琉球大学大学院医学研究科 精神病態医学講座 近藤 毅 教授

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一人ひとりにマッチした治療を

【こんどう・つよし】 1983 弘前大学医学部卒業 1991 文部省在外研究員(英国ウェールズ大学医学部臨床薬理治療学教室) 1999 弘前大学医学部神経精神医学講座助教授 2003 琉球大学医学部精神病態医学分野教授2014 同医学部附属病院副院長

 日本の年間自殺者数は1998年に3万人を超えた。

 日本自殺予防学会の理事も務める琉球大学大学院精神病態医学講座の近藤毅教授にうつ病や発達障害、それに伴う自殺対策について聞いた。

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―精神病態医学講座での取り組みについて。

 難治性疾患に対応するためには、臨床研究をして、新規治療を研究・開発しなければなりません。

 当講座には臨床精神薬理グループ、精神生理学グループ、社会精神医学グループ、臨床心理学グループという四つのグループがあります。

 それぞれのグループが共同でうつ病にかかった人の復職を支援するための因子の調査、発達障害の研究、難治性気分障害の予後研究などをしています。

―うつ病への取り組みを教えて下さい。

 私が医学部を卒業した当時、うつ病は精神科領域における基本的な疾患とされ「うつ病を治せるようになって、ようやく半人前」だと言われていました。

 しかし、うつ病の正しい診断、治療はそれほど簡単ではありません。患者さんが100人いれば100通りの治療法があるのです。

 まずは体質や遺伝が原因の「内因性うつ病」なのか、精神的なストレスから引き起こされる「心因性うつ病」なのかを識別しなければなりません。

 診断基準のチェックリストに照らし合わせ、当てはまれば支持的精神療法を実施、抗うつ薬を処方するというマニュアル的な治療法は、その患者さんに合わない治療ということもあります。

 双極性うつ病かもしれないし、発達障害が原因のうつ病かもしれないのです。

―うつ病と発達障害、因果関係があるのですね。

 発達障害が原因で会社や学校の環境に適応できずにストレスにさらされて、うつ病を発症してしまう人は多いですね。

 当院の外来には、およそ6人に1人の割合で発達障害が原因のうつ病の患者さんが来ます。

 適切な対応ができなかった場合、いくら治療をしても再発を繰り返してしまいます。その方の特性をよく理解し、なぜ、うつ病を発症したのか、どう対応していくかが求められます。

 うつ病の患者さんが休職して職場に復帰する場合、職場の環境調整が必要です。特に発達障害が原因のうつ病の場合は、重要です。

 患者さんには自身の特性を理解してもらったうえで、再発しないように行動療法を実施します。職場には患者さんの特徴を理解してもらって、どういう対応をすれば、その方が職場で力を発揮できるかを伝えなければなりません。

 発達障害が必ずしも万人に理解されているとは限りません。レッテル貼りにつながる可能性もあるので、職場の人たちの疾患の受容度、認識度を十分に知ったうえで、慎重に環境調整を実施する必要があります。

 発達障害だということを職場に伝えるのが患者さんにとってマイナスになる場合には、とりあえず、うつ状態であることだけ伝え、「こういう対応をしてほしい」とお願いすることもあります。

 精神疾患の中でもうつ病は、マスメディアなどにも大きく取り上げられたおかげで、昔に比べたら世間の理解が深まったと感じています。

 しかし、発達障害は、うつ病ほどは理解されていません。今後、啓発活動が必要でしょう。

 最近、産業医が発達障害の方をカウンセリングする機会が多く、われわれのところにも対応方法をレクチャーしてくれとの要望が多く寄せられています。

 産業保健領域ではメンタルケアへの対応が占める割合が増えており、その中でも発達障害の方の職場への適応は大きな課題となっています。

―周囲の人たちの理解が必要ですね。

 自殺予防のための対策の一つとして政府は「ゲートキーパー」の養成に力を入れています。

 ゲートキーパーとは悩んでいる人を見つけ、声かけや話を聞いて医療へとつなげていく役割を持つ人のことです。かかりつけ医のほか、看護師、保健師、ケアマネジャー、民生委員、教職員など多様な職種の方々にゲートキーパーの研修を実施しています。

 しかし、話を聞くことはできても、希死念慮や自殺願望を聞き出すのは難しいものです。私たちはゲートキーパーの方々に具体的な聞き方やリスク評価の手法を発信しています。

 希死念慮などがある人は、それを人に話すことで、それまでの苦しみから解放されます。その上で「自殺しない」との約束をして治療につなげる必要があるのです。

 うつ病の人が死にたいと思うのは不自然なことではありません。「あなただけではない」と伝え、一人で悩みを抱え込む状態から脱却してもらいます。そして対処方法があるということを伝え、治療に結びつけるようにしています。

―沖縄県の自殺の現状について聞かせて下さい。

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 沖縄県の年間自殺者数は2009年の406人をピークに2015年は281人と減少傾向にあります。

 しかし、沖縄県は自殺のリスクファクターが多い地域です。完全失業率は全国より1%高い3.8%(4月現在)。都道府県別賃金では全国平均304万円に対し沖縄県は236万円です。

 失業率が高く、働いている人の賃金も低い。生活苦の家庭が多い傾向があります。そして貧困は次世代へと連鎖していきます。

 離婚率は2.53%と全国でトップ。父子家庭、母子家庭も多い。働きながら育児も、ということになると、大きなストレスがかかり虐待へとつながっていくリスクは否定できません。

 虐待などの問題には世代間連鎖の傾向も指摘されており、次世代のメンタルヘルスに脆弱性を持たせることにもなると考えられます。地域やかかりつけ医とともに、見守り、ケアをしていきたいと思います。

琉球大学大学院医学研究科 精神病態医学講座
沖縄県中頭郡西原町上原207
TEL:098-895-3331(代表)
http://w3.u-ryukyu.ac.jp/psy/


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