新改革プランを軸に「真の中核病院」へ
「段階的に進めてきた改革が、実を結びつつある」と語るのは、今年4月に就任した柏木秀幸新院長。富士医療圏の完結力を高めるために、中核病院・富士市立中央病院に求められるものとは。
―病院を取り巻く現状はいかがでしょうか。
富士市、富士宮市で構成する2次医療圏の富士医療圏で200床を超える医療機関は、当院、富士宮市立病院(富士宮市)、共立蒲原総合病院(富士市)の3施設です。そのうち500床を超える医療機関は当院しかありません。
両市を合わせて38万人余りが暮らす地域の中核病院。その位置づけをあらためて明確に示し、当院の方向性を整理したのが、今年3月に策定した「富士市立中央病院新改革プラン」です。
プランに基づき救急患者の受け入れ体制の強化に努め、高度急性期、急性期医療の充実に注力。回復期の医療機関や診療所との連携を深めます。同時に医療の質を安定的に維持するために、一層の経営の効率化も進めています。
私が副院長として赴任した2012年当時、当院で働く医師はおよそ70人でした。それから現在までの間に約90人まで増えました。看護師も含めて、職員数は全体的に増加傾向にあります。スタッフが充実してきたことで、新改革プランで目指す高度医療、救急医療を提供する体制も段階的に整ってきました。
ほとんどのドクターは大学の医局員です。産婦人科と皮膚科は浜松医科大学、眼科と放射線治療が山梨大学、歯科口腔外科は日本歯科大学。そのほかの科は東京慈恵会医科大学と、さまざまな大学の協力を得ています。
各大学からやってくるドクターは若い層が中心で、院内に活気が生まれています。同年代ということもあってチームワークも円滑ですし、経験できる症例も豊富。加えて静岡は温暖な気候で住み心地もいい。若い人にとって魅力のある、やりがいを感じられる環境を提供できているのではないかと思います。
この時代、医療機関が働き手を増やしていくという判断は簡単なことではありません。その中でも富士市は、医療環境の整備に対して、ずいぶん理解を示してくれていると感じます。
というのも、10年ほど前に当院の医師数は大幅に減り、経営が悪化。中核病院としての機能が著しく衰えた時期を経験しています。
一時は富士市から産科医が1人もいなくなってしまう危機にも陥りました。医療機能が脆弱であることは、市の評価が低下することにつながる。サポートを厚くしている背景には、そんな教訓があるのかもしれません。
―課題についてはどう捉えていますか。
当院と同様の問題は周辺地域でも継続的に起こっていることです。
ある病院では整形外科の医師がいない。またある病院では泌尿器科の医師がいない―。医師の不足という問題が常につきまとい、それぞれが地域内での医療の自己完結を目指しているものの、なかなか厳しい状況に置かれています。
富士医療圏内とその周辺地域において「患者さんの移動」が起こっています。遠くまで足を運ばなければ医療を受けることができないとなると、患者さんに負担が生じます。また、受け入れる地域の医療機関の負担も大きくなります。
本来、富士医療圏は流出する割合が高い2次医療圏です。当医療圏には3次救急に対応する救急医療センターがなく、地域がん診療拠点病院もありません。
そこで、がん診療については昨年4月、当院が「地域がん診療病院」に指定されることで、空白を解消することができました。地域医療の完結力を高めるためには、みなさんが「安心して任せたい」と思える信頼を得なければならない。信頼を得るためには、公的な評価を受けることが必要だと考えたためです。
一部の病棟を休止せざるを得なくなるなど、当院が最も低迷している時期に就任した小野寺昭一前院長(在職期間:2010年7月〜2017年3月)は医師の確保に力を注ぎ、病院の改革に乗り出しました。
医師の増加を実現して病棟を再開し、周産期医療の充実などを図るために改修も実施。現在、全病棟がフルに稼働しています。
マルチスライスCTや3.0テスラMRI、リニアックなど高度医療機器の整備も順次進めてきました。ここ7年ほどの努力の過程の上に、地域周産期母子医療センター、地域がん診療病院の指定があり、今年8月には、富士保健医療圏で2施設目となる「地域医療支援病院」の承認も受けることができたわけです。
2020年度までの新改革プランの実施期間も含めて、数年後に「こんな病院になっていたい」というイメージは描けています。
あとは他の医療機関との協力体制をどこまで強く結ぶことができるか。地域連携に関わる部門の機能をいかに結びつけ、強化できるかがポイントだろうと思います。
当院の入院患者のうち3分の1程度は救急患者です。平均して毎日10人ほどの救急患者が入院しており、高齢者人口が増えている現状を踏まえると、私たちが第一に考えるべきなのは救急患者にいかにして対応していくかということ。
実際、今年の初めのころはベッドに空きがなくなり、救急患者を受け入れることができなくなった時期がありました。
紹介率の向上とともに患者さんが停滞しないよう、地域連携を軸にしてどんな改善策を講じることができるのか。新改革プランを公表するタイミングで「一人一人ができることを考えてもらいたい」と職員に問いかけ、知恵を集めているところです。
近年、当院の高度医療は伸びつつあり、外科系の手術件数も増加。それに伴って収益も上向いています。チームとしての一体感が高まるほど、具体的な成果があらわれている。雰囲気は前向きだと思います。
―今後の予定などを。
現在の建物は築30年を超え、スペース的な制約などもあることから、新病院の建設が検討されています。おそらく数年内には、何らかのプランを提示できるのではないかと思います。
私は1982年の半年間と、旧住所の本市場から現在の高島町に新築移転した1984年の2度、当院に勤務していたことがあります。
新築したばかりの当院は見渡す限りの田んぼに囲まれていました。およそ3km離れた東名高速道路の富士ICを降りると、すぐに建物が見えたほど、何もなかったのです。いまや、周囲の開発が進み、そのころの面影はありません。この病院が生まれたことで、町づくりのあり方も変わっていったのです。
新しい富士市立中央病院を中心にして、富士市も次の時代に向かうことになる。これを機にスペースなどの課題を解決したいと思いますし、若い医師を引きつける病院にしたい。なにより患者さんには、より大きな安心感を与えることができるでしょう。
計画が形になるまでは現状の病院で、できる限りのことをやっていきます。スペースが限られているのはたしかですが、完全に使い切っているわけではない。効率性を高める余地は、まだまだあると見ています。
富士市は「紙のまち」と呼ばれ、製紙業を中心に発展した都市です。産業があることで若い人たちも集まり、多くの医療需要がある。そこに応えていくことで、真の意味での「地域の中核病院」になりたいと思います。
富士市立中央病
静岡県富士市高島町50
TEL:0545-52-1131(代表)
http://www2.city.fuji.shizuoka.jp/~byoin/