島根大学医学部麻酔科学 齊藤 洋司 教授

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求められるのは「全身管理」という視点

【さいとう・ようじ】 鳥取県立米子東高校卒業 1983 島根大学医学部卒業 同大麻酔科入局 1987 米エール大学留学 1999 島根大学医学部麻酔科学教授

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◎麻酔に関わる三つの領域

 元々は手術の麻酔を担うところからスタートした麻酔科という領域ですが、その前の診療段階で呼吸や循環、肝臓といった様々な部分とバランスを取りながら管理できないと麻酔に行きつかないことがわかってきました。

 そこで出てきた考え方が「全身管理」というものです。麻酔は全身管理を基盤としているところに一番の特徴があります。本学の麻酔科学はその全身管理という視点に立って、三つの分野を担っています。

 一つは周術期の全身管理を行う「麻酔管理」、次に全身状態の悪い患者さんを集中治療管理する「集中治療」、そして、痛みの緩和を行い、患者さんの生活の質を向上させることを目指す「ペインクリニック・緩和ケア」です。

 急性期から終末期まで、麻酔科学の中で全部を担うことができているのが本科の特徴と言えるのではないかと思います。

◎集中治療部と緩和ケアの方針

 集中治療部が有する14床は大きな手術の術後、人工呼吸や補助循環装置などを必要とする重症患者が入室します。予定手術では食道亜全摘、肝臓手術をはじめ各科が行う侵襲の大きい手術の術後管理を担当しています。

 緊急入室症例も多く急性呼吸不全、敗血症性ショックなどの急性循環不全、DICなどの急性期病態の診断、治療、全身管理が主な役割です。

 ペインクリニック・緩和ケアでは薬物療法を中心に、神経ブロック療法、光線療法など洋の東西を問わず効果のある療法を組み合わせて、患者さんの症状緩和に努めています。

 扱う疾患は、帯状疱疹痛、椎間板ヘルニアなどの筋骨格系痛、三叉神経痛、術後遷延性痛、複合性局所疼痛(とうつう)症候群、がん性痛と多岐にわたります。

 緩和ケアセンターの中には緩和ケア病棟(21床)も用意しており、麻酔科が中心となって運用しています。

◎現在取り組んでいる研究テーマ

 全身管理の基盤となる研究テーマは呼吸管理、痛みの管理、循環の管理などいくつかあります。われわれが大きなテーマとしているのは、やはり痛みの管理。また、全身管理などの観点から「呼吸管理」「感染症」の予防や対策も非常に重要だと考え、研究のテーマにしています。

 ただ、呼吸なら呼吸、痛みなら痛みだけを取り出して研究しても、その効果は十分とは言い難いものがあります。全身管理という大きな枠組みの中で研究することの重要性を科の中で共有するよう心掛けています。

 痛みの研究で言うと、痛みを制御する体内のシステムが複雑なためにテーマが多数あります。

 例えば、痛みの治療に使われる「オピオイド」はオピオイド受容体に結合して鎮痛効果を発揮する薬で、効き方、効果が出る量などは異なる場合があります。

 今は「オピオイドを投与した時に受容体はどう動くのか」という点を調べる基礎研究を動物実験で進めています。現在は痛みの性質によって薬を使い分けることができつつある段階。どの研究も同様ですが、成果を臨床の現場にフィードバックすることを念頭に進めていきたいと思います。

 「痛み」というのは主観であり客観的に伝えるのは困難です。しかし、その問題に立ち向かうべく、痛みが原因で起こってくる行動から、痛みを考えるということにも挑戦しています。

 痛みがあると気分が滅入って本来の行動ができなくなります。痛みで生活の質がどう損なわれるのかを突き詰めていく新しい研究です。ここでも全身管理という視点が求められます。

◎麻酔医療を担う人材の不足

 この20年〜30年で、医療に関わるさまざまな制度や枠組みが整ってきました。そうすると、これを担う人材が必要になってきます。

 現状、麻酔科医の数は増えています。ところが、ニーズがそれ以上に増えて必要数が追い付かないのです。例えば、がん対策基本法で拠点病院は緩和ケアチームを整備することが明文化されましたが、そこでは痛みの専門家として麻酔科医が求められています。

 また、増え続ける在宅医療の現場でも麻酔科医がかかりつけ医としてそのニーズを満たす方向性にあります。そういった状況を目前にしたとき、私たちができるのは一人でも多くの質の高い麻酔科医を育てていくことだけだと認識しています。

◎科をあげて「核」として取り組む教育

 本科でも教育には特に力を入れています。たとえ麻酔の専門家にならなくても、全身管理の視点を持つことはすべての医療者に必要だと思っています。そのため、全身管理の考え方と臨床の現場に即した教育プログラムを実践しています。

 5年次は麻酔、集中治療、ペインの三つの部門すべてを経験。6年次はそれを踏まえて臨床参加型にしています。

 その際、必修にしているのが事前セミナーです。ここでは、医療面接を実施したり、気道確保をシミュレーションで実践したりするほか、学生同士がグループを組んでトレーニングもします。医師、患者、家族といった役割をそれぞれがロールプレイングして実習、臨床へと移るのです。

 特に患者役をすることで気付くことはすごく多いですね。事前セミナーで学生たちの意識とスキルを高めることができていると実感しています。

 この取り組みは2017年度の島根大学優良教育実践表彰で評価をいただきました。

◎「ケア」という言葉が使われる意味

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 麻酔科の専門性とは「全体を見る」こと。他の科は専門領域を極めていきますが、麻酔科は広く診るという専門性が求められています。よって、患者さんの全体が診たい、全身管理をして患者さんの生活を支えたいという人が向いていると思います。

 「緩和ケア」という言葉にもあるように麻酔科では「ケア」という言葉がよく使われます。専門的に「治療をする」というより、患者さんを一人の人間として「ずっと気にかけ、全体的に支える」という姿勢が麻酔科には特に必要なのではないでしょうか。

 この10年、麻酔領域で言われているのは、低侵襲手術、インターベンションにおける全身管理で活躍することが増えるのではないかということです。

 時代背景もあります。高齢者が増加すると、重篤な疾患を抱えているケースも併せて増えてきます。すると手術ではなく、低侵襲を選択することも増えてくるはずです。

 ただ手術にせよインターベンションにせよ、リスクの高い患者さんが増えることに変わりはありません。全身管理のニーズはこれからますます増えていくでしょう。感染症のリスクは高まりますし、高齢者ならではの問題も次々と顕在化してくるはずです。

 そして、手術による侵襲が低減されたとしても、手術が終わったらそれで終わりというわけにはいきません。大事なのはその後です。

 「ケア」という言葉には術後も含まれています。全身管理という視点で、患者さんが元通りの生活を送ることができるよう意識した全身管理を行う。そんな真のケアができる麻酔科医を育てていきたいと強く思っています。

島根大学医学部麻酔科学
島根県出雲市塩冶町89-1
TEL:0853-23-2111(代表)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/anesth/


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