強固な法人内連携はいかにして成立したか
「30年以上へき地医療支援活動を続けている県認定のへき地医療協力医療機関」を対象とした県の表彰で、山口博愛病院の功績が認められた。地域と向き合っていくために、苅田幹夫理事長・病院長が進めてきた「法人内連携」とは。
ー10月、山口県が今年度創設した「山口県へき地医療功労者知事表彰」を受賞されました。
1986年、防府市の南東14.8キロ㍍の海上に浮かぶ「野島」への医師、看護師、事務スタッフの派遣を開始。島の診療所にいた医師が引退したため、市の派遣要請を受けたのです。
当院の常勤医師4人が交代で診療にあたり、私もその一員です。三田尻港と野島をむすぶ定期便は1日4往復。所要約30分です。夏は比較的穏やかですが、冬場は海が荒れる日も多い。そんな日は、島に向かう船がずいぶん揺れます。
島の方々が船に乗って当院へやってくることもあります。急を要する治療が必要な場合は救急艇で搬送され当院が受け入れています。
現在、野島では76世帯101人が暮らしています(2017年8月現在)。私が当院の院長に就任した2010年当時は130人ほどだったと記憶しています。診察する患者さんは以前に比べると半数ほどに減りましたが、たとえ数人でも必要としている人がいるかぎり、派遣活動は続けていきます。
島の高齢化率は75%近く、子どもは1人もいません。でも、小中学校はあるのですよ。野島は別名「茜島」とも呼ばれていることから、防府市は「茜島シーサイドスクール」と名付けた事業を展開。防府市内の各所から小中学生が船で通学しています。私は校医として定期健診や急な発熱などに対応しています。
島の方が当院に入院することになれば、本土にいるご家族がここに集まってきます。高齢化が進んでいますから、今後はそのようなケースがもっと増えていくでしょう。島の人口はたしかに減少しています。けれども「野島にかかわりのある人々」と当院の縁は、むしろ広がっているとも言えます。
ー地域の医療をどう守っていきますか。
「ときどき入院、ほぼ在宅」への流れが進んでいる中で、野島での診療も含めて、医療と介護はより切り離せない関係になっています。ご自宅に帰っていただくためには医療と介護、両方の視点が必要です。
当法人では老人保健施設「はくあい」居宅介護支援事業所「白雲荘」を開設し、在宅看護支援センター、訪問看護ステーション、ホームヘルパーステーションなどを整備してきました。
法人内の多様な分野のスペシャリストが密接につながり、患者さん一人一人のさまざまな状況を想定したプランを策定。民生委員など地域のネットワークとも積極的に連携し、安心して自宅に戻ってもらうための仕組みを構築しています。
当院に入院するのは山口県立総合医療センターなどで急性期の治療を終えた患者さんが主。年齢層は70代〜90代で、重症度が高い人も少なくありません。その中で在宅に復帰する割合が半数超。施設系を含めると、8割近くが「帰っている」ことになります。
当院と「はくあい」「白雲荘」は道を1本はさんで向かい合う位置関係にあり、新たに患者さんが入院した時点で、各事業所のスタッフが必ず情報を確認して共有します。
日常的に各部門のスタッフの行き来があり顔を合わせていますから、それが事実上の「カンファレンス」の意味をもちます。入院してすぐの段階から、「あの患者さんが自宅に帰る際にはどんなものが必要か」といった会話が交わされているのです。
いわば「入院前」から退院まで、切れ目のない患者さんへの支援が続くわけです。入院後には院内カンファレンスで看護師、栄養士、リハビリスタッフなどが集まり、必要に応じてケアマネジャーと一緒にご自宅を訪問して退院までのプランを煮詰めます。
もちろん、退院時のカンファレンスも多職種でしっかりと話し合っています。この地域や山口市内でも数少ない退院調整看護師が在籍していることも特徴です。
ー運用のポイントはどこにあるのでしょうか。
在宅のための取り組みは、多くの医療機関でも力を入れていることだと思います。ただ、ときおりケアマネジャーから「ここまでやってくれて非常に助かっている」といった評価をいただくことがあります。
退院支援加算や総合評価加算を目的にしたカンファレンスだと、なかなか中身が伴わないというのが私の考えです。地域の実情や病院の機能などを踏まえて、制度を咀嚼(そしゃく)し、取捨選択して取り組みに落とし込んでいく。患者さんやご家族が満足することが第一で、結果的に加算を得ることができる。そこが本質だと思います。
「安心感」の提供は不可欠な要素です。自宅に帰った後、病気になったり、事情で在宅を続けられなくなったりしたら、病院や施設がすぐにバックアップします。受け入れる私たちもグループ全体で患者さんのことを把握できている。法人の内部ですべてをそろえて、「包括ケア」を構築することの利点です。
退院後も当院のリハビリスタッフや看護師、外部のヘルパーなどと協力してご自宅を訪問するなど、生活面のフォローにも努めています。「はくあい」ではショートステイも受け入れています。
山口県内にはまだ緩和ケア病棟が多くはありません。当院でも開設はしていませんが、医師や看護師による訪問診療を中心にして、在宅でも緩和的な治療を提供できる体制を充実させています。
ー今後の見通しは。
現在の当院の方向性は間違っていないと思う。引き続き「当院に本当に必要なものは何か」という観点から、制度を注視していきます。
動きの一つとして、2018年4月に職員と地域の子どもを対象とした「青空保育園」と、隣接して「地域交流センター」を開設します。センターでボランティアを募り、保育士のサポートなどを通じて、地域の活性化に一役買えたらと思っています。病院、保育園、老健が近接していることで、私たちのグループがより生活に密着した役割を担えるようになると期待しています。
私が着任したころの当院は、古くて、とても機能的な病院とは言えませんでした。内外装を工事し、医療機器などをそろえ、効率のいい医療と介護を実践するための準備を進めてきました。
できるだけ前向きにリハビリテーションに取り組んでもらえるよう、各施設内に樹木を植えて外出したくなる環境づくりにも努めました。また、職員にとっても癒やしになればと願って。
患者さんは何らかの疾患があることは当然ですが、治療と同時に不安を取り除いてほしいと望んでいます。まずはちゃんと検査をして診断することが医師の役割ですが、それだけでは患者さんの不安を取り除けないことも少なくありません。
患者さんの思いをくみ取った医療は、「この病院でよかった」という安心感につながる。一緒に悩んで一緒に考える。そんな地域医療に全員で取り組みたいと思います。
特定医療法人 博愛会 口博愛病院
山口県防府市お茶屋町2-12
TEL:0835-22-2310
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