災害医療の拠点として県南地域を支える
東部、西部、南部の各地域に三つの県立病院を持つ徳島県。県南地域の急性期医療を担うのが2017年5月に新病院を開設した徳島県立海部病院だ。
◎津波被害に備え高台への移転を決定
新しい病院は県南地域の災害拠点病院としての役割を果たすため、津波浸水想定区域の外で海抜15.6mの高台に移転しました。
1984年に建設した旧病院も、新耐震基準に沿って災害への対応はしていました。しかし海抜2.4m、海岸から約500m。津波の遡上(そじょう)が予想される牟岐川に隣接しているため、南海トラフ巨大地震が起こった場合は、災害拠点病院としての機能が果たせなくなるのではないかという懸念がありました。
築30年を目前としていた2011年、東日本大震災が発生。津波による被害を受けない高台での新築計画への要望が高まりました。
2012年8月に新病院の整備方針を策定。災害が発生しても病院機能に影響がない病院造りを目指しました。
◎災害拠点病院ならではの特徴
新病院は6階建てで免震構造になっています。旧病院にはヘリポートがなかったのですが、新病院では病院棟の屋上と、隣接する立体駐車場の屋上の2カ所にヘリポートを設置した点が大きな特徴です。
平常時は病院屋上のドクターヘリによる救急患者の受け入れに力を入れています。
災害時には道路の寸断などによって、陸路では職員や救助隊が病院に来ることができない可能性も考えられます。
そこで、立体駐車場の屋上は自衛隊や海上保安庁などの大型ヘリコプターが離発着できるようにしました。
また、津波が押し寄せても、大型ヘリで運ばれてきた救援物資や負傷者を病院棟に搬入できるよう、立体駐車場と病院棟の2階部分を連絡通路でつなげました。
被災者への医療活動の際には、診察室や処置室が足りなくなることも想定されます。そのような場合に、廊下などでも処置できるよう廊下幅を広めにするなどの工夫を凝らしました。
病院棟屋上には自家発電装置、太陽光発電、蓄電池設備などを配備。停電時も7日間は病院機能を維持できる医療用電源も確保しています。
2階の講堂と、その隣のリハビリテーション室は、災害時には「負傷者治療受け入れスペース」になります。
また、講堂やリハビリ室、廊下など院内の各所に医療用配管を設置して災害時に備えています。
当院は110床で、そのうち個室が30床。有事の際には12床がICUに転換できます。
廊下の壁などに設置された医療用配管がむき出しになっているので、壁掛け用のアートで、30カ所程度をカバーしています。県南産の海草などを利用したオブジェで、患者さんの癒やしにもなっています。
◎県内の医師養成へ研修施設などを整備
当院は海部郡3町と高知県東部の一部の医療をカバー。海部郡の人口は約1万9900人、そのうち65歳以上が人口の約46%を占めるなど、高齢化、過疎化が進行しています。
郡内の医師不足は深刻です。当院も常勤医師の退職が相次いだこともあって、土曜日の救急受け入れが中止になるなど大きな影響が及んだ時期もありました。
しかし、県立中央病院や徳島大学病院などによる診療の応援体制ができたり、徳島大学の寄付講座が2010年に開設されたりといったことによって、危機を回避してきました。
また徳島県内の医師を養成するための拠点施設となる「地域医療研究センター」が2007年、当院に設立されました。センター設立後は、年間約100人の徳島大学の医学生の研修を、当院で受け入れるようになりました。
新病院には地域での診療や研修の指導に携わる医師のための宿泊施設を整備。医学生には、シャワー室などを整備した宿泊施設や研修室を新設。できるだけ気持ちの良い環境で学んでもらいたいと考えました。
将来的には、ここで育成した総合診療医が、県南の地域医療を支える人材になることを期待しています。
また、日本内科学会、日本感染症学会、日本呼吸器学会といった学会の専門医の研修施設に認定されており、実績も上がっています。今後も専門医の養成に力を入れていきます。
◎海部・那賀モデル連携して医療を提供
公的な医療機関が連携して医療供給体制を構築しようと、「海部病院」「美波町立美波病院」「海陽町立海南病院」「那賀町立上那賀病院」の四つの病院による「海部・那賀モデル推進協議会」を2015年11月に作りました。
2016年12月には牟岐町、美波町、海陽町、那賀町の4町と県が同モデルの推進協定を締結しました。
協定では、医師をはじめとした医療従事者の人的交流、ICTによる各施設のネットワーク化、診療材料や医療機器の共同購入といった施策を盛り込んでいます。今後も4病院の病床計237床の効率的な運用を目指します。
新病院に移転する際には、救急患者の受け入れを3日間停止しました。その間は海陽町立海南病院に救急患者を受け入れてもらって、同院のスタッフと、当院から派遣したスタッフが協力することで乗り切ることができました。
地方の病院は、医師不足が影響し、単体では生き残れない時代だと考えています。
県立病院として、他病院との連携を進めながら、今後の地域医療を守らなければなりません。県南地域医療の「最後の砦(とりで)」の役割を果たしていきたいと考えています。
◎地域の医療ニーズに応えていくために
患者さんにとって「できる限り住み慣れた地域で過ごしたい」という気持ちは自然なもの。その思いに応えるため2009年度に訪問看護、2010年度には訪問診療、訪問リハビリテーションを始めました。
訪問看護は年間3000件程度実施することができ、在宅看取(みと)りについても累計約100件に対応することができました。急変時の緊急の往診や入院の受け入れも24時間365日の体制で実施しています。
地域医療構想を実現するためにも、回復期の患者さんに対応できる施設が必要です。当院では、2017年2月に地域包括ケア病床を10床開設。急性期後の患者さんを受け入れています。
今後も地域包括ケア病床のニーズは高まると予想されますので、増床を検討しています。将来的な病院運営の課題の一つとして力を入れていきたいと考えています。
徳島県立海部病院
徳島県海部郡牟岐町中村杉谷266
TEL:0884-72-1166(代表)
http://133.242.186.80/