自主性の尊重が人づくりにつながる
北九州市で、病院、診療所、介護保険施設など14の施設を運営する社会医療法人共愛会。グループの発祥となった下河邉共立病院(現:戸畑共立病院)が設立されてから100余年、法人全体の職員数は1000人を超えるまでになった。
思いは必ず伝わる
―病院の理念について教えてください。
基本理念のひとつに挙げているのが「職員の心がこもった、まごころの医療を提供すること」です。その根底には、まごころを持って患者さんに接すれば、われわれの気持ちや思いは必ず伝わるという考え方があります。
思いを伝えるためには、一人ひとりの患者さんの目線に応じた対応が必要です。
特に、医療の場合、対象となるのは"病める人"。
しかし、たとえ同じ病気であっても、症状は千差万別で、病気の時に感じる気持ちも人それぞれに違います。
このためには、まず患者さんの症状や状態を深く観察し、その気持ちを察して、臨機応変に対応しなければなりません。
海外研修を実施する狙い
―病院運営において大切にしていることは。
「人間力」を持つ人材の確保と同時に、人材の教育が一番重要だと考えています。
このため、院内でのカンファレンス、院内外での研修への参加などに力を入れています。
中でも海外での研修を重視しています。2007年から年1回、職員たちが、主にアメリカやオーストラリアなどの病院を訪れ、医療現場を見学し、見学先では、直接医療職の話を聞けるような場も設けるようにしています。
研修で大事にしているのは、職員の自主性。上司が、「これをしなさい」「参加しなさい」と指示するのでは意味がありません。
海外研修の場合も希望者を募り、毎回約10人が参加します。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師といった医療職だけでなく事務職も加わります。
訪問する病院についても、参加者たちが事前にインターネットで調べて決定。
「この病院に行くからついて行く」ではなく、「自分はどこの病院に、なぜ行きたいのか」を考えることが大事だと思います。
ですから、がん治療に興味のある人たちは、がん診療が得意な病院、終末期に興味のある人は、終末期を強みとする病院など、毎年、訪れる病院はさまざまです。
―海外研修のきっかけは。
私自身、若いころから、海外の医療に興味を持っていました。そこで20年ほど前、私一人で約2週間アメリカを訪れ、いくつかの病院の見学をしました。見学先では、案内してくれた方からアメリカの保険制度などの話を聞いて、日本の国民皆保険制度の良さを改めて実感しました。
また、実際の医療現場を見て一番印象的だったのは、アメリカの病院の医療職が、自身の仕事に誇りを持って、堂々とした様子で働いていることでした。医療職が対等に意見を交わしていましたし、特に看護師は中心になって現場を指揮していました。
日本の場合は、職種や職位によっては、意見を言うのもなかなか難しく、その様子にもどかしさも感じていました。
そこから、アメリカの現場を職員たちに直接見てもらえば、きっと何かを感じてもらえるのではないか。そして、「もっと自信を持って働いてほしい」という思いも伝えたかったのです。
―研修の効果は。
研修から戻ると、「人間として成長したなあ」と感じることがあります。考え方が柔軟に変化したと感じた人もいました。
また、自分の部署のことだけではなく、グループ全体のことを考えてくれるようになった人もいます。
そんな職員を見ると「研修を続けて良かった」と感じますね。
海外研修に参加しなかった職員に対しても、参加者が研修先で得た情報、学んだことを伝える報告会を実施します。
職員には、日本以外の国を知ることで、大いに刺激を受けてもらいたいとも考えています。それによって「もっと学びたい」という意欲を持ってもらいたいと思います。
資格取得で切磋琢磨
―看護師の育成などは。
看護部では、認定看護師の資格を取得したいと考える人がグループ全体で増えています。
救急部門が認定看護師を取得したことが始まりだったと思います。それを機に、「あの部門が認定看護師をとったからうちも」というような、良い意味での競争意識が働いて、他の部署に派生していきました。
グループとしても、「資格を取得したい」という考えを尊重し、取得に必要な費用などをサポートしています。
現在は、がん化学療法認定看護師、がん放射線療法看護認定看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、救急看護認定看護師など、7分野で11人の認定看護師がいます。
今は、認知症看護認定看護師の取得に、石川県に勉強に行っている看護師もいます。8カ月も研修で不在ですから、現場は大変でしょう。しかし、その間は、互いに人員減をカバーし合おうという意識が根付いているようです。
先進的ながん治療を
―今後の取り組みについては。
年に2回は、外部のホールを借りて、「KAIZEN委員会主催発表会」を開催。グループの課題に対して、職員から改善案を出してもらいながら、その場で全員で議論をします。良い提案であれば採用されますので、職員のモチベーションも上がります。
一番の課題はグループ内の連携です。法人規模が大きくなる中で、部署間の連携強化の方法を考えていきます。
診療面では、高齢のがん患者に対する低侵襲の治療に力を入れています。これにともない、放射線治療機器の充実をはかっています。
2016年3月には、北九州市では第一号となる「トモセラピー」を導入。これはCTと一体化し、強度変調放射線治療(IMRT)ができる装置です。装置が患者さんの回りを360度回転し、腫瘍に対しピンポイントで照射することができます。正常組織への照射を抑えるため、体の負担が減ります。
また、2017年12月には、最新のサイバーナイフも新たに導入します。こちらは定位放射線治療(SRT)をする機器です。放射線治療は、腫瘍によって照射する機器の適応が変わりますので、複数の機器を揃えることで、より良い放射線治療を実施することができます。治療は、年明けには始められるよう準備を進めています。
社会医療法人共愛会
福岡県北九州市戸畑区小芝2-4-31
TEL:093-330-0032(法人本部)
http://www.kyoaikai.com/