病院の強みを生かした「同時進行」の専門研修
新専門医制度が間もなく始まる。各基幹施設が独自の専門研修プログラムを用意する中、中規模病院は強みや魅力をどう打ち出そうとしているのか。内科を強みとする中国中央病院の方向性を聞いた。
―近年の状況をどのように感じていますか。
2016年4月の病院長就任以来、福山・府中二次医療圏の基幹病院として病診連携、救急医療の充実に努めてきました。
「地域の困っている患者さんすべてを助けることのできる病院を目指そう」を合言葉に医師、看護師をはじめとする受け入れ体制を拡充。2016年におよそ600件だった救急車の受け入れ台数は、昨年約1200件になりました。
この4月、当院は地域医療支援病院に承認される見込みです。近隣の病院や開業医の先生方との関係も深まっていると感じていますので、地域内の連携はいい方向に進んでいるのではないかと思います。
当院は、1961年に結核患者の療養所として開院。内科領域を主体に診療科の幅を広げ、総合病院として発展してきました。強みの一つである血液内科では、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を中心に、造血幹細胞移植にも積極的に取り組んでいます。広島県東部地域で造血幹細胞移植が可能な施設は当院だけです。
また、全国規模の新規薬剤の開発治験や臨床研究プロジェクトへの参加実績は国内でもトップクラス。現在もさまざまな案件が動いています。
私の専門でもある呼吸器内科・腫瘍内科の分野は、9割近くを肺がん患者さんが占めています。胃、大腸、乳、子宮を加えた5大がんを含め、広島県指定がん診療連携拠点病院として、地域のがん医療への貢献も当院の重要な役割です。
年間でおよそ6800件の人工透析を担う糖尿病・腎臓内科や、東部地域では数少ない、膠原(こうげん)病の治療に対応できるリウマチ・膠原病内科を有していることも当院の特徴でしょう。
内科の得意分野を伸ばしていくとともに、総合病院としての機能をより強固なものとしていきたい。地域の基幹病院として偏りなく、全診療科が質の高い医療を提供できるようになることが今後の方針です。
―内科専門医制度研修プログラムの特徴は。
当院を基幹施設として連携施設に脳神経センター大田記念病院と福山循環器病院、特別連携施設として神石高原町立病院と府中市民病院で研修施設群を構成しています。
今回の新専門医制度で基幹施設となっているおよそ550の医療機関のうち、300床未満の規模で基幹施設の要件を満たしている医療機関は当院を含めて40ほどです。
福山・府中二次医療圏の人口は福山市、府中市、神石高原町を合わせておよそ52万人。福山市の中心部はコンパクトシティーとしての整備が進み、利便性も高いのですが、北部エリアについては高齢化、過疎化が顕著な状況にあります。
当院のプログラムはコモンディジーズから高度な専門性が求められる急性期医療まで、豊富な経験を積むことを重視して組み立てました。
各領域をバランスよく学んでもらうために、研修医は内科部門をローテーションしていく方式ではなく、「内科全科の研修を同時並行」で受けることになります。
常に多様な疾患の診療に携わることで、ある領域の診療から遠のいてしまう「空白期間」をできるだけつくらないことを目指しました。
また、各科に長く関わることによって、1人の患者さんとじっくりと向き合える機会も得られるでしょう。総合的な診療能力が身に付くのではないかと考えます。
―専門性を高めたいというニーズにはどう応えますか。
専攻医の希望などを考慮した上で、専門研修3年目(卒後5年目)にサブスペシャルティ領域の研修を並行してスタートすることができます。当院には血液、呼吸器、糖尿病など七つの内科サブスペシャルティ領域の専門医が在籍しており血液、呼吸器、腎臓、糖尿病、アレルギー、リウマチ、消化器の研修が可能です。神経領域については大田記念病院、循環器領域は福山循環器病院での研修です。
へき地医療拠点病院である神石高原町立病院または府中市民病院では4カ月間、高齢者医療を中心にした地域医療を学んでもらいます。
複数の疾患をもつ高齢者を診療することで全身を診る視点を養うことができますし、在宅医療の現場や、地域を支えているかかりつけ医、介護職との関わりの重要性なども実感できる場となるでしょう。
指導や宿舎の改装なども含めた生活面まで、できる限りの受け入れ体制を整えました。当院で勤務するおよそ50人の医師のうち、内科医は半数を超えています。277床の中規模病院ながら、診療の質は大病院にも引けをとらないという気持ちをもっています。
その特色を生かしたプログラムが出来上がったと思いますし、3年間の研修期間であらゆる症例を経験することができます。今後は、もっと積極的に当院の研修環境の魅力をアピールしていきたい。
組織にとって若い力は不可欠です。院内に活気をもたらしてくれるのはもちろんですが、カンファレンスなどでは、若い医師たちは実に熱心に勉強していると感心させられます。その意欲に応えるために、私たちも知識や技能を高めようという気持ちになり、相乗効果が生まれることが期待されます。
―人材の育成についてどのような考え方を。
内科医に限ったことではありませんが、医師にとって何が大切かというのは、突き詰めていくと患者中心の医療。近年医師の長時間労働が取りざたされていますが、どんなに忙しい状況にあっても、困っている患者さんの気持ちをおもんぱかって、支えることのできる存在であるべきだと思います。
優しさは患者さんだけでなく、ともに働く職員にも向けてほしいと思っています。いい医療を提供するためには、医療スタッフの関係が良好であることが前提です。
例えば私は、院長就任時の目標の一つに「気軽に話せる関係性の構築」を掲げました。院長室の扉を開けておくと、若手からベテランまで、さまざまな職種のスタッフが訪れます。新しい提案の相談もあれば、不満もある。仕事と家庭の両立など、働き方に対するスタンスも以前とは違う。だからこそ、できるだけ多くの声を直接聞きたいと思っています。
その中で、風通しのいい職場をつくっていくのが私の役割。雰囲気の良し悪しは、患者さんにも必ず伝わるものです。受診の満足度を左右しますし、病院にとっては、離職率にも関わる大事な点でしょう。
―院長の座右の銘は「和して同ぜず」ですね。
他者と協調しつつも何もかも無責任に賛同するべきではない。孔子の有名な言葉の一つで、会議などで折に触れて口にしています。
「中国中央病院に行けば安心」と地域のみなさんに思ってもらえる。私たちも、自信をもって受け入れることができる。そんな病院を目指し、互いに意見を述べ、進化していける組織でありたいと思います。
連携の推進で紹介率、逆紹介率は向上。昨年、耳鼻咽喉科や脳神経外科などに常勤医が加わり、この春には、さらに外科も充実する予定です。基幹病院として、当院にしかできない診療を―。その準備は着々と整いつつあります。
公立学校共済組合 中国中央病院
広島県福山市御幸町上岩成148-13
TEL:084-970-2121
http://www.kouritu-cch.jp/