病院から始まる街づくり経営理念と共育の実践
職場は生涯教育の場。誰かの意見を押し付けるのではなく、学び合い、共に育ち合う「共育」を実践している。毎年策定する経営指針という同じベクトルを向き、全職員がまい進する岡山旭東病院の特徴を聞いた。
―院内に多数のモニュメントや絵画があります。
さまざまなアート作品がある他、地域住民による書道の展示会、外部講師を招いての道化講座、月に2回のコンサートなどを開催しています。
病気を治す場としてだけでなく、「カルチャーセンター」として、患者さんや地域の皆さんに親しんでもらえる病院作りを心掛けています。
―共育について教えてください。
病院や企業は、生涯学習の場でもあります。
職種によって果たす役割は異なりますが、医療サービスの質を上げ、患者さんに還元するという立場ではみんなが平等です。
めだかの学校のように誰が先生か生徒かということはなく、学び合い、共に育ち合っていく「共育」を実践。学習型病院を目指しています。
人材育成センターでは、新人フォローアップ研修「若葉の会」をはじめ、リーダー研修や入職5年目の職員向けの研修「バルーンの会」などを実施。やりがいを持って仕事に取り組む人材の育成に力を入れています。
また、「院内学会」と「癒しの環境学会」を毎年開催しています。「癒しの環境学会」は、来院した方に「癒しの空間」を提供するためのアイデアや取り組みを職員が発表します。アートや自然による視覚的癒やしの提供、患者さんへのおもてなしの実践など内容はさまざまです。
院内学会ではワークライフ・バランスについてのデータや取り組み、その時々で解決すべき問題点を発表します。可視化し改善に取り組むことで、職員一人ひとりにとってやりがいのある病院作りにつなげることが目的です。
こういった取り組みが評価され、2013年、経済産業省による、「おもてなし経営企業選」に選出されました。
―経営理念について。
「安心して、生命をゆだねられる病院」「快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院」「他の医療機関・福祉施設と共に良い医療を支える病院」「職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院」が当院の経営理念です。
1990年から、この「経営理念」を実践するための「経営方針」を立て、それをもとに各部門で経営計画を立案。意見を集約し、単年度ごとの「経営指針」として経営指針書にまとめ、実践してきました。
職員はまず、「患者は何を望んでいるか」「地域社会の貢献について」「克服すべき弱点と弱点克服への提案」といった内容の経営戦略検討シートを記入します。
経営戦略検討シートに書かれた意見は病院幹部によるブレインストーミングにかけられます。医療法の改正、診療報酬の改定などの医療状況も参考にしながら、次年度の経営方針を決定するのです。
経営方針が決まると、症例数、利益率、労働分配率など、経営方針の実現に向けた経営計画を各部署で定めます。ワーク・ライフ・バランス、包括医療費支払い制度(DPC)など専門知識が必要な項目については、診療情報管理士が助言をしながら、明確な数値目標と各項目の責任者を決定。こうして作り上げた経営指針は「経営指針書」にまとめられます。
そして3月の「経営指針発表会」で次年度の経営指針が全職員の前で発表されます。この場で新年度の経営指針と各部門別経営計画、さらには今年度の収支決算と次年度の予算を発表します。
収益状況も知ってもらった上でシビアに経営理念の実現に向けて取り組んでもらうのです。
新年度が明けた後も、月に1回、部門別経営計画へのアプローチ状況と達成率を各部門の責任者が評価。さらには3カ月に1回、私を含めた病院幹部がチェックし、コメントすることで、職員のモチベーションの維持に努めています。
「自分がやらなきゃ」と思うことで初めて人は動く。「こうしなさい」と他人に言われても、それはストレスにしかなりません。裁量を託し、私は見守る、まさに「全員参加型の医療経営」の実践です。
―経営理念を実践したことで院内環境に変化はありましたか。
ワーク・ライフ・バランスを重視し、会議を上限1時間としたことで、2014年に平均5.3時間だった超過勤務時間は16年には2.8時間まで減少しました。
育児休暇の取得率は100%。復職支援や短時間勤務制度も充実しており、子育てしやすい環境を整備していますので、出産した職員のほとんどが復帰してくれます。
その結果、離職率は一番高い看護部でも10%以下。新卒看護師の離職者はこの10年で2人と低い水準を維持しています。
2010年には、「子育てサポート企業」として厚生労働省の次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画中の目標を達成した企業として「くるみんマーク」を取得。2016年には子育て両立支援の取り組みが評価され、中四国地方では3番目となる、「プラチナくるみんマーク」を取得しました。
経営理念を実践した結果がこうして成果として表れ、第三者に評価されるのは職員一人ひとりが頑張ってくれているおかげであり、非常に嬉しく思います。
―独自の取り組みを教えてください。
当院では病院食を作るシェフのことを「アーティスト」と呼び、毎月開かれる職員の誕生日会や、年に一回、取引業者を招いて行う懇談会でパーティー食を提供しています。クオリティーの高さではレストランにも引けを取りません。
この他にも、職員の子どもたちに向けた病院見学会「キッズデー」や、餅つき大会など多数行事を開催し、普段は接する機会の少ない他職種との交友の場を積極的に設けるようにしています。職員同士の距離が近くなることは、ひいてはチーム医療の強化にもつながりますからね。
―今後の展開を教えてください。
脳・神経・運動器疾患の総合専門病院として、また2次救急病院として、地域の皆さんに頼られる病院を目指します。
地域包括ケアシステムは、いわば「街づくり」。当院だけで構築するのでは意味がありません。そこで、ここ岡山市中区の医療・福祉・行政機関と協働し連携を強化。救急隊員やリハビリスタッフの勉強会を実施し、地域での医療レベルの底上げを図っています。
昨年は「市民と専門職の協働による地域づくり」を目的とし、地域の皆さんに楽しみながら医療や介護のことを学んでもらうイベント「なかまちーずフェスティバル」を開催しました。2回目となる今年は、「認知症」と「フレイル」がテーマ。私も「脳の健康・心の健康」をテーマに講演します。
一般財団法人操風会
岡山旭東病院
岡山市中区倉田567-1
TEL:086-276-3231
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