「このままでいいのか」自問が医療の質を高める
2016年3月の新病院オープンを経て、来年2月には駐車場などの工事も終了予定。一連の整備計画が完了する。県のがん診療の中心を担いつつ、藤也寸志院長が目指すのは「世界トップクラスのがんセンター」。その土壌づくりが進む。
◎全員参加で質を高める
2015年の院長就任以降、「オール九州がんセンター 進化のための土壌づくり」に取り組んでいます。
部門やプロジェクトごとにリーダーとサブリーダーを選出し、それぞれの具体的な年間目標を設定。その結果をしっかりと検証できる文化、職員間の相互理解を深め協力し合える文化の醸成を目的としています。
緩和ケアチームなら「病棟との連携強化と医師・看護師を中心とした緩和ケア力の底上げ」「患者・家族の満足度の調査とスタッフへの周知」。
高齢者・認知症対策チームなら「スクリーニングの開始と周知、さらなる改善」「スタッフの対応技術のボトムアップ活動」。また、かかりつけ医との連携システムの構築、研究成果の学会・論文発表の促進、各種マニュアルの整理と認識などチーム医療から経営改善、ゲノム医療まで、約30のさまざまなチームが動いています。
もちろん、九州がんセンターとしての年間目標はこれまでにも掲げていました。ただ、病院全体の中で自分が担っている役割の重要性を、個人がなかなか実感しづらい部分もあったのではないかと思います。
「全員参加」によってがんセンターの質を高めていくという私のビジョンを一人一人に伝えたいと思い、「いずれかの回に出席してほしい」と、昨年と今年、職員向けの講演会を5回ずつ開催。副院長、臨床研究センター長、統括診療部長、看護部長、事務部長にも、自身の立場を踏まえた病院づくりの方向性を述べてもらいました。
まだまだ土壌を広げていかねばならない段階ですが、少しずつ変化が現れていると思います。一つは職員の笑顔が増え、病院が明るくなったことでしょうか。実際、患者さんにもそんな声をいただいています。
各部門の取り組みはQM(クオリティー・マネジメント)委員会が評価。円滑なPDCAサイクルにつなげます。
特徴としては、評価に当たり、各部門がQM委員会に発表する場を設けていることです。毎月3チーム程度が取り組みの内容を報告。委員会のメンバーの目が厳しくチェックします。同時に、やっていることをアピールできる絶好の機会でもある。当がんセンターの根幹を支える、今、最も重要な委員会だと考えています。
◎流れに逆行しても
私たちは地域に根ざした九州がんセンターでありつつ「福岡」のがんセンターのままでいいのだろうか? 日本の、アジアの、さらには世界のがんセンターを目指すべきではないか? 常にそう考えています
一流のがんセンターであることの要件は、患者さんの満足度が高いということでしょう。そのためには、チーム医療の質をもっと追求しなければならない。ときどき私は職員に問います。「私たちのチーム医療は、本当に患者さんのためのチーム医療なのか?」
患者さんの立場からすると医師が来た、次に看護師が来た、さらに栄養士も来た。いろんな専門職が来てくれてありがたいのだけど、ちゃんと自分のことを分かってくれているのだろうかー。
そんな思いを抱かせてはいないかと、いつも見つめ直す気持ちをもっていてほしい。
現在、国は在院日数の短縮化を推し進めています。医療費を抑制するという観点では、決して間違いではない。しかし、それを私たち医療者が無批判に受け入れてしまうのは、違うのではないかとも思うのです。
在院日数を短くすることにとらわれて、もう少しここにいたいと思っている人まで無理に帰してしまってはいないか。患者さんが帰るのが不安だと思っているのなら、在院日数が少々長くなっても構わない。そう職員には伝えています。世の中の流れには逆行しているのかもしれないが、私はそれでいいと思う。
◎黙っていては変わらぬ
現在、訪問看護ステーションの開設準備を進めています。当院での治療を終えた患者さんは緩和ケア施設を除き、基本的に他の医療機関へ移っていただくことはありません。およそ9割が在宅復帰です。その後、患者さんがどんな生活を送り、どんなことで困っているのか、私たちは真に理解できていないのではないかと思い至りました。
訪問看護ステーション開設の第一歩として、当院の看護師が中心となり地域の医療者の方々と共に、がん患者さんの訪問看護の勉強会などを開いているところです。
私は厚労省「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の構成員でもあります。そうした場をはじめ、各所でたびたび発言しているのは、ターミナルケアではないがん患者さんは退院後、チーム医療を受ける機会がほとんどないのではないかということ。
今年10月に公表された「第3期がん対策推進基本計画」でも言及されていますが、「病院と在宅医療との連携および患者のフォローアップのあり方」が大きな課題となっています。
患者さんは検査で定期的に病院を訪れる。でも生活の中で、再発や就労への不安が消えることはありません。これだけ医療機関がチーム医療を掲げておきながら、そこが置き去りにされていていいのかと、疑問に思うのです。すぐに解決はできないが、問題意識だけは忘れてはいけない。
世界に認められるがんセンターを目指すからには、口に出さないと始まらないと思っている。黙ったままでは、医療の質も意識も高まりません。
がんの治療成績や生存率といった側面では、当センターが突出しているわけではありません。しかし、患者さんに寄り添う気持ちや、職員が一丸となって1人の患者さんを支える体制については私たちの「総合力」が一番だと思っている。
引き続き「オール九州がんセンター」を合言葉に、さらに全員の目線を合わせていきます。
独立行政法人国立病院機構九州がんセンター
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