歴史を継承しつつ進化を続ける
内田病院は1902(明治35)年に別府市楠町で開院し、1909(同42)年に現在の地に移転。内田研副院長は2013年に整形外科を立ち上げた。
―4年前に整形外科を開設しました。
兄が院長を務める当院に戻ったのを機に整形外科を開設。手術室内の汚染対策のために「クラス1000」クリーンルームを新設。最先端医療機器をそろえました。
開設初日の外来患者さんは7人。不安いっぱいの船出でした。今年度の手術件数は10月末の時点で248件。昨年度の267件を大幅に上回るペースです。変形性膝関節症に対する人工関節置換術の手術件数が増加しているのが、大きな要因でしょう。
今年度の手術件数は350〜400件ぐらいになるのではないかと予想しています。
―変形性膝関節症の治療の特徴を教えてください。
軽症の患者さんにはまず投薬。それからリハビリテーションを実施します。自転車のペダルこぎやプールの中での歩行訓練によって脚の筋力強化を目指しています。
別府ならではというべきでしょうか。当院のリハビリ室には足湯があります。温めることで筋肉がほぐれ動かしやすくなります。また温熱が痛みを和らげる効果も期待できます。
重度の変形性膝関節症の患者さんには人工膝関節置換術を実施しています。人工膝関節置換術は、すり減った軟骨を切除して人工の関節に入れ替える手術です。
人工膝関節置換術には後十字じん帯を温存するCR型と後十字じん帯を切除するPS型があります。現在、多くの病院では手技が比較的容易なPS型が選択されていますが、当院ではCR型を採用しています。CR型のメリットは後十字じん帯が残っているので、膝を曲げるときに、スムーズに動かすことができる点です。
私の手術の特徴は手術時間が短いことです。人工膝関節置換術は通常、両脚で3時間ぐらいかかりますが、私の場合、片脚30〜40分、両脚で1時間程度です。
時間が短いと感染症のリスクを減らせます。これまでに1000例以上の手術をしていますが、感染を起こした患者さんはいません。
感染は大体2〜3%の確率で起こると言われていますが、1000例以上手術して、ゼロだということは0.01%以下の確率だということになります。
整形外科の手術で雑菌が入ると骨髄炎や関節炎になります。人工関節に菌が入ると抜去しなければなりません。
患者さんの負担が少なくて回復が早く、合併症も少なくて済む。手術を丁寧にかつ早く終わらせることは、常に心がけています。
―人工膝関節置換術のメリットとデメリットは。
体内に異物が入るということが最大のデメリットです。また脚にメスを入れることで傷が残ってしまいます。
メリットは痛みを和らげることができる点、転倒しにくくなる点、歩行がしやすくなって活動範囲が広がりQOLが向上する点、脚がまっすぐに伸びて姿勢が良くなる点です。
高齢者が転倒してしまうと寝たきりにつながってしまいます。変形膝関節症で痛みがある人は、なるべく早く手術してほしいですね。
自分の足で歩ける、痛みがない、そうなると外に出て、いろんな人と話すこともできます。精神面の健康も保たれると思います。
―今後、目指していることは。
「整形外科なら内田病院」と言われるようにしたいですね。
当院は開院から115年と歴史のある病院です。地域に根差した医療の提供を目指しています。ただ、地域の病院だからといって都会の大病院に負けるような治療はしたくないと思っています。それらと同レベルか、それ以上の最先端医療を今後も提供していきたいと考えています。
当院ではCTやMRIなど医療機器を新しくしたり、新しい術式を積極的に導入したりしています。私は最新の手術手技が出てきたら必ず、それが掲載された文献に目を通すようにしています。
そして「これは従来の手術より優れている」と感じたら、必ずその手術が紹介される学会に参加。そこで、よく分からなければ、その手術を実施する施設まで行き、見学させてもらいます。
ビデオや学会のデータだけではわからないことがあるものです。現場で患者さんの出血量、手術時間、周りの医療者はどう動いているか、術後の患者さんの様子を自分の目で確認することで、初めて自院で導入できるか判断できるのです。
整形外科の手術も他の科の手術と同様、日進月歩です。進歩に追いつき追いぬくために日々の勉強は欠かせません。だから手術が上手だと評判の医師には必ず会いに行って、話を聞いたり、手術を見学させてもらったりします。
自分の目で見て判断する。この姿勢が身についたのは大分大学医学部附属病院に在籍中のことです。1年間休みをもらって世界一周をして、医療を見聞してみたいと思ったのです。留学では一つの施設でしか勉強できません。そうではなく、さまざまな国の施設の手術を見て、そこから勉強になると思えるものを取捨選択することが必要だと思ったのです。
各国の有名大学や病院に「手術を見学させてください」と片っ端からメールを送り、アポイントが取れた施設で手術を見学させてもらいました。
手術を見学させてもらうと国によって手術の体制、システムが違って、目からウロコの面もありましたが、手術手技の面では自分の方が優れていると感じることができて、とても自信がつきました。
待っているだけでは医師としての成長が止まってしまうと思っています。この世界一周経験は医師として大きな転機になったと感じています。
医療法人博慈会 内田病院
大分県別府市末広町3-1
TEL:0977-21-1341
http://uchida-hp.jp/