柔軟な発想を武器に世界レベルの研究を
◎小麦アレルギー診断で高い評価
研究の主要なテーマはアレルギーです。診療においてもアレルギー疾患の診断と治療に力を入れており、山陰にお住まいの中等症から重症の患者さんの多くがこちらにいらっしゃいます。
研究では、食物アレルギーの抗原解析、新規診断法および治療法の開発を筆頭に、アトピー性皮膚炎の病態解析、新規抗真菌物質の探索、感染症の遺伝子診断、皮膚悪性腫瘍の転移機序の解明、重症薬疹の発症要因の解明とバイオマーカーの探索、自己免疫性水疱症の病態解析などに取り組んでいます。
食物アレルギーについてはエビ、肉類、果物、野菜、大豆、魚と幅広く研究、診療。特に小麦アレルギーについては15年前から重点的に取り組んできました。小麦アレルギーの診療と研究については世界一のレベルにあると自負しています。
◎頼りにされる存在へ
皮膚科診療では「医師患者間の信頼関係の構築」が診療理念。関係構築に最も重要なことはきちんと説明し、結果を出すことだと思います。
皮膚疾患の治療法は、世界でできることは可能な限りここでもできるようにしています。東京に行こうが、アメリカに行こうがやることはうちと同じ。そういう診療レベルを目指しています。
現在でも、食物アレルギーの診療においては高いレベルでできていると思いますし、日本皮膚科学会や日本アレルギー学会でも「食物アレルギーのことなら島根大学」と認識していただけるようになってきたと感じています。診断が難しい食物アレルギーについては、日本中の多くの医療施設から相談をいただいています。
当科の強みとして挙げられるのが形成外科を設置している点です。2016年4月、皮膚科で形成外科外来を開始。今年6月には「形成外科」を新設しました。これにより、皮膚科領域の手術を、さらに高いレベルでできるようになりました。
皮膚悪性腫瘍のリンパ節転移の有無を、アイソトープや蛍光色素を使ったセンチネルリンパ節生検で確認するシステムは15年前に導入済み。「下肢静脈瘤」に対しては2016年4月、血管内レーザー治療を開始し、力を入れています。従来の血管抜去手術は数日間の入院が必要でしたが、レーザー治療は1泊2日。術後の痛みが少ないなどの利点があります。
こうした地道な取り組みで山陰全域から患者さんがいらっしゃるようになりました。この15年の間に患者数は大きく増えています。
◎産学連携センター部門長として
島根大学に移る前は出身校の広島大学にいました。そのころからスウェーデンのファディア(現:サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と協力。島根に移ってからも密接に連携し、20年にわたる協力関係を築いてきました。島根に来てから、小麦アレルギーの検査法の一つである「ω-5グリアジン特異的IgE検査」を開発。この検査法は産学連携の賜物と言うことができると思います。
地元の企業とも共同研究や商品開発を進めています。「出雲土建」(出雲市)と協力して調湿木炭「炭八」の効能を研究したり、島崎電機(同)とは洗剤を使わずに除菌および洗浄ができる電解水を製造する装置「我電創水クリッパー」を開発したりしました。細かいものも含めれば、数え切れないくらい共同研究をしています。
現在、私は産学連携センターの医学部部門長も務めています。臨床の現場で製品開発のニーズをしっかりつかみ、関連する企業と製品開発に取り組む。企業から相談を受けることが多いですが、こちらからも積極的にアプローチしています。
◎留学生受け入れも
多かれ少なかれ地方は同じ問題を抱えていると思いますが、ここ山陰も、勤務医が少ないという事実に直面しています。
県庁所在地の松江市でさえ、皮膚科の病院勤務医はわずか3人。マンパワーは全ての源と言えます。人がいればもっと幅広く色々なことができるのに、いないと、その機会も失われます。人材不足は大きな課題です。
一方で、常時2〜4人は外国人留学生を受け入れています。今もモンゴルや中国ウイグル自治区の大学院生、中国からの留学生がいます。
若い研究者や外国人留学生の学費や滞在費用を補助する皮膚科独自のサポートシステムを構築し、彼ら、彼女らが研究に専念できるようサポートもしています。
外国人留学生は帰国すると十分な研究環境を確保することはなかなか困難なようです。本学大学院卒業後はアメリカで研究を続けている者もいます。研究の進捗状況について聞いたり、旅行のついでに寄ってもらったりと、留学生たちとの交流はここを巣立った後も続いています。
◎全ては「なんでだろう?」から
私は常々、スタッフたちに「柔軟な発想を持ちなさい」と言っています。それは、古い常識や教科書にとらわれず、自分の発想で診療や臨床研究に取り組みなさいということです。
もちろん、教科書の内容を頭に入れるのは基本です。しかし、ただ教科書の枠にはめて考えるのではなく、自分の目で見て、肌で感じて、患者さんの背景やニーズを把握し、そのうえで自分の頭で考えて、本質を見抜いたうえで解決策を探る。そんな医師を育成したいと考えています。
同時に「科学的思考ができる医者であってほしい」という思いもあります。どんなに小さなことでも構いません。科学的な思考を持って診療にあたることが大切です。
「なんでだろう?」という疑問を持って、それをどうしたら解明できるかを自分なりに考えてやってみる。そうした試行錯誤の繰り返しが、高い臨床能力の習得や大きな研究成果につながるのだと思います。
私は日常診療の中にも、新発見のネタがたくさんあると思うのです。それを見過ごすか、きちんと拾い上げるかで、後々、大きく差がついてきます。わからないことを「解決したい」という意欲を持つか持たないか。それが信頼される医師になるかどうかの分かれ道だと考えます。大学病院は教育機関でもあります。学生や研修医には疑問を持つことをしっかり伝えたいと思います。
◎地方大学が生き残る道とは
「皮膚」は、人の体が外の世界と接するまさに最前線。予想外のこと、前例のないことが次々に起きます。新しい薬も次々に開発されますから当然、新しいタイプの副作用もでてきます。皮膚科の診療では柔軟な思考過程と発想で物事の本質を見抜く姿勢が強く求められるのです。
本学のような地方大学は人員も設備も予算も限られています。その中で存在感を出していくためには、個々のスタッフが知恵を出すしかありません。地方ならではの発想、ほかの人が考え付かないようなアイデアを出して、それを実現していく。そこに生き残る道があるように思います。
口で言うのは易しいですが、これは実に大変なことです。日常の診療、教育、大学や病院の運営といった業務を遂行しながら、プラスアルファで知恵を出さないといけないわけですから。
しかし、こうした姿勢を続けることで地方大学でもキラッと光る業績を出すことは可能であると信じています。まずは日々の中に埋もれた研究の「種」を見つけることが第一歩です。ここを私は強調したいですね。
島根大学医学部皮膚科学講座
島根県出雲市塩冶町89-1
TEL:0853-23-2111(代表)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/dermatology/