科の垣根越え包括的な診療
2017年5月に、皮膚科や小児科などアレルギーに関わる診療科を1カ所に集めた「総合アレルギーセンター」を坂文種報德會(ばんぶんたねほうとくかい)病院に設置、運営する藤田保健衛生大学。最先端技術を駆使し、これまで原因が特定できなかった患者や、治療が困難とされた症例にも対応できるという。堀口高彦センター長は「複数の専門家が横のつながりを持って診療にあたるのは、全国的にもここだけ」と胸を張る。
◎全国初の複数科連携
総合アレルギーセンターは、呼吸器・アレルギー内科、小児科、耳鼻科、皮膚科、眼科、総合アレルギー科の六つが集まってできています。日本アレルギー学会認定専門医は11人。連携して、重症例や治療困難例にも対応しています。
この病院にはもともと、アレルギーを専門にする医師が偶然、多かったのです。15年ほど前から、専門医や学生向けにアレルギーの勉強会も開いてきました。この強みを形として前面に出そうと、センターが設立されました。
アレルギーというのは、ほとんどの人が複数の症状を持っています。アトピー性皮膚炎の人の多くは、喘息(ぜんそく)を患っています。一つの部位の疾患としてではなく、全身の病気として考える必要があります。
そこで、一人の患者さんについて、各科の専門医が情報を共有し、知識を出し合って、原因を突き止めていきます。密な連携が重要で、頻繁にミーティングを開いています。今後は、問診も複数科の医師で集まってできればと考えています。これは、ここでしかできないことだと思います。
◎必ず原因を特定
総合アレルギーセンターという名前を付ける以上は、ここに来てもらったら必ず原因を特定し、治療しないといけないと思っています。どこに問題があるのかわからない人は、まず総合アレルギー科を受診してもらいます。血液を採取し、特殊な方法で原因タンパクを同定します。
私たちの仕事は、犯人を捜す捜査員に似ています。喘息の人がお腹も痛いと言っている。通常だと、胃壁にただれがなければストレス性などとされて、それ以上は調べないでしょう。しかし、アレルギー性の胃腸炎というものがあるのです。これは、胃カメラやCTではわかりません。胃の組織を取って調べ、「犯人」を特定して治療していきます。
◎最新鋭の治療法
肺がんなどでは、DNA配列を解析することで、その人に合った薬を投与する個別化治療が進んでいます。アレルギー治療でも少しずつ取り入れられているのですが、まだ、がんほど一般化されていません。当センターでも今、研究を進めています。
現状では、基本的に対症療法になってしまっています。「アレルギーの本体はこれだ」というものを見つけ、根治を目指せるようにしたいです。
喘息に関しては、重症患者は全体の4%ですが、ここに医療費の半分以上が費やされています。現在、抗体を見つけて注射することで免疫をつける「抗体療法」を取り入れています。場合によってはアレルギー反応が起こることもありますが、症状を抑えるための薬があるため適切に処置することで回復します。
一番あってはいけないのが、喘息による発作死です。これは、年間1500人に上ります。がんによる死は防げない場合もありますが、アレルギーで死なせてはいけないと思います。そうならないよう、重症化を防がなくてはいけません。
また、発作は夜中に起きることが多く、自宅で看護する家族の心身の負担も非常に大きくなります。患者本人はもちろん、家族の生活の質も悪くなってしまいます。
◎メカニズム未解明
赤ちゃんからお年寄りまで、あらゆる年齢層で発症しうる疾患は、アレルギーのほかにあまりありません。花粉症にしても食物アレルギーにしても、まだなぜ起こるのか、はっきりわかっていないのです。
罹患(りかん)率は上昇しており、今後減ることはないと思われます。また、重症化の傾向もあります。「衛生仮説」といって、昔は多かった細菌感染や寄生虫が減り、世の中がきれいになりすぎたことが原因では、といわれていますが、これも定かではありません。
最近、カビがアレルギーや喘息の重症化に関与しているのではないかと考えられ始めました。当センターでも、カビのタンパクでアレルギーテストをするための研究をしています。
◎日常の中にもリスク
身近な日用品が原因になることもあります。2010年、せっけんに含まれる小麦成分でアレルギーを発症する事例が相次ぎました。当センターの教授が他施設とも協力し、遺伝子と発症の関係性を調べています。今後、予防や治療法を見つけられればと思います。
企業と共同で、アレルギー対応の日用品開発もしています。現在は、毛染め商品を販売する「ホーユー」とともに、かぶれの少ない製品をつくろうと取り組んでいます。
ゴム製品によるラテックスアレルギーも深刻です。手術の際に使う手袋も、ラテックスフリーの製品が出てはいますが、高価であまり普及していません。まだまだ課題はたくさんあります。
◎専門家育成が急務
今後、大学病院として教育にも力を入れなくてはいけません。アレルギーを勉強する学生は増えてくると思います。当センターでは、専門医取得のための研修も受け入れます。症状の出方も薬の効き方も幅広いだけに、すべてに対応するというのは非常に難しい。皮膚科の医師に耳鼻科の鼻鏡検査をしろと言ってもできません。
それでも、知識だけはきちんと持ってもらって、一度か二度は、他科の検査技法も経験してもらいたいのです。ここなら、すべての専門家がそろっているので、あらゆる分野を学べます。
どの診療科もそうですが、特にアレルギーでは問診が重要です。最近食べた物や触れた物、生活習慣などを丹念に聞き出し、そこから「犯人」を見つけ出します。米のとぎ汁が原因の人などは、相当な知識を持って話を聞かないとわからないでしょう。
ここの若い医師たちは、30分くらいかけて問診しています。ただ、小さなクリニックでそんなことをしていたら、経営が成り立ちません。基幹病院で原因を見つけ、その後の管理はクリニックでする、という連携が必要です。
今、2015年施行の「アレルギー疾患対策基本法」に基づいて、各都道府県に1、2カ所の拠点病院をつくろうという動きがあります。愛知県では、おそらく当センターもその役割を担うことになると思います。
ただ、専門医がほとんどおらず、現実的に難しい県もあります。人材育成は全国的に急務です。
◎医師以外への講習も
教員などへのアレルギー教育も重要だと思っています。食物アレルギーによるアナフィラキシーショックで子どもが亡くなる事例もあります。保育園や小学校では、最低でも園長や校長にはアドレナリン自己注射製剤を使えるようになってほしいと思います。
現在、将来教員になる愛知教育大学の学生向けの講習も開いています。アレルギーで命を落とす子どもがいなくなることを願っています。
藤田保健衛生大学 総合アレルギーセンター
名古屋市中川区尾頭橋3-6-10
TEL:052-321-8171(病院代表)
http://www.fujita-hu.ac.jp/general-allergy-center/