街にふさわしい病院 高級化路線で黒字化を
閑静な高級住宅地で知られる兵庫県芦屋市。市立芦屋病院は、市街地を見下ろす緑豊かな高台にある。建て替えを機に、公立病院としては異例ともいえる高級化路線へかじを切ったのは5年前。その経緯と現状は。
◎「芦屋らしい病院」を
芦屋病院はこの地で60年余の歴史があります。老朽化で建て替え計画が持ち上がっていたころ、私は広島の国立病院機構呉医療センターに院長として赴任していました。
2009年に出身地のこちらに戻るにあたり、山中健市長から病院経営を手伝ってもらえないかと話があったのです。
多くの公立病院の例にもれず、芦屋病院もまた年間8億円という巨額の赤字を出し続けている状況でした。そこで現状打破のプロジェクトとして2010年、新病院建設がスタートしました。
建設地には、芦屋浜の埋め立て地なども候補に上がっていましたが、私としては、多少の交通の便の悪さはあっても、緑豊かなこの環境は捨て難かった。診療を続けながらの建て替えは大変でしたが、2012年に無事完成。決断に間違いはなかったと思っています。
いわゆる市民病院のイメージは、ここの土地柄にはあまりそぐわない。「芦屋らしい病院をつくる」ということを第一に考えました。
コンセプトの一つは「クリーン&グリーン」。屋上庭園や周辺の緑地化に加えて、クリーンエネルギーも採用しました。
そして「プライバシー&アメニティー」。芦屋市に限らず、近隣の西宮市や神戸市の方々は生活の質を重んじる傾向が強い。これまでも入院の際に自費で部屋の壁紙やカーテンを新しくしたり、温水洗浄便座や電子レンジなどの設備を入れたりといった患者さんもいて、「快適な療養生活」という要請に応える必要を感じていたのです。
そこで272床あった急性期病床を175床に縮小。24床を緩和ケア病 床とし、計199床にダウンサイズしました。さらに病床の3分の2を個室化して快適さを追求しました。
それまでも看護師不足でベッドが空いていたのが現状でしたし、平均在院日数は減る傾向。たとえ患者数が増えても、回転によって収容力を高めれば、病床数にこだわることはないだろうと判断しました
差額室料が必要な病床の割合は、公立病院では3割以下と定められています。そこで個室のうち特別室7室を合わせたオーシャンビューの59室、全病床の29.6%を有料としました。
1日差額料はグレードの高い特別室A(3室)が5万円。4室ある特別室Bは3万円。その他の部屋が1万円です。
◎個室への流れは必然
個室化の理由はいくつかあります。一つは、プライバシーの保護。普段は自室を持つ患者さんが大部屋に入ることで環境が変わるのは望ましくない。二つ目は高齢患者さんの増加です。特に認知症を患っていると大部屋での対応は難しい場合が多い。三つ目は、感染症の問題です。
4床室に比べて、看護師の移動などの手間はありますが、市民病院であろうと個室化の流れは必然。開院時、公立病院としての個室率は断トツでしたが、今は全国的にも増えているのではないでしょうか。
市議会でも特に反対はありませんでした。「芦屋らしい病院を」という理念は、当初から共有化されていたと思います。
マスコミからは、「市民病院なのにぜいたくだ」という論調や私に対する批判も一部ありましたが、病院は患者さんが病気を治して健康を回復する、あるいは終末期なら、なるべく快適な環境を提供すべき場所。個室化はそのためにできることの一つだと思います。
◎赤字は減少、4カ年計画で黒字へ期待
新築後は、市外在住の方も含め、患者数が増えています。2016年度の特別室を含む病床稼働率は89.5%。最新の平均在院日数は12.3日。ただ、収入的には右肩上がりとはいえ、私が来てからの8年間で単年度黒字になったのは1回だけです。
減価償却、それに累積している借入金の利息があるのでなかなか難しいですね。2016年度も3億円弱の赤字です。
しかし、以前に比べると確実に上向いていますし、さらに軌道に乗せるため今年度から4カ年計画の「新改革プラン」をスタートしました。
経営効率化などを盛り込んだもので、最終年度で経常収支をプラスにする目標を掲げています。まだ始まったばかりですが、これまでの動向では達成可能な計画です。
ただ、来年の診療報酬改定がどう響くか。それと消費税増税問題。それらによっては計画を手直しせざるを得ないときがくるかもしれません。
マネジメントでは、部署ごとに増収、経費削減、良質な医療の提供という重点目標を設定して半年ごとに評価する目標管理制度も用いています。採点に1カ月くらいかかって大変ですが、全体で数値を意識して意欲を高めることは重要です。
◎経営と医療の質は両輪
経営は確かに大事ですが、病院経営と医療の質は両輪です。経営がよければ投資ができ、医療の質も向上する。するとリピーターや紹介が増えて経営も安定する―。
そのために、芦屋病院としてどうするか。一つの方向性が、「専門店化」です。小さな病院ですから、デパートみたいな大病院のように何でも診られるわけではない。脳神経外科や心臓血管外科もない。だからこそ、専門店のように特定の診療に特化するのです。
内科でいうと、例えば血液・腫瘍内科。血液専門医やがん薬物療法専門医が、造血器疾患の治療や固形がんの内科的化学療法をしており、紹介を多くいただいています。糖尿病・内分泌内科も強みです。
外科では消化器内視鏡手術、整形外科の人工関節センター。今後も増加が見込まれる分野です。
婦人科では周産期診療は止め、骨盤臓器脱や尿 失禁といった女性の泌尿器疾患などと、腹腔鏡手術に特化しました。
そして緩和ケア。専門家中心のチームで充実を図っています。
医療の質を高めるには看護師の力量も重要です。この規模で、11人の専門看護師や認定看護師を擁していることも強みの一つだと思います。
◎成熟した文化・気風に支えられて
市民病院ですから、市民の健康維持も念頭に置かなければいけない。そこで公開講座やがんフォーラム、ホスピタルフェスタやコンサートなどを開催して、予防や疾患の早期発見・治療に関する啓発活動を続けています。
驚いたのは、院内設置の「ご意見箱」に感謝の手紙が多いこと。2016年度は約4割に上りました。医療者が一生懸命やっていることが患者さんにきちんと伝わり、それに患者さんも応えてくださっていると感じます。
病院ボランティアも、50年前にここで始まったのが全国の草分け。今も熱心に活動してくださっています。成熟した住民の方々に支えられていると実感しますね。
これからも最善の医療と癒やしを提供しながら地域の要望に応えていきたい。市民のためにも、今後もより健全な経営を目指したいと思います。
市立芦屋病院
兵庫県芦屋市朝日ケ丘町39-1
TEL:0797-31-2156
http://www.ashiya-hosp.com/