長崎大学大学院 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 髙橋 晴雄 教授

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長崎の難聴を減らす!聴覚・平衡センターの10年

【たかはし・はるお】 1977 京都大学医学部卒業 1978 田附興風会医学研究所北野病院1984 京都大学医学部附属病院 1987 米ピッツバーグ大学医学部 1992 京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科講師 2002 長崎大学大学院耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授

 2018年、聴覚・平衡センターが開設10年の節目を迎える。長崎県の新生児聴覚検査の普及、海外とのネットワーク構築による人材の底上げなど、同センターが果たしてきた役割は大きい。

―センターの成果は。

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 2008年に開設した聴覚・平衡センターは、「診療」「教育」「社会貢献」を柱に掲げてスタートしました。

 主な成果の一つは、小児科とのタイアップによる「先天性サイトメガロウイルス感染症」早期発見のためのスクリーニング検査です。早期発見は長崎大学小児科が力を入れている取り組みの一つで、私たちが聴力検査などを担当しています。

 妊婦さんがサイトメガロウイルスに感染すると流産や死産のリスクがあるほか、脳や聴覚に重度の障害を引き起こすことがあります。尿やへその緒を調べることでウイルスを特定できます。

 難聴の分類としては聴覚神経がダメージを受ける「感音難聴」で、出生時にすでに難聴が確認できるケースもあれば、出生後、徐々に悪化していく場合もあり、症状の進行度には幅があります。治療法には薬剤、人工内耳手術がありますが、早期に治療を開始するほど難聴を軽減できることが分かっています。

 このウイルスそのものは昔から広く知られており、「かぜ」のように身近な存在です。

 世界的な調査によると後進国ほど抗体をもっている人が多いと報告されています。先進国では衛生環境の向上もあって抗体をもたない女性が増えました。妊娠中に感染すると胎盤を通って胎児に感染するのです。

 サイトメガロウイルスが難聴の要因になっていることが明らかとなったのは近年のことです。それまでは「なぜか聞こえづらくなってきた」と原因が分からないまま進行し重症化していました。早期診断できれば補聴器や人工内耳で言葉を失わずに済みます。小児科との密な連携によって、少しでも子どもの難聴を減らしたいとの思いで検査に取り組んでいます。

 もう一つ、センターの柱として進めてきたのは「新生児聴覚スクリーニング」です。ほんの数秒だけ音を聞かせて、きわめて短時間で聴性脳幹反応を測定します。

 2003年、長崎県は新生児聴覚検査の制度化を進める国のモデル事業の一つとして採択。県内全域的な検査体制の構築がスタートしました。

 当センターでも産婦人科とのネットワークのもと、新生児聴覚スクリーニングの普及に注力。現在、長崎県の全新生児の98%ほどが検査を受けており、受診率は全国でもトップクラスです。サイトメガロウイルス、内耳の奇形、さまざまな遺伝子異常―。先天性の難聴に関して長崎は非常に早期診断・治療が進んでいます。当院にも、西日本および全国の患者さんに足を運んでもらえるようになりました。

 2002年、京都大学から長崎大学へくることになったとき、先輩から「九州一の聴覚センターをつくるという気持ちで行ってきてほしい」と送り出されました。その言葉がずっと頭にありましたが、かなり狙いどおりのセンターになったという自負があります。

―海外と積極的に交流。

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 2017年11月に横浜で開いた「シーボルト記念人工聴覚器シンポジウム」は、今回で9回目。

 私とドイツ・ミュンヘン大学耳鼻咽喉科のミュラー教授が交互に主催。人工内耳をはじめ、人工聴覚器の最新の話題や研究内容を伝えています。

 耳鼻科が守備範囲とするのは首から上の「目と脳を除くすべて」。五感のうち聴覚、嗅覚、味覚の三つを扱います。専門分野も多岐にわたり、シンポジウムには国内外の100人を超える医療者が集まってくれました。

 近年、人工内耳は大幅な進化を遂げ、人工中耳なども登場しています。海外では「完全埋め込み型」の製品化に向けた動きも進んでいます。

 1990年代の初めに私が研究していたころは患者さんから「ジャリジャリとした音がする」と言われ、医療者の意見も「そんなもので聞こえるのか」という声が多かった。しかし、接客業などコミュニケーションが重要な仕事に就いている人が、人工内耳により問題なく働き続けている。そのような事例がどんどん蓄積されています。

 シンポジウムでは数々の新しいトピックが発表されました。例えば、おたふくかぜや事故などで生じる「一側性難聴」の場合、片側にだけ人工内耳を入れると、聞こえ方がアンバランスになる気がしませんか?

 海外では両耳に入れるのがスタンダード。日本では高価なこともあって一側だけに入れるのが一般的です。近年の調査データによると「一側だけでもよく聞こえるようになる」そうです。

 そのほか、雑音の中でも自分の聞きたい音や声だけをえり分けて耳に入るようにする「フィルター効果」の研究など、興味深いプログラムばかりでした。来場者には若手の先生も多く「勉強になった」「世界のことが分かった」など、うれしい感想をいただきました。

―これからの耳鼻科の役割をどう考えますか。

 耳鼻科は基本的に外科系の診療科です。かつての中耳炎治療などは「掃除」が目的でしたが、現在は人工内耳や人工中耳といった「機能を回復し高めるための手術」が重視されつつあります。中耳炎でも鼓室形成術、耳小骨(じしょうこつ)の再建などはルーチンとなっています。

 がんの治療なども、放射線や抗がん剤などが発展し、本来の体の機能を温存するための選択肢が広がっているでしょう。私たちの分野でも、そんな医療がますます求められると思います。

 生まれつきの内耳の奇形など、手術が困難な症例では放射線科と連携。CT画像を3Dに再構築するなど、共同で手術戦略を計画して患者さんを支えています。

 側頭骨の奥深くに腫瘍ができたケースなどは、脳神経外科と組んでアプローチします。各科とのタイアップによって、耳鼻科ができることは広がっています。その成果を集約し、さらに充実したセンターとして発展させていきます。

長崎大学大学院 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
長崎市坂本1-7-1
TEL:095-819-7200(代表)
http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/orl/


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