ポテンシャルはもっと引き出せる
富士山、箱根連山を望む風光明媚(めいび)な地で1955年、御殿場市の誕生とともに富士病院は開院した。変化し続ける医療情勢は、今、同院にも大きな変革を迫っている。園田紀夫院長は「院内外で本当のチームをつくり乗り切りたい」と語る。
―専門は乳腺外科。
60年を超える歴史の中で、受け継がれてきた特色の一つといえば「職員がやりたいことを応援する」病院であることでしょうか。
私が国立熱海病院(現:国際医療福祉大学熱海病院)から当院に移ってきたのは2002年。国が推進するがん対策の一環として、マンモグラフィーによる乳がん検診が導入されて少し経ったタイミングでした。新たな制度の開始は、私にとって非常に大きな転機だったと思います。
10年間勤務していた熱海病院では主に乳がんの治療に携わりました。医師になった当初は、消化器がんに関心があり、胃がんや大腸がんといった「メジャーながん」に気持ちが向いていました。乳がんは、どちらかといえば、マイナーな部類だとされていたのですね。
それがたまたま研修医時代に、乳がんに力を入れていた病院に勤めて関心をもつようになった。生検などをずいぶん経験させてもらいました。
年々、熱海病院での乳がんの手術件数は増加。抗がん剤治療などの進化も目覚ましく、知識もどんどん広がっていきました。そこで「このまま続けていこう」と、この領域を専門にすることを決めたのです。
富士病院で働き始めたころには検診制度の後押しなどもあって、まさに乳がんのり患率が「急増している」という印象を受けました。当院でも早期発見と治療にもっと力を入れていこうと、当時の院長だった若林庸道先生(現:理事長兼名誉院長)の理解もあって、最新鋭のマンモグラフィーや、超音波診断装置を導入。継続的な機器の充実を図り、乳腺МRI、トモシンセシス(3D撮影)、マンモトーム生検など、より高度な検査に対応できる環境整備に努めています。
―重視しているのは。
当院での乳がん発見は平均して年間40例ほどです。昨今、検診への啓発がずいぶん盛んであるにもかかわらず、「がんが見つかったらこわい」などの理由で受診しない人は少なくありません。ひどい状態になってようやく病院にいく。そんな方が一定数見られます。
言うまでもなく、根治を目指す上で大切なのは早期発見です。日本人女性にはやせ型であっても高濃度乳房が多いと言われています。各検査機器の特性を把握し、うまく組み合わせて使いこなすことが重要です。
私は「見落としは医師の責任」だといつも自分に言い聞かせています。検査技師が発見できなかったがんも、私がしっかりと疑いの目をもつことで見落としを防げるかもしれない。診察室にも超音波診断装置を設置するなど、少しでも怪しいと思ったら徹底的に調べることを心がけています。
富士病院に15年ほどいる間に、ここ御殿場市にお住まいで私が乳がんの治療を担当した患者さんも増えました。年間20例として約300人。病院内外で、よく「先生に治してもらいました」と声をかけてくださる方とお会いします。
がんのイメージは少しずつ「治せる病」へと変わってきましたが、すべての症例が根治に至るわけではなく、再発の可能性もある。そんな不安と闘いながら生活している人に必要なのは、医師がしっかりと不安を受け止めることではないかと思います。できるだけ乳がん患者さんの集まりや勉強会などに参加して、みなさんの声を聞くようにしています。
―これからの富士病院をどのような方向に進めていきますか
当院は全面的な増改築と耐震化を施して2014年にリニューアルオープン。各種検査機器を中心に手術室、ICU、化学療法室などを拡充し、現代の急性期医療に対応できる体制へと一新しました。
2016年8月に院長に就任し、1年半近く。機能が充実した一方でソフト面はもっと伸ばしていく必要がある。職員のポテンシャルはまだまだ引き出せるのではないかと感じています。
法人の医療機関としては急性期を担う当院のほか、一般病床と介護療養病床を有するケアミックス型病院の富士小山病院(静岡県小山町)、高度な透析センターの機能をもつ東部病院(同御殿場市)があります。
在宅医療の領域では訪問看護ステーションごてんば、そして軽度認知症の要介護者を対象としたグループホームごてんばを運営しています。
また、2017年4月に、共立産婦人科医院の運営を引き継ぎました。市内で唯一、お産に対応できる機関です。
御殿場市には公立病院や公的病院が存在しませんので、私たちグループが地域医療をけん引する立場にあります。法人内の各機関の役割の明確化と相互の連携とともに、他の医療機関との「顔の見える関係」づくりも、ゆっくりとではありますが前進しています。
公益性を最優先に考えた急性期医療を提供していく中で、運営的には楽観視できない状況にあることも事実です。まず乗り切るべきは診療報酬と介護報酬の同時改定。市民の期待に応えつつ黒字化を達成するための布石として、第一に職員のごく基本的な意識の底上げに取り組んでいます。
例えば外部から講師をまねき、患者さんに対する礼儀やマナーの研修を続けています。当院には長い歴史があり、職員が自由に働ける風土を培ってきたわけです。反面、客観的に当院を眺めたときに「自由すぎる」点、改善すべき点があるのではないか。それを洗い出すのが目的です。
医療は毎日同じことを繰り返す仕事ではありません。朝のあいさつや細かな言葉遣いに配慮が求められる。本当に根本的なことですが、病院を進化させていくための新たなスタートであるともとらえています。一部の部署では職員の言動に明らかな変化が現れました。いずれ全体にも波及するでしょう。
―電子カルテの運用も始まりました。
2017年7月から段階的に導入し、10月、本格稼働しました。予想していたよりも大きな混乱もなく、これからDPCの採用に向けた準備を進めていきます。
当院の課題の一つは病床稼働率が伸び悩んでいること。電子カルテ導入を機に、患者さんのスムーズな入退院や、かかりつけ医との情報共有などが促進されています。
先行して当院は2015年3月、ICTを活用した地域医療ネットワークを稼働させています。検査や診断情報の迅速な共有化に向けて、まずは私たち自身が電子カルテを十分に使いこなし、より有機的なネットワークへと成長させていきたいと思っています。
看護師の採用に苦戦していた十数年前と比較すると、2005年に御殿場看護学校が創設されたことで、人材の確保はかなり改善されました。私は開校以来、同校の講師も務めています。
もちろん、人数が足りていればいいということではありません。これからの富士病院を支えるのは、やはり人。どんな方針の教育を柱にしていくのか、組織を引っ張っていける人間をどれだけ育てることができるのか。答えを出していきたいと思います。
病院経営が難しい時代が続いている中、あらためて思います。頑張るのは誰か1人ではない。今こそ職員、地域が力を合わせるときだと。
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