藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 西田 修 主任教授

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仕事の幅広さが魅力

【にしだ・おさむ】 大阪府立大手前高校卒業 1986 名古屋市立大学医学部卒業 2002 名古屋市立大学助教授2003 愛知厚生連海南病院集中治療部・麻酔科・手術部部長 2008 藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座教授 2009 集中治療部長兼務 2015-2016藤田保健衛生大学病院副院長兼務

 3月で開設10年を迎える藤田保健衛生大学の麻酔・侵襲制御医学講座。手術室にとどまらない守備範囲の広さを伝えることで、入局希望者が続々と集まっている。

◎講座開設から10年

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 初代教授として講座を開設して、3月で10年。当初は私を含めた3人だけだったのですが、9年間で45人に増えました。

 もともと、この病院にはSICU(外科系集中治療室)しかなかったのですが、開講翌年にSICUを閉鎖。内科系、外科系を問わない集中治療部(ICU)につくり替えました。

 2015年には新棟移転に伴い18床の新ICUを開設。非常に厳しい基準をクリアしなければ認定されない集中治療加算1が算定できる、いわゆるスーパーICUです。透視室も設置するなど他のICUにはない高度機能も装備。全国でも数少ない集中治療医(麻酔科医)が中心となって運営するクローズドシステムの管理体制です。カンファレンスも集中治療医だけでなく各科の医師、染制御部の責任医師、看護師、薬剤師、栄養士、臨床工学技士など多職種が参加してそれぞれ専門的意見を出し合います。

 院内での急変、重症化に素早く対応するMET(メディカルエマージェンシーチーム)も麻酔科医が請け負い、ホットラインでのコールを受け、緊急バッグを持って病棟や外来に駆け付けます。バッグには蘇生に必要な一式以外に、超小型のエコーや血液ガス分析装置も入っています。初期対応後、必要に応じて患者をICUに移送。満床の場合は、16床あるHCU(高度治療室)も含めたベッドコントロールを行い収容します。両室とも麻酔科の管轄内なので、スムーズに作業を進められます。

◎手術室に閉じ込めない

 私は全身管理がしたくてこの道に進みました。「麻酔科」というと、手術麻酔のイメージだと思います。しかし、実際には麻酔科医はあらゆる全身管理を担当。研修医も初めは「こんなにいろいろなことをやっているのか」と驚きます。

 以前、勤めていた病院では、集中治療部の設立を任されました。地元の消防と協力し、緊急用の直通電話に連絡が入るとドクターカーを現場に急行させる仕組みもつくりました。

 ある日の早朝、産廃処理工場で事故があったと消防から連絡を受け、麻酔科医2人を向かわせました。現場では、巨大シュレッダーとでも呼ぶべき処理機に作業員が落ち、両足のひざから下を挟まれた状態。機械の解体には半日以上かかるため、機械を逆回転させて救出することに。相当な痛みが伴うことは間違いなく、全身麻酔が必要でした。

 ただ、座った姿勢の作業員に、足場が不安定な場所で、対面で気管挿管をするのは困難なため、呼吸・循環抑制の少ない静脈麻酔薬のケタミンを施しました。呼吸を止めない適切量での管理は麻酔科医ならではの知識と技術です。その後、作業員を救急車に乗せて病院へ戻り、今度は手術室で「麻酔」という名の全身管理を行い、ICUに移った後は「集中治療」という名の全身管理をシームレスに継続しました。

 私は、麻酔科医を手術室に閉じ込めていてはいけないと思っています。活躍できる領域はとても幅広い。それを伝えれば、自然と医局に人が集まってきます。

◎教育こそすべて

 臨床だけでなく、教育も非常に重要だと考えています。ここには、教えることが好きな医師が多くいます。しかし一方的に伝えるだけでは効果は少ない。学生の側に「とにかく質問をするように」と促しています。

 例えば、学生が「この麻酔にはなぜこの薬が入っているのだろう」と疑問に思えば、まず若手医師に聞く。もし若手もわからなければ、さらに上の医師に聞く。どうしてもわからなければ、最終的に私のところに来ます。そうすれば、全員が勉強するようになります。

 学会発表や論文執筆も推進。2016年は医局員が100回以上の学会発表を行い、その中から国際賞に三つ、国内賞に一つが選ばれました。発表や執筆を促すために金銭的サポートや指導体制も充実させています。

 ICUカンファレンスにも、教育的な意義があります。後期研修医がプレゼンテーションをし、上級医から質問を受けます。さまざまな議論が交わされ、学習の場となっています。また勉強会も頻回に開いています。自分たちで講師役を務めることもありますし、年に数回は第一線で活躍する人を招き講演をしてもらうこともしています。

◎非常に低い死亡率

 このICUでは、基本的に麻酔科が治療方針を決めて実行することができます。どういう処置の後、どんな結果になったかという検証が科として可能で、分析結果を後に生かすことができます。

 患者の重症度から予後予測をする計算方式で算出すると、2016年度の予測死亡率は19.7%でした。しかし実際のICUでの死亡率は1.7%。助かる可能性が低いとされる多くの症例で、救命できているということです。他科の先生からも信頼を得られるようになり、重症化する前から症例相談やICU入室依頼が来るようになりました。

 麻酔科医は、危機管理の観点から、よくパイロットに例えられます。あらゆるリスクを評価し、何が起きても想定範囲内に収めるために、準備を整えておく必要があります。どの科にも偏らず中立的な立場でいることも重要です。その時、何が一番重大な問題なのかを見極め、どこからどういう順序で対応していくのかを考えます。手術の際に、執刀医の指示通りにすると患者の命が危ないと思われれば、制することもあります。コーディネーターとして、客観的な判断が求められます。

◎最先端のECMO

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 ここには、人工肺とポンプを用いた体外循環によって重症呼吸不全患者または重症心不全患者の生命を維持する「ECMO(エクモ)」の装置が2台あり、常時稼働しています。他施設では治療困難とされるような重篤な症例でも、できる限り対応したいと思っています。

 従来の人工呼吸は、酸素を強制的に押し込むため、障害を受けている肺にさらに負担をかけてしまっていました。この点、ECMOは肺を休ませることで自ら回復する時間をつくります。

 この治療法は、新型インフルエンザにも有効とされています。将来の発生に備えて、厚生労働省の指導の下、日本呼吸療法医学会と日本集中治療医学会が2012年にECMOプロジェクトを発足させました。治療成績向上のため研究を進めています。当院は多くの症例経験があるため、同プロジェクトの中核施設になっています。

 数年前からは、鎮静薬を中断し、意識がある状態で肺のみを休ませる「awake ECMO」も導入しています。患者は、装置につながれたまま読書をしたり、立ち上がったりできます。家族や医療スタッフとの対話を通じて精神的なサポートが可能です。医師だけでなく、臨床工学技士や看護師などスタッフに高度な知識と技術があるからこそ可能なチーム医療です。

 そのほか、血液浄化や術後超早期からの栄養管理、急性期呼吸リハビリも治療の柱にしています。

 全科の中で、全身管理については麻酔科医が一番のスペシャリスト。ここで数年働けば、全身管理の技術が身に付き、その技術はどの科にいっても役立ちます。どの道に進むか迷っている人は、まず麻酔科に来るといいと思います。

藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座
愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98
TEL:0562-93-2111(代表)
http://fujita-accm.jp/


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