「哲学」共有で組織成長
経営危機から一転、事業拡大へ。小林記念病院などを運営する愛生館コバヤシヘルスケアシステムの小林武彦代表は、その「哲学」を全従業員に浸透させることで組織を成長させた。小田高司院長とともに、高齢化が進む地域の生活に安心を提供していく。
―十数年前は経営危機だったそうですね。
小林武彦代表(以降、小林代表) 私はもともと外科医です。1980年に父の病院を継ぎ院長になりましたが経営は全くわからない。収支はマイナスになり、職員が次々と辞めていきました。
このままでは病院がつぶれてしまうと思い、2006年、京セラ創業者でJALを再建させた稲盛和夫氏の「盛和塾」に入りました。
盛和塾では、「いかにもうけるか」といったノウハウではなく「人間として何が正しいか」「患者さんのために何をすべきか」というような根源的なことを学びました。
それをもとに経営指針「愛生館フィロソフィ」を作成。「人々の人生をより豊かにします」という使命や、従業員の物心両面の幸福を追求することも理念として掲げました。病院で実際に起きた失敗談と対応策なども盛り込んでいます。
フィロソフィは、私たちのあるべき姿や目指す方向を示しています。冊子にまとめ、清掃員も含めた全従業員に配布し、朝礼で暗唱しています。
また、部署長クラスが年に3回ほど集まって、部署ごとの目標を話し合い、さらに、それらをまとめた「ベクトル」という冊子も、毎年作っています。この医療圏の人口構成や過去の収支動向などのデータも盛り込んでいます。
フィロソフィを作ったことで、病院は大きく変わっていきました。例えば、以前は15%ほどだった離職率が今では7、8%ほど。半分以下になりました。
小田高司院長(同、小田院長) フィロソフィがあったからこそ、院長の職を引き受けられたと思います。何か困ったことがあっても答えはフィロソフィのどこかにある。中でも私は「原理原則に従う」というのが一番好きです。悩んでいて夜中に目が覚めたときなど、よく読み返しています。
朝礼では、フィロソフィの暗唱のほかに、「子どもの病気で仕事を代わってもらい、ありがとうございました」といった報告も職員からあります。お互いさまの精神です。
チーム医療では、医師や看護師、ケースワーカーなどいろいろな立場の人がいます。思いを共有することが重要です。
また、月に1回、コンパという勉強会のような会を開いています。ケーキを食べ、お茶を飲みながら、法人内のさまざまな施設、職種の職員が集まってフィロソフィについて話し合います。組織にとって、何でも話せる雰囲気をいかにつくるかは大切です。
―事業拡大を進めています。
小林代表 現在の病院では、絶対的面積が足りない。病室のほかに、訓練する場所や従業員の休憩場所なども必要です。機能を充実させるために、今、増築の計画を進めています。土地も確保しました。近いうちに完成する予定です。
また、隣接する安城市に来年、新たな特別養護老人ホームを開設します。ここには、最新のナースコールシステムを導入。保育所も併設します。小林記念病院にも、保育所があります。働く環境を整える上で重要です。
1982年に病院を今の形に建て替えた時も、当時の最新設備にしました。近隣の大病院がまだ靴を脱いで上がっていた時代でしたが、下足可能にし、空気交換ができる空調設備も導入しました。そして、一番良かったと思っているのは、まだ必須ではなかった新耐震基準にしたことです。おかげで、耐震補強をせずに済んでいます。
小田院長 当院は一般病床34床、地域包括ケア病床45床、回復期リハビリテーション病床60床、「慢性期リハビリテーション病床(医療療養)」57床の病院です。
ここ碧南市は2025年に、人口はそのままで高齢者が1.5倍になるといわれています。高齢者医療のニーズがさらに増えます。その準備をしなければなりません。
病院には、「よろず相談窓口」があります。看護師が携帯する電話に、地域のケアマネジャーや近隣のクリニックから、「在宅で診ている患者さんをお願い」と連絡がくるんです。
そういう患者さんを受け入れて、再び地域に戻ってもらったり、在宅復帰が困難な患者さんは施設に入ってもらったりします。"困っちゃったら小林さん"という存在に、なることができてきているのではないかと思っています。
―成長のカギは。
小林代表 地域の病院や医師会との連携を密にすることが、成長発展の道だと思います。
一般外来は開業医の先生方にお願いし、うちは入院を中心にする。在宅で看取りまで、というのは家族の介護力の問題もありなかなか難しいのが現状です。在宅で過ごし、クリニックが訪問診療などで診ている患者さんであっても、必要があれば、いつでもうちに入院してもらう形ができあがっています。
介護老人保健施設(老健)やデイサービスなども運営しています。老健は在宅強化型を取得。利用者の方はリハビリなどに積極的に取り組み、在宅へと移行しています。
うちの老健は入所率101%ほどと好調です。一般的にデイサービスの経営は難しいと言われます。値段はどこも同じなので、サービスの質が良くなければいけない。施設がきれいだとか、広いとか、ハード面も大切です。働いている人がピリピリせず、柔らかい雰囲気でいることも大事でしょう。
―将来の展望は。
小田院長 実習で当院を訪れる看護学生には「ここでは、人々のお世話をして人生を豊かにする医療の仕事ができる」と言っています。それは、医者も同じです。
若い医師にとって高度先進医療は確かに魅力的ですが、当院でやっているような「地域の人たちを最期まで見守る医療」も担っていってほしい。卒後10年くらいで、そういう選択をする人が増えてくるのではないかとも思っています。
小林代表 私には夢があります。それは、病院を中心にしたまちづくりです。地域の人たちとコミュニケーションを取りながら、病院を中心にした市街地の活性化を進められたらいいですね。
愛生館コバヤシヘルスケアシステム
医療法人愛生館 小林記念病院
愛知県碧南市新川町3-88
TEL:0566-41-0004(代表)
http://aiseikan.xsrv.jp/