信頼される病院づくりを
アメリカに本部を置く国際医療機能評価機関であるJCI(Joint Commission International)は世界で最も厳しい基準を持つ医療施設の評価機関と言われる。審査は4日間。アメリカ本部から派遣された3人の審査員が、院内をくまなくチェック。加えて患者や一般職員、委託業者にも予告なくインタビューするという徹底ぶりだ。
医療法人マックシール巽病院は、このJCIの審査基準を見事にクリア。2017年1月、国内では18施設目、近畿地区では初めての認証病院となった。巽孝彦病院長に、その狙いなどについて聞いた。
―取得の狙いを教えてください。
巽病院はじめ、われわれ医療法人マックシールが最も大切にしているのは、「医療の質」です。医療の質と一言で言っても、その基準は診療内容、医療安全、接遇など、さまざまな切り口があります。
また、病院運営にあたり「医療の質をあげるために頑張っています」というのはいまや当たり前。
それよりも、一体どういう方針で、どれだけ頑張っているのかを示すためには、客観的な評価を取り入れることが必要です。しかも、その評価基準を何にするかによっても、質の程度は大きく変わります。
それらを総合的に考えて一体どのような「評価基準」が良いのかを検討しました。さまざまな評価基準がある中で、せっかく取得するのであれば国際的な規格が良いのではという案が出ました。
野球も日本の一流選手が真の評価を問うために大リーグに移籍します。また、ものづくりにおいてもJIS規格がISO規格に代わろうとしています。日本のルールだけでなく、世界のスタンダードに目を向ける必要もあると考えたのです。
―JCIに決めた理由は
日本の評価法について調べますと、一定のマニュアルがあって、その通りにしなければならないという印象を受けました。
一方、JCIには、その国々の国民性をまず尊重すべきだという考えが基本にありました。つまり、「あなたの国に合うような方法で、そしてあなたの病院にかなう方法を自分たちで作りなさい」というのです。その考え方や手法は理にかなっていますし、また挑戦したいとも思いました。
もちろん、JCIの骨格となる手引書はあります。患者さんの視点から見た外来、入院、退院、機材、管理、防災などの14分野で、実に1146項目にも上ります。
そして、その項目をクリアするための方法については、「それぞれの病院独自の方法を考えて作成する」のです。
ですから、当院が作成した方針や手順は、別の病院では全く使えません。
例えば、感染防止の目的で「手洗い」を40秒しなければなりません。しかし、その40秒の計測の仕方は、その病院のスタッフが考えますので、病院の規模や特徴によって違います。当院では、「タイマー」を手洗い場に置いておくことで計測。別の病院はまた違うと思います。
病院の質を保つために必要な考え方をみんなで構築する。その過程に意味があります。
―認証によって何が変わりましたか。
自分たちの頑張りが、世界基準で認められたという意味では、職員が成長し、また自信がついたようです。
というのも、今、病院の職員は、患者さんへの対応の難しさに直面しています。時には、SNSに厳しい意見を書き込まれることさえあります。職員にとって、行動や考え方の拠り所が必要で、それがこの基準に合致したようです。
また、病院のルールというのは、どうしても医師主導で決まりがちです。しかし、審査にクリアするために、自分達が決めたルールですから、例え医師であろうとも従わなければなりません。そういう意味では、病院の文化が変わりました。
患者さんの確認は「ダブルチェック」という決まりがあります。それを守らない人がいれば、職種や職位に関係なく「守ってください」と言えるようになったわけです。
3年後には、また更新の審査がありますが、これを維持し続けることで、医療の質を高く保ちたいと思います。
―病院の特徴は。
1947(昭和22)年に10床で開設。今年で、ちょうど70周年を迎えます。
豊能医療圏にあり、特に24時間体制の救急診療に注力。年間約1800件の救急患者さんを受け入れています。
また、グループには、急性期を経た患者さんの治療を続けていくための回復期リハビリテーション病棟や療養病棟などのある巽今宮病院があり、それに加えて、介護老人保健施設・通所リハビリテーションなどの介護施設や訪問介護・訪問看護・訪問リハビリなど、さまざまな機能を有しています。地域の方を、急性期から在宅まで支えたいと考えています。
私は外科医で、今も救急に携わっています。国の方針が変わる前までの病院は、手術後も退院できるまでしっかり治すというのが当たり前でした。
方針が転換された今は、機能分化が進み、「急性期で手術を終えたから、次の段階の病院に行きなさい」と、在院日数等で区切られています。
機能分化によって治療が分断されているようで、「手術をやった人や病院が最後まで面倒をみなくていいのだろうか」という思いがどうしても残ります。
外科の場合は特に「切り捨てごめん」ではないですが、手術をして、「その時さえよければいい」というような、そんな文化が医療提供側に作られるのではないかという懸念もあります。
そのようなことを避けるためにも、当法人では、急性期から在宅までの機能を繋ぐことで、患者さんを最後まで、きちんと診ることができると考えています。
―課題は。
地域の方の信頼を得ていくための努力を続けることだと思います。それは患者さんだけではなく、職員、お世話になっている企業の方などすべてを含みます。その信頼がなければ、病院の運営は成り立ちません。
そのためにも、救急を断らない、高品質で、より安全で安心感を持って頂ける医療の提供など日々の積み重ねを大事にしなければなりません。院内薬局を維持し続けていることも、その一つの現れです。
地域のみなさんが価値を認めてくれる病院であれば、自然と存続していくはずだと信じています。
職員全員が「自己の育成」を重ねながら、知恵を出し合っていかなければなりません。
医療法人マックシール 巽病院
大阪府池田市天神1-5-22
TEL:072-763-5100
http://www.mcsyl.com/
TatumiHospital/