「患者ファースト」の医療を提供するために
「患者さんに提示できる『治療の選択肢』が世界トップレベルであることが目標」と語る浮村理教授。3D映像技術を応用した泌尿器科画像誘導手術の開発など、世界の最先端を行く医局の取り組みを聞いた。
―泌尿器外科医局の特徴を教えてください。
2人に1人が発症すると言われる「がん」。そのうち、日本人男性が最も多く患うがんは前立腺がんです。
同じ泌尿器科のがんでも、膀胱(ぼうこう)がんや腎臓がんは女性にも決して少なくありません。一方、膀胱炎などの尿路感染症は女性の方が圧倒的に多く発症します。
当科が関連する手術の約8割はがん。特に高難度手術や低侵襲手術を必要とする方がその多くを占めています。残り2割は、専門性が求められる「停留精巣」などの小児泌尿器科や、尿失禁・臓器脱などの女性泌尿器疾患の患者さんです。
ここ数年、幸いにも女性泌尿器科医が毎年入局しています。当科では女性泌尿器科専門外来を設けて、専門性が要求される場合はもちろん、女性医師による診察を希望する女性の患者さんの要望に応えています。
私たちは、世界トップレベルの「臨床」を提供しようとする教育システムの構築と「研究」を大きな柱にしています。
「臨床」では、標準的な治療はもちろん世界最先端の手術など革新的な医療を提供。前立腺がんの治療においてはがんの制御のみならず、患者さんの生活の質を維持・向上できる新しい手術の開発に取り組んでいます。
2019年度には当大学の「陽子線治療センター」が稼働予定。精細ながん腫瘍の形態に合わせて集中して高線量の放射線を照射することが可能になります。「臨床」と「教育」を実践していく中で見つかる「患者さんのため」に解決すべき課題を「研究」し、新たな治療法・診断法の確立に役立てています。
―力を入れている研究について教えてください。
2012年に前立腺がん、2016年には腎臓がんがロボット支援手術の保険適用になりました。3D映像を見て患部を立体的に把握しながら行うロボット支援手術ですが、内視鏡手術である以上、触覚を使うことのできない体腔内で、映像では見えてこない患部を認知することは非常に難しい。
そこで術者の技術向上だけでなく、デジタル画像情報から手術を誘導する新技術の役割が重要となってきます。内視鏡で見えてこない部分でがんがどのように広がっているかを正確に知ることができれば、手術はさらにうまくいくはずです。
私たちはCT、MRI、超音波の三次元画像をデジタル化しコンピューターで重ね合わせることで、それぞれの長所を組み合わせた新たな画像を作成し、がんの部分をピンポイントに治療する研究開発をしています。
既に実際のロボット支援手術においては、経直腸的超音波のリアルタイム映像で、内視鏡では見えていない部分の術中の画像と前立腺がんの3次元マッピングを術野の一部に並行して表示できる「ハイブリッドナビゲーション」を世界で初めて導入。安全性の高い手術を提供しています。
また、GPS(空間的位置の追跡技術)を用いた先進的なイメージガイドによる外科的手術法の研究にも取り組んでいます。これが応用されると、ロボット支援手術以外にも、タブレットを患者の体にかざすだけで体内の3次元構造を見ることにも応用でき、外科的治療の精度を向上させることにつながるでしょう。
3Dプリンターを用いた研究も行っています。MRIなどを用いて3次元空間的に前立腺形状、神経血管束、がんの形状をとらえて、それを3Dプリンターによって3D模型を作成し、臨床に応用することは既に実現できています。
―治療するうえで大切にしていることは。
保険適用で提供できる標準的な医療を実践しても、すべての患者さんが満足するとは限りません。患者さんが「どんなゴールを求めているのか」ということに配慮した医療の提供を可能にする。それこそが大学の使命であると考えています。
例えば、前立腺がんにおいて、手術や放射線治療によって性機能障害や尿失禁が生じることも少なくありません。そのため高度な治療を即時要しない「進行の遅いがん」の場合、患者さんから「性機能や排尿状態をあと数年現状のまま保存してほしい」といった要望は当然起こり得ます。
その場合は手術をせずに未治療で経過を観察したり、革新的医療技術を導入することで新たな治療選択肢を提供できるようにする。このような配慮が「患者ファースト」の「テーラーメイド治療」の一つの形だと私は考えています。
経験を積んでいくとガイドラインに沿った治療を施しても患者さんがハッピーになっていない現実に直面することがあります。それは、医療技術の進歩と並行して時代と共に変遷していく患者さんの目指すゴールと、提供してきた治療のゴールが合致していない場合に起こりがちです。
多様な選択肢の中から最適な治療法を患者さん自身が選択できる「患者ファーストの医療」を実践するために、研究と人材育成を進めていきたいと考えています。
―人材の育成について。
京都府は医師密度が高いと言われますが、それは医師の都市志向ではなく、高いレベルの教育と修練の機会を求めて全国から多くの医師が集まってくるゆえの傾向です。
病院の機能分化や多様な医療ニーズに応えるために、高い技術を持つ医師を多く輩出し、中核病院を中心に京都府全域に医師を派遣することで地域医療を担っています。
「一人前の医師になるために何年かかるか」という質問をよく受けますが、医師という職業は生涯が学びであると私は思っています。医師としての成長曲線は、魅力的な教育システムに入れる場合とそうでない場合とで習得できるレベルやスピードは異なるはずです。
そこで、入局後10年程度は、機会均等を担保し、全員が泌尿器の多様な疾患と治療を網羅できるような教育プログラムを設計。大学での修練や、関連病院への出張といった人事でも公平性を保っています。
10年目以降は、各自医師としての特性が見え始め、将来のビジョン・プロフェッショナリズムも明確になる時期です。自分の特色を出し、それぞれの目指す夢に進んでいってほしいですね。
大学で修練するメリットは、多様な専門分野をカバーする多くのスタッフや先輩から教えてもらえること。そして同期生と相互に高め合えること。大学病院には、関連病院から専門性の高い症例が多く集まるため、集中的に高い知識や技術を学び、多角的な視点を習得することが可能です。チーム医療としての「和」の大切さを学ぶ機会にも恵まれています。
―今後の展開を。
未来を決めるのは人。たくさんの同志が集まるほど医局にもパワーが生まれます。幸いにも当医局は毎年たくさんの入局者が集まります。
当医局のモットーは「人間愛」「夢」「和」です。一人ひとりが夢を持ち、チームワークを大事にしながら、充実して臨床や教育が行える環境作りに取り組んでいきます。
京都府立医科大学大学院医学研究科 泌尿器外科学講座
京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465
TEL:075-251-5111(代表)
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