女性活躍推進法でも重点項目の一つに位置付けられる「女性に対する暴力の根絶」。
従来「性暴力」は産婦人科が扱う領域ではないとされてきたが、風向きは少しずつ変わりつつある。
先駆的な取り組みを続ける産婦人科医、加藤治子氏が現状を解説する。
―2010年、全国初の病院拠点型性暴力救援センター 「SACHICO※」を開設。
※SACHICO=Sexual Assault Crisis Healing Intervention Center Osaska
産婦人科医として、日々さまざまな妊産婦を診る中で性暴力やDVなど多くの課題に直面。私たちも女性を暴力から守るために活動すべきではないかと思っていました。
勤務する阪南中央病院(大阪府松原市)の助産師と「社会的なハイリスク妊産婦」の研究会をつくるなど30年ほど前から活動を推進。「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」の成立といった女性を取り巻く環境の変化もあり、「性暴力被害者を24時間支援する必要があるのではないか」と病院に提案。2010年、院内の一角に「SACHICO」を開設しました。
―支援内容について。
「性暴力被害者支援のためのアドボケーター(支援員)」と産婦人科医が24時間常駐。被害者や警察から連絡が入り次第対応します。
例えば緊急避妊薬は被害にあって72時間以内に内服しなければ効果を得ることはできません。時間的な制約があることから、診療も24時間体制が必要なのです。
精神科、小児科といったさまざまな診療科と連携するほか弁護士による法的な支援、カウンセラーによるカウンセリングも実施するワンストップ型。本人の了解を得ることができれば、警察への被害届提出の際に必要な証拠物を採取、保管します。
―センターの実績は。
開設から7年で電話相談は計2万8573件、来所人数は延べ5188人、初診の実人数は1486人。1年当たり約200人の新たな性被害の当事者が来所していることになります。
被害の内訳は「レイプ・強制わいせつ」が823人、「性虐待被害」が356人。全被害者の61%が未成年です。子どもたちの性が危機的な状況にさらされていることが分かります。
SACHICOを開設する前、阪南中央病院には、年間10人程度のレイプ被害にあった女性が来院していました。センター開設1年目は78人が来所。翌年以降は100人を超えています。2017年は半年で90人。過去最高を記録すると思います。
―大阪府の動きは。
大阪産婦人科医会と大阪府の協力によって、これまでに府内九つの三次救急医療機関と支援ネットワークを構築。性暴力被害者に24時間対応できる場が、府内全医療圏にできました。
3カ月に1度、医師、看護師、事務職が集まり事例検討会を開くなど密接に連携しています。
―今後の課題は。
国は2020年までに各都道府県に最低1カ所の「性暴力被害者ワンストップ支援センター」を設置する方針を打ち出しています。
現在、設置されているのは38都道府県。ただし病院拠点型は当センタ―を含めて10カ所ほどで、多くは電話相談を中心とする連携型です。
医療と総合的な性暴力被害者支援の両方を提供できる体制が大事なのですが、公的なサポートがなかなか整わず、また産婦人科医が充足していない医療機関が多いことから、病院拠点型が増えません。
近年、10代の「望まない妊娠」が深刻化しています。その背景には性行為の強要や性暴力などがかかわっていることに、もっと目を向けるべきだと思います。
女性が安心して暮らせる社会を目指して、私たち産婦人科医ができることを考え続けたいと思います。
問い合わせ先=性暴力救援センター・大阪「SACHICO」
TEL:072-330-0799
http://www.sachico.jp/