徳島大学大学院 臨床神経科学分野(神経内科) 梶 龍兒 教授

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「なおる神経内科」を目指して

【かじ・りゅうじ】 1979 京都大学医学部卒業東京都養育院病院内科研修 1985 米国ペンシルバニア大学附属病院臨床フェロー 1987 米国ルイジアナ州立大学メ ディカルセンター助教授 1993 京都大学大学院臨床神経学講師 2015 徳島大学大学院臨床神経科学分野(神経内科)教授

 徳島大学神経内科は四国の大学で初めての神経内科学教室として2003年に発足。梶龍兒教授は初代教授。

 梶教授に教室の特徴や教育に対するモットーなどを聞いた。

◎多様な疾患を担う

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 神経内科はALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性疾患をメインに診ている科だと思われがちです。しかし、それ以外にも脳卒中やアルツハイマー病、パーキンソン病、末しょう神経障害など、担っている疾患は多岐に渡っています。

 ALSのような難治性疾患だけでなく、一般的な疾患も診ているということをもっと知ってもらうために市民向けの啓発活動に注力しています。

 また昨年5月には「第57回日本神経学会学術大会」を主催。大会長を務めさせてもらいました。

 一般市民だけでなく、医療者にも神経内科は「なおる科、なおせる科」ということをもっと認知してもらいたいとの思いを込め、学会のメインテーマは「なおる神経内科をめざして」に設定しました。

 当教室は国内で最も若い神経内科教室です。そんな私たちが神経内科領域における国内最大規模の学会を主催させていただき、とても栄誉に感じましたね。

◎ボツリヌス毒素治療の効果と可能性

 「なおる神経内科」としての取り組みの一つにボツリヌス毒素治療が挙げられます。

 ボツリヌス菌は神経刺激を伝える神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を抑制することにより、筋肉の収縮を抑える作用を持つことが分かっています。

 ボツリヌス毒素治療は現在、ジストニアや片側顔面けいれんなどの不随意運動や脳卒中の後遺症である痙縮(けいしゅく)などに保険適用されています。ボツリヌス毒素治療を実施することでけいれんが収まる、脳卒中後の後遺症で寝たきりだった人が歩ける、動かなかった手が動かせるようになるなど、劇的な効果が認められています。

 そのほかにもCRPS(複合性局所疼痛症候群)の患者さんに対し、ボツリヌス毒素製剤を皮下注射することによって疼痛を緩和できるかどうかの臨床研究などを実施しています。

 私は日本ボツリヌス治療学会の理事長を務めています。しかし、まだまだ認知度が低く、会員は600人ほどしかいません。より多くの人に活動内容を知ってもらえるよう、もっと広報に力を入れなければならないと感じています。

◎臨床応用を見据えて

 神経難病分野では、大量のメチルコバラミン投与によるALSの治療法を開発しています。

 ALSはグルタミン酸が持つ神経毒性によって脊髄での上位および下位運動ニューロン間の神経伝達物質が刺激されて細胞死を起こすことが原因だと考えられています。

 私たちはビタミンB 12誘導体であるメチルコバラミンがグルタミン酸毒性を抑制する効果があることに注目。治療薬として用いることができるかどうかについての研究をしています。

 メチルコバラミンの大量投与によって平均余命が延びるということが分かってきました。今後、大規模な臨床研究を実施し、臨床応用することを目指しています。

 人工呼吸器をつけて社会生活を営んでいるALSの患者さんはたくさんいます。「障害は個性」と受け入れる社会になってこそ初めて日本社会は成熟したと言えるのではないでしょうか。

 ALSの治療法の開発に成功し、例えば呼吸器の筋肉だけを残すことができるようになれば患者さんは人工呼吸器をつける必要がなくなります。そうすると、患者さんが社会で果たすことができる役割が大きくなります。その結果「障害は個性だ」と、社会で受け入れられるようになることも考えられます。

 日本は人口減社会を迎えます。労働力の減少をロボットやAIで補うと言っても限界があるわけです。

 政府は一億総活躍社会の実現を掲げています。その実現のためには障害者や高齢者が活躍できる場が求められています。

◎脳神経外科との連携 

 当院の脳卒中センター(SCU)では脳神経外科と共同で診療をしています。神経内科ではt-PA(静脈内血栓溶解療法)やコイル塞栓術などの血管内治療を担当しています。

 またジストニアでボツリヌス毒素治療の予後が悪い場合には、脳神経外科と共同で、脳深部刺激療法という脳の深部に電極を埋め込み刺激を与えるいわゆる「脳のペースメーカー」手術を実施します。

◎若者たちへ

 ウィリアム・オスラーや日野原重明先生の言葉、それに自分自身のこれまでの経験をもとに「世界で一番すばらしい臨床医になる君のために」というメッセージを教室のホームページに掲載しています。

 医師として、科学者として、社会人として、こうあってほしいという思いを込めています。少しでも若い人の参考になればうれしいですね。

◎インフォームドコンセントとは

 小学4年生のとき無菌性髄膜炎で1カ月半入院しました。その時、担当医師が両親に向かって症状の詳しい説明もないまま、「重大な後遺症が残るかもしれません」と言いました。

 それを聞いた母が号泣していたのを昨日のことのように覚えています。しかし私は順調に回復し、日常生活を送れるようになりました。

 近年の医学教育ではインフォームドコンセントの重要性を強調しています。医療者からの十分な説明と患者家族の理解と同意。それは、もちろん重要ですが、患者さんやご家族がまだ現実を受け止められない状況にも関わらず、告知をしている場面が散見されます。

 私はアメリカで医者をした経験があります。アメリカではALSを告知する場合も、患者さんとご家族とじっくりとお話しして、現実を受け止められる状態かを見極めて、少しずつ告知をするというアプローチをとります。

 ですから、丁寧に症状や治療方針を説明し、疾患に対して理解を深めてもらうことを心がけています。

 日本では「インフォームドコンセント」が使われ過ぎて言葉だけが一人歩きしているかのような印象があります。

 私はウィリアム・オスラーが語った3原則こそが重要だと思っています。

 「患者は何に困って来ているのか」「それに対して何ができるのか」「そうすれば患者の将来・残りの人生に何が起こるか」。その原則に則れば、患者さんとご家族が現実を受け止められるか判断して、少しずつ説明するというのは至って当然のことです。

◎神経内科が果たす役割

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 高齢社会に伴い、脳卒中やアルツハイマー病などの神経疾患に対する医療ニーズが増大してきました。

 これらの疾患にかかった患者さんは、介護対象者となることが多いのが特徴です。今後も患者が増え続ければ日本の介護保険制度は破綻しかねません。

 例えば脳卒中後の痙縮がある患者さんにボツリヌス治療とリハビリテーションを併用するとします。その結果、要介護度5が4になるとしたら、医療経済への貢献と言えるでしょう。

 しかし、日本では神経内科医が不足しています。以前、勤めていたアメリカのペンシルバニア 大学附属病院では神経内科の医師が23、24人いました。内科の他の科をすべて合わせても20人弱。アメリカでは神経内科の規模が内科全体より大きいのが常識です。

 若い人に神経内科の魅力を伝え、一人でも多くの神経内科医を輩出するのが私の使命だと感じています。

徳島大学大学院 臨床神経科学分野(神経内科)
徳島市蔵本町3-18-15
TEL:088-631-3111(案内)
http://neuro-tokushima.com/


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