメーター」を設置。1階にいる看護師や私がモニターで常時様子を確認。異常時に即応可能で、患者さんにも安心して利用していただけていると思います。
「心臓を患ったから運動できない」と言う方がいますが、その人に適した負荷であれば、安全に運動することも可能です。むしろ自分に合った運動ならば、したほうが良い。心臓を補うのは筋力で、例えば心筋梗塞になった後、心不全になる人とならない人の違いは、筋肉量の違いである場合もあるのです。
心臓も血管も、鍛えないと弱ってしまいます。不安だから運動しないのではなく、医療者のフォローのもと、適切な運動をする。心臓リハビリテーションは「攻める二次予防」なのです。
当院が重要だと考えるのが「メディカルフィットネス」。二次予防もですが、その前段階である一次予防、つまり病気にならないようにするための運動も含まれます。
多くの病気は生活習慣病から来ており、高血圧治療も糖尿病治療も、食事と運動の二つが鍵です。初心者にとってはスポーツジムは環境、金額的にハードルが高いかもしれませんが、当院のリハビリ室では一次予防にもエルゴメーターを使っていただけます。
30分500円で、1階には医療スタッフもいる。テレビやDVDも視聴可能で、窓からは景色も眺められます。今後は筋力トレーニングの機器を導入するなど、さらに充実させていく予定です。
◎夜の睡眠もサポート
日常生活を快適に送るために、もう一つ重要なのが睡眠です。昨今「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の患者さんが急増。30代など若い世代にも見受けられます。
肥満の方がなると思われがちですが、実は、あごが引いた位置にあるケースが多い日本人の骨格はこれを発症しやすく、肥満でない患者さんが3割を占めます。
酸素欠乏状態が続けば心不全は4.3倍、脳卒中が3.5倍など合併症のリスクも高まります。
当クリニックでは検査を積極的に勧めており、自宅での「簡易検査」と、クリニックに泊まりで行う「精密検査」があります。福岡市西区・糸島市のクリニックで精密検査をしているのは当院のみ。午後9時から午前5時半までと、仕事をされている方も利用しやすい時間設定にしています。
睡眠時無呼吸症候群の治療である経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)に使用する装置は、当院から貸し出し。日々オンラインで装置を使用したかどうかのデータを確認し、患者さんの状態に寄り添った治療を心がけています。
◎「人を診る」地域医療
クリニックのコンセプトは「ハッピーライフサイクル」です。一次予防や二次予防、睡眠時無呼吸症候群のケアも含めたサイクルにより、病気にならない、なっても元気に過ごせるような医療を提供していきたいと考えています。
「のど元過ぎれば熱さを忘れる」と言うように、急性期の治療が終わった後、二次予防などに対する意識を持ち続ける患者さんは多くありません。地域のかかりつけ医などによる患者さんの継続的なケアが重要で、そのためには患者さん一人ひとりの家庭環境や性格まで把握しておく必要があるのです。
患者さんのことをよく知り、支えるためには、医師だけでなくスタッフ全員によるサポートが欠かせません。当院では、スタッフ向けの勉強会も週1回ペースで開催。説明室では幅広い知識をもった看護師が、患者さんそれぞれの症状に合わせて丁寧に助言や指導をしています。
地域医療の観点からいうと、1人の患者さんに対し、医師のほかケアマネジャー、訪問看護師、薬剤師など多方向からのサポートが重要です。今後は、これまでの縁を生かし、より自発的に医療や、地域の方の健康につながる情報を発信していきたいと考えています。
ここ九大学研都市駅周辺は再開発された新しい街で若い居住者も多くいます。地域の一人ひとりに寄り添い、健康寿命を延ばすことこそが、この街のより良い未来をつくると信じています。
アーバンハートクリニック
福岡市西区今宿西1-30-26
TEL:092-805-7750
http://uh-clinic.com/