小児がん陽子線治療拠点 神戸に新設
全国初の小児に重点を置いた粒子線治療施設「神戸陽子線センター」が12月1日に開設した。副島俊典センター長に開設にあたっての意気込みなどを聞いた。
◎こども病院との連携が強みに
神戸陽子線センターは兵庫県立こども病院と連携しながら治療を進めていきます。
陽子線治療施設と小児がん拠点病院であるこども病院が一体となって治療に当たるのは全国初です。当センターを受診する場合、まずこども病院で外来受診し、陽子線治療の適応となれば当センターで治療を受けます。
照射室は小児専用と、成人用の2室あります。今回導入された陽子線の治療装置は最新型で、一つの照射ノズルからブロードビームとスキャニングの照射ができます。その点が従来の装置と比較して優れており、より精度の高い照射が可能になります。
また、従来の装置では照射する角度を調整する装置「回転ガントリー」が動く際に発生する駆動音が大変大きく、患者さんにとって不快な面もありました。今回導入された装置は駆動音が従来の2分の1程度に抑えられました。
小児専用の照射室には「海の中」をイメージしたデザインを壁に施すなど、子どもの不安をできるだけ少なくする工夫もしました。照射室の外から見守る家族と患者さんが、タブレットを通して話したり、互いの様子を見たりできるような配慮もします。
また、小児と成人、それぞれにエリアと診察室を設ける事で動線を分けています。抗がん剤を併用しているため、免疫力が落ちている患児の感染症防止に配慮しました。
成人の場合、これまでは、当センターの母体であるたつの市の「兵庫県立粒子線医療センター」に行かなければ治療が受けられませんでしたが、当センターでも治療が可能。また、患者さんの要望があれば粒子線治療に関しての相談や診断は当センターでも出来ます。
神戸陽子線センターはこども病院と隣接、廊下でつながっています。こども病院の小児がんの症例数は全国有数ですし、放射線治療においてもノウハウがあります。当センターとの連携はスムーズに進むと思います。
人材の充実にも力を入れました。放射線腫瘍医4人、麻酔科医1人、放射線技師8人、医学物理士1人、看護師は5人でスタートしています。
また、小児がんを専門とする放射線腫瘍医は、国内でも数少ない。今後、医師の養成にも力を入れたいと考えています。
◎小児がんの現状
小児がんの新規患者は全国で年間約2500人いると言われます。そのおよそ3割が放射線治療の適応になりますので、国内の年間の治療対象者は600人から700人います。
成人の場合、がん治療の柱となるのは手術、抗がん剤、放射線治療の三つです。小児の場合も基本的な考え方は同じですが、それぞれの治療を同時に実施する集学的治療が中心となります。
小児がんで放射線治療の対象となる主な疾患は白血病、悪性リンパ腫、髄(ずい)芽腫などです。その他には、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫などもあります。
20歳未満の死亡原因として、小児がんは上位となっています。
小児がん患者の5年生存率は、ここ20年で5割から7割に上がっています。小児がんの場合、症例数が少ないことから臨床試験などを多施設共同で行うことも多く、外科、内科、放射線治療科が連携して治療を進めるケースも少なくありません。
このことが、がん治療の底上げにつながり治療成績が上がっていると考えられます。
◎保険収載で放射線治療にはずみ
2016年4月に、小児がんの陽子線治療が保険適用になりました。これまで、陽子線治療の課題の一つが高額な治療費で、全額自己負担で約300万円かかります。
小児がんに対する陽子線治療は大変有効だと、これまでも言われていましたが、経済的な面で治療を断念せざるを得なかったケースも少なからずありました。保険収載によって経済的な問題がクリアできたことで、陽子線治療にはずみがついたと思います。
◎少ない粒子線治療施設
放射線治療に使われる放射線は「光子線」と「粒子線」の二つがあります。光子線には「エックス線」と「ガンマ線」があり、いわゆる「放射線治療」はこの「エックス線」と「ガンマ線」によるものです。
一方、「粒子線」による治療に使われているのが「陽子線」と「炭素線」。炭素線は「重粒子線」とも呼ばれます。「粒子線」による治療の優れているところは「ブラックピーク」という現象が、がん病巣の近くで起こるという点です。つまり「粒子線」は、腫瘍近くでの線量が最も高くなり、がん病巣以外の臓器への影響が少なくて済みます。
しかし、国内には粒子線治療施設が当センター以外に17施設(2017年12月現在)しかありません。治療を受けたくても、地域に治療施設がないという患者さんも多いのです。
◎陽子線治療が課題を解決
放射線治療はがん治療に有効な治療法です。しかし、合併症が起こることがあり、それが課題の一つでもあります。
しかも、小児への放射線治療の場合、10年、20年先に「晩期合併症」と言われる二次がんの発症の可能性もあり、二次がんを抑えるため、陽子線治療のニーズが高まってきています。
目のがんである網膜芽細胞腫の治療で、エックス線と陽子線の二次がんの発生率を比較した結果、エックス線は治療から5年後には発生率が14%を超えましたが、陽子線はゼロでした
小児がんの場合、患者さんが完治した後のQOLを考えた治療をしなければなりません。妊孕(よう)性温存もその一つ。その点でも陽子線治療は有効な治療法です。
◎科学的データの蓄積による情報発信を
小児がんの治療は、患者本人も大変なのですが親御さんも精神的につらいものです。職員全員で「あたたかい医療」を提供できるよう心がけていきます。
最近はインターネットなどで病気に関する情報を調べ、積極的に治療に関わろうと考える親御さんも多くいます。これに対して、われわれも科学的な根拠を持って、きちんとした情報を伝え不安を払拭(ふっしょく)できるようにしたいと考えています。
当センターには、疾患に関する科学的なデータを集めていくという役割もあります。小児がんは症例数が少ないため、世界的にみてもデータが少ないのが実情です。当センターで、データをまとめ、きちんとした情報を積極的に発信していきたいですね。
兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター
神戸市中央区港島南町1-6-8
TEL:078-335-8001(代表)
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