那智勝浦町立温泉病院 山本 康久 院長

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新病院が4月に船出 弱者も守る医療を

【やまもと・やすひさ】 1981 和歌山県立医科大学卒業 1983 大阪鉄道病院 1986 山本内科病院 1987 西和歌山病院 1995 国立大阪南病院 1998 阪南市立病院 2005 和歌山労災病院 2013 同副院長 那智勝浦町立温泉病院院長

 温泉郷として知られる那智勝浦町らしさを感じさせる「温泉病院」の名は、4月開院の新病院でも継承。船出にあたって山本康久院長は、「弱い立場の人々にやさしい病院でありたい」と話す。

ー新病院が開院間近。

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 和歌山県、奈良県、三重県に連なる紀伊山地は古くから山岳信仰の対象で、「蟻の熊野詣」と言われるほど多くの人々が参詣のために列をなしていたそうです。

 熊野三山、高野山、吉野・大峯の三つの霊場と参詣道は2004年、世界遺産に登録。ご神体として崇められてきた「那智の滝」などの那智勝浦町の名勝も世界遺産の一部です。一年を通じて海外からの観光客が訪れており、当院にもときどき外国人の患者さんがお見えになります。

 日本有数の生マグロの水揚げ量を誇ることにちなんだ「鮪乃湯(まぐろのゆ)」や那智の滝にあやかった「滝乃湯(たきのゆ)」など、町内には無料で利用できる足湯がいくつかあります。実は4月に開院する新病院にも「悠久乃湯(ゆうきゅうのゆ)」という足湯を設置するんですよ。地域のみなさんの憩いの場として自由に利用してもらえたらと思っています。

 新病院でも引き続き和歌山県立医科大学の臨床と研究、教育の場として「リハビリテーション・スポーツ・温泉医学研究所」を併設。温泉療法の研究を進めていきます。

 当院は和歌山県の災害支援病院に指定されていますが、現在の建物は耐震性が十分ではなく、海抜が低い立地のため津波の被害も大きいことが予測されます。もし南海トラフ級の地震が起こってしまったら病院の機能はストップするでしょう。

 移転先は最悪の規模と想定されるマグニチュード9.1の地震が発生しても、津波の浸水を免れる海抜9mの高台です。耐震構造の4階建てで、病院の玄関付近や2階のリハビリテーション室のスペースを広めに確保。患者さんの受け入れに備えます。

 この周辺の医療機関にとって津波への対応は重要課題。県境を越えて意見を交換し、有事の際の連携を深めることができればと考え、尾鷲総合病院(三重県尾鷲市)、紀南病院(同御浜町)、新宮市立医療センター(和歌山県新宮市)、くしもと町立病院(同串本町)に声をかけてディスカッションを継続的に実施しています。

ー特色はどのような点でしょうか。

 診療科は内科、整形外科、リハビリテーション科、糖尿病内科、循環器内科、眼科。現状の150床(一般病棟90床、医療療養病床60床)から120床にダウンサイジングし、一般病棟90床(地域包括ケア病床を含む)、今後の柱の一本として考えている障害者病棟30床の編成とします。

 札幌医科大学の地域医療研修施設でもある関係から、先日も同大整形外科の先生に脊髄損傷の治療研究に関する講演を依頼しました。内容は患者さん自身の骨髄液から採取した「間葉系幹細胞」を投与すると運動機能の回復が期待でき、その後のリハビリテーションに積極的に取り組むことでさらに効果が高まるというものです。

 当院は、県の地域リハビリテーション広域支援センターに指定されており、脊髄神経再生治療を受けた患者さんのリハビリテーションの効果検証を進めています。和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座の田島文博教授やドクターと当院の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による高負荷で高頻度の訓練が特徴です。

 都心部には脊髄損傷の患者さんが長期に入院し高強度の訓練を集中的に受けることのできる医療機関が少ないことから、東京など各地から患者さんがいらっしゃいます。

 また、当院には町で唯一の透析施設があります。新病院では「糖尿病・生活習慣病センター」を開設し、外来、入院ともに受け入れを強化。これら脊髄損傷、糖尿病を中心に障害者病棟を活用し、紀州南部におけるリハビリテーション拠点の役割を確立していきたいと考えています。

 もう一点、新病院の敷地の一画に、社会福祉法人和歌山県福祉事業団が運営する重症心身障害児者通所施設がオープンします。那智勝浦町と新宮市、太地町、古座川町、北山村、串本町を含む東牟婁エリアにはニーズは高いものの、これまで重症心身障害児者のケアを担う施設がほとんどありませんでした。

 施設と当院が連携を図り通所リハビリテーションやレスパイト入院などに対応します。社会的に弱い立場にいる方にとってやさしい病院を今後の方針の柱としています。

ー職員も新鮮な気持ちで働けるのでは。

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 ハード面が刷新されても、大事なのはそれに見合うだけのソフト面の充実です。患者さんは大いに期待して来院されるわけですから、ギャップがあってはいけないと肝に命じています。

 患者さんの満足感や治療の成果を引き上げるのは、他者の目線に立ったほんの小さな心遣いだと思います。2013年、私が当院に赴任した直後に「医療コミュニケーションアカデミー(MCA)」委員会を設立しました。医療者間、医療者と患者さんの良い関係づくりの促進や、職員のストレス低減とやりがいの醸成を目指し、コミュニケーション能力の向上を図るものです。大学病院のドクターなどを講師に迎えて定期的に研修会を重ねています。

 出発点は、私が副会長を務める日本臨床コーチング研究会が提唱する医療コミュニケーション技術の手法を取り入れてみようとの発想でした。

 まず、当院には理念や基本方針といったものがありませんでした。なかなか他の部門のスタッフとじっくり話をする機会もなく、意識のベクトルを合わせるのは難しかったのです。そこで、理念や基本方針を「みんなでつくってみよう」と呼びかけました。

 現在の理念である「私たちは医療人としての倫理を守り、皆様から信頼され、やさしさといたわりと、そして心に寄り添う医療を提供します」は新病院オープン後の私たちの役割を強くイメージして作成したものです。

 そして基本方針の一つには、MCAで学んだ成果を常に振り返ることができるよう「コミュニケーション能力の高い魅力的な医療人を育成し病院の発展を目指します」を盛り込みました。何かがうまくいかないと感じたとき、理念や基本方針に照らし合わせて考えてみれば、答えを絞り込む手がかりになる。そんなふうに捉える職員が増え、自発的に動こうという意識も芽生えてきたのかなと感じています。

 例えば、開院に向けた課題の一つである看護師の確保を解決しようと、多職種によるプロジェクト「チーム本マグロ」が始動しました。看護部をはじめ理学療法士、臨床検査技師、事務職がチームとなって就職説明会を開いたり、情報収集のネットワークを広げたりして精力的に活動しています。これも看護師の不足が「誰かの問題」ではなく「自分たちの問題」だと認識していることの表れだと思います。

 私個人としてのモットーは「おかげさん」の気持ちです。仕事で何かがうまくいったのなら、それは誰かが支えてくれたから。そんな他者をおもんぱかり感謝するマインドを基盤にできていれば、建物の新しさなどに左右されない「いい病院」になれるに違いありません。

那智勝浦町立温泉病院
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町天満483-1
TEL:0735-52-1055
http://www.nkhsp.sakura.ne.jp/


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