パーキンソン病の治療に貢献
主に60歳以上で発症し、その後緩やかに進行するパーキンソン病。原因不明の難病で国内の患者数は約20万人に上る。特徴的な症状は、手足の震え、緩慢な動作など。神経内科を専門とする長崎北病院では、先進的な治療に挑戦し続けている。
ー神経内科専門病院は珍しいのでは。
神経内科の専門医は数が多い病院でも数人程度です。当院には専門医が10人と県内の病院の中では充実しています。
民間病院で神経難病を積極的に診て、しかも専門病院として運営しているのは全国にもあまりないかもしれません。当院について「神経内科専門病院です」と説明しますと「神経内科の専門病院が成り立つんですね」と驚かれることもあるほどです。
設立当初はいわゆる老人病院。それを前院長の辻畑光宏先生が現在のような専門病院にしたのが1994年でした。その後、神経内科の患者は高齢化とともに増加。20年以上前に神経内科専門の病院をつくろうと決意した辻畑先生とそれに賛同した井上満治前理事長の決断は正しかったと思います。
リハビリにも力を入れていますが、もともとはリハスタッフも数人でスタート。今は、病院だけで140人。関連施設などを含めると180人になります。
神経内科の疾患はその多くが完治は難しい。少しでも状態を維持・改善するためには、リハビリが大変重要です。
現在、長崎医療圏の神経難病の患者さんの6割程度が当院に来院。当院には、急性期病棟の他、回復期病床や医療療養病床もありますので患者さんにとっては「急性期から進行期まで継続して診てくれる」という安心感があるようです。
ーパーキンソン病の特徴などは。
私自身、パーキンソン病の患者さんがここまで増えてくるとは予想していませんでした。高齢になると増える病気で、70歳以上では約100人に1人。高齢化に伴って増えています。
長崎市では約500人がパーキンソン病の患者さんで特定疾患医療受給者証が交付されていますが、そのうち約300人を当院で治療しています。
パーキンソン病の患者さんの治療は薬物治療が中心になります。同時に運動やリハビリも重要。
パーキンソン病の患者さんは、症状が進んでくると運動をしなくなる傾向が強まります。治療には運動は欠かせないのですが継続が難しい。
また、生活面では、朝起きる、食事、排便などの生活リズムが崩れてきます。朝食を抜いて食事が2回に。その結果1日3回の服薬が2回になるほど正しい服薬ができなくなります。規則正しい生活リズムと適度な運動ができなくなると症状も悪くなる。すると家族など、周囲の対応も難しくなるという悪循環になります。
症状が悪化すると入院治療が必要になります。入院時は、朝は起きて夜はしっかりと眠るという生活リズムを保つよう指導。きちんとした服薬もできます。するとそれだけで症状は好転します。また、入院中はリハビリも積極的に実施。結果的に、患者さんの多くが薬をあまり増やすこともなく治療を終え退院できるようになります。
半年から1年おきにこれまで10回以上入院した患者さんもいます。1カ月程度入院加療すると状態は好転し、また自宅で生活ができます。このようなことを繰り返すことで、発症から時間が経っても自宅での生活を長期に続けることが可能です。
ーパーキンソン病体操を作ったそうですね。
日常生活でも運動は重要です。発症早期から運動習慣をつけてほしい。また、入院で良くなった状態を退院後も維持してほしい。しかし、何をすれば良いのかわからないと言う人が多い。最初はパンフレットなどで指導していたのですが「わかりにくい」との声。ラジオ体操を勧めてもパーキンソン病の患者さんには早すぎる。それならば「これをやってくださいと言える体操を自分たちで作ろう」となり、2年かけて2014年に作り上げたのが「パーキンソン病体操」です。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が考案。音楽に乗って体操ができるように新しく作曲もしました。加えて患者さんにも協力してもらいました。「この動きは痛い」「おもしろくない」「危ない」などの意見を聞いて作りましたので患者さんにできない動きはほぼありません。
運動は、立位編、座位編、嚥下(えんげ)編など6種類。それぞれ12分程度でできます。一度に全部やる必要はなく1、2種類を無理のない範囲で、週に3回以上は続けてほしいと伝えます。
入院中から看護師や療法士と実際にやって運動をする習慣をつけて退院。退院時にはDVDを無料配布。また希望者にもDVDを差し上げるほか、当院ホームページからダウンロードも可能です。DVDを渡した患者さんの7割ぐらいは自宅でも続け、アンケートでは「以前よりも良くなった」という患者さんが51%でした。
そこで、患者さんが自宅での健康状態や服薬、体操を続けているかといった情報をスマートフォンやタブレット端末で病院側に簡便に伝えられるアプリを地元のIT企業と開発中です。
自宅で運動を継続することが何より大切です。患者さんにとっては簡単に日々の病状を記録でき、体操を続けるモチベーションにつながります。
病院側は自宅での状況が把握でき、データを分析することで、パーキンソンン病の治療の構築につなげられるメリットがあると期待しています。
ー今後の取り組みは。
MRIを入れ替えるために来年度、新棟の建設を計画しています。同時に、リハ中心のデイケアスペースを拡充し、パーキンソン病の患者さんなどが利用できる常設の「難病サロン・地域交流スペース」も設置します。
現在も患者会が当院で開かれているのですが、治療終了後のリハ室を使うなど場所の確保で不便が生じています。常設の交流スペースがあれば患者さんや家族が気軽に集まれると思います。
社会医療法人 春回会長崎北病院
長崎県西彼杵郡時津町元村郷800
TEL:095-886-8700
http://www.shunkaikai.jp/kita/