藤田保健衛生大学医学部産科婦人科学教室 藤井 多久磨 教授

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常識を疑え 見聞を広めよ

【ふじい・たくま】 1987 慶応義塾大学医学部卒業1991 国立がんセンター研究所 1996 米エール大学腫瘍内科リサーチアソシエート 2005 慶応義塾大学医学部専任講師 2013 藤田保健衛生大学医学部産科婦人科学教室教授

 藤田保健衛生大学産科婦人科学教室は「リサーチマインドを持った医師の育成」を目標に掲げている。実践主義を重視する藤井多久磨教授が考える人材育成とは。

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◎プレゼンの重要性

 教室員には常にプレゼンテーションの重要性を説いています。患者さんやご家族への説明、論文発表、カルテの書き方、会議での発表、すべてにプレゼンテーション能力が問われるのです。

 プレゼンテーションの重要性を痛感したのは1996年にアメリカのエール大学に留学した時でした。アメリカ人は幼いころからプレゼンテーション能力向上の教育を受けています。一方、日本人は言うことの中身はとても充実しているのですが、表現方法がアメリカ人に比べると下手だと言わざるを得ません。

 世界へ羽ばたくためにはプレゼンテーション能力は必須スキルです。若い人たちに少しでも、その技術を伝えていきたいと思っています。

◎経験を積むこと

 若いうちに海外に行くなどして見聞を広めることはとても大事なことだと思います。

 10代後半から20代前半という人間として大きく成長できる時期に医師国家試験合格だけを目標にするのではなく、視野を広げ、いろんな経験をすることで大きく成長できると思います。

 私の父は考古学者で、イラクで発掘作業をしていました。高校生のころに発掘現場に連れて行ってもらったのですが、飲み水はたまに降る雨水をドラム缶に蓄えたもの。トイレは肥だめ式でした。そのあたりの土を固めたレンガで壁をつくった家に住みながら、発掘をするのです。現地ではそういう生活が普通でした。このような苦労も現地に行かないと決して分かりません。

 ちなみに、今そこで生活している人たちは人類発祥以来、およそ5000年は同じ生活をしているとのこと。住居のレンガは昔の住居、すなわち遺跡からの持ち込みもあるでしょうし、住居自体にあるのかもしれません。生活・文化形成はどのように発展していくのかを初めて実体験をもとに学びました。

 私はアメリカのニューヘイブンにある、エール大学に留学しました。ニューヘイブンは当時、人口10万人以下の都市で、犯罪発生件数が全米ワースト3位と、とても治安が悪い町でした。

 夕方以降は「外出するのを控えるように」と言われる状況。パトカーのサイレンは日常茶飯事、夜になると銃声が聞こえることもしばしばでした。大学に毎日仕事に行くのも命がけです。「なぜ、この地区の治安がこれほど悪いのだろうか?」。これについて、その理由を考えてみることも、アメリカ社会のみならず、人間社会・歴史を理解する上で勉強になりました。

 人間は何事も経験が大事です。海外に行って、いろんな経験を積むことで日本という国が、いかに平和で快適な国なのかを実感してほしい。水や安全は無料だという今の生活は決して当たり前ではないのです。

 医師になったばかりのころ、先輩の話や、うすっぺらい日本の教科書を、うのみにしていました。しかし、経験を積むうちに次第に疑問が生ずるようになってきました。そこで英語の教科書を自ら購入。すると日本の教科書には記載されていないことがたくさんあり、衝撃を受けました。

 その十年後、アメリカの教科書に書いてあったことが日本でも導入されてきているのを目の当たりにしました。自分でどんどん勉強することの重要性を学びましたね。

 だから若い人には先輩から教えてもらったからといって、それをうのみにするような医師になってほしくはありませんね。まずは自分でいろいろと確認してほしい。

 もっとも、今では昔と違い、世界の情報がリアルタイムで入ってくるのかもしれませんが、今度は情報の選別に苦労しますね。これも自ら勉強して、取捨選択する必要があります。大切なことは自分で判断する能力を磨くことです。

◎疾患ごとの撮影方法を

 画像診断ではMRIやCT画像も、放射線科の医師が出してきた報告書をただ読むのではなく、自分でも画像について勉強してもらいたいと考えています。

 たとえば、デジタルカメラはオートモードで撮るのと、シャッタースピードや露出を変えて撮るのとでは写り方に違いが出ます。MRIやCTも同じことです。機械に撮ってもらうという意識ではなく、機械のことを熟知して撮像することが重要です。

 疑われる疾患に合わせた撮像をすることが大切です。整形外科であれば骨にピントを合わせる。婦人科であれば骨盤内臓器にピントを合わせる必要があります。しかし、実際にはその疾患について十分な知識がない人が撮像した画像を、画像の知識がない医師が見ていることが実に多い。

 当教室では放射線科医師をカンファレンスに派遣してもらい、産婦人科専門として読影してもらっています。そうすることで、当然、撮像する技師にも、次回、同じような状態の患者さんが来た時にも対応ができるように最適な撮像条件を設定してもらえます。

 産婦人科では通常、骨盤全体の写真を撮像します。しかし、私たちは子宮がんの患者さんであれば、子宮を中心に撮像してほしいとリクエストします。

 人によって子宮の位置が微妙に右や左にずれていることがあります。ずれがあると断層写真で撮ると、写らない死角ができます。そうすると患部が写らない可能性もあり、適切な診断が下せなくなりますし、結果として、精緻な手術はうまくいかないでしょう。

 画像がうまく撮れるかどうかで治療方針が大きく変わってきます。私は単に与えられた画像だけでは診断しません。料理で言うならば与えられた食材で調理するのではなく、まず「食材を調達すること」を重視しているのです。

◎早期発見早期治療のために

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 子宮頸がんの診断に使う腟拡大鏡「コルポスコープ」というものがあります。1925年にドイツのヒンゼルマンによって開発された100年近い歴史がある機械です。

 日本では1980年代までは盛んでしたが、諸般の理由で、実施する施設が減ってきています。コルポスコープは腟内を拡大して観察できます。肉眼では見つけることが難しい病変も、この検査で発見できます。

 近年、子宮頸がんの若年層の罹患(りかん)率、死亡率ともに増加傾向にあり、一時廃れてしまったコルポスコープが再び脚光を浴びつつあります。しかし、コルポスコープに習熟した産婦人科医が非常に少ないのが日本の現状です。

 がんが子宮頸部にあるのを知らないでお産し、その後、がんが悪化してお母さんが亡くなってしまう。不妊期間が長く、体外受精をして、やっと赤ちゃんを授かったのに実は子宮頸がんであることがわかり、やむなく赤ちゃんが宿っている状態で子宮を摘出する。

 どちらも幸せの絶頂から、一気に奈落の底へ突きおとされるという極端な例ですが、私は、そういう症例を見てきました。本当はそこに治癒が可能な早期病変があったかもしれないのに、発見の機会を逃している可能性があります。

 この点で私は、日本の産婦人科医のコルポスコープの技術向上のために「自分が何かお役に立てたら」という思いを強く持っています。産婦人科医として子宮頸がんの早期発見、早期治療によって一人でも多くの人を救いたいですし、後輩にその技術を伝承していきたいと思っています。

藤田保健衛生大学医学部 産科婦人科学教室
愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98
TEL:0562-93-2111(代表)
http://www.fujita-hu.ac.jp/~obgy9294/


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