伊賀地区唯一の精神科病院として責任を果たす
1934年に奈良県生駒郡に開院した信貴山(しぎさん)病院をはじめ病院、診療所、介護施設など計20余りの医療福祉施設を奈良・三重両県で運営するハートランドホスピタルグループ。その一員である上野病院は、三重県伊賀市、名張市で構成する「伊賀区域」唯一の精神科病院として幅広い年齢、状態の患者と家族を支えている。
◎子どもから高齢者まで軽度から重度、救急まで
1956年に102床で開設。2004年に、当地に新築移転。落ち着いたブラウンの色調を生かした柔らかい雰囲気の外観とし、患者さんが安心して治療に専念できるような清潔な療養環境を整備。現在は410床を運営しています。
三重県には、四つの二次医療圏がありますが、当院はそのうちの中勢伊賀医療圏に属しています。中でも伊賀区域(伊賀市、名張市)では、唯一、入院機能を持つ精神科医療機関でもあります。
このため、子どもの発達障害から、青年期の統合失調症やうつ病、そして高齢者の認知症など、幅広い世代の、さまざまな疾患に対応したいと考えています。
精神科救急に関しては、三重県の場合、県を南北二つに分け、各地域の病院が輪番制を敷いています。当院は、南部地域の輪番病院です。
◎デイケアが在宅での生活を支える
患者さんの在宅での生活を支えることを目的に、デイケアの運営に力を入れています。現在、四つの大規模デイケアセンターを持ち、個々の疾患に応じたプログラムを提供しています。
第1ケアセンターで対象としているのは、認知機能低下症状のある認知症高齢者や若年性認知症の方。第2ケアセンターでは、10代から60代の精神疾患のある方。第3ケアセンターでは、60代以上で、精神疾患のある方。そして、第4ケアセンターでは、軽度の認知症の方に対応します。
現在、デイケア利用者は第1〜4ケアセンターで約280人。疾患別プログラムの内容は、メディカルスタッフが外部研修などで学びながら、常に新しく専門性が高いものを取り入れています。
近年、地域住民の高齢化にともなって、認知症の患者さんが増加しています。現在、当院のデイケアでも、患者さんの半数が認知症や軽度認知症デイケアに通っている方です。
第1ケアセンターでは認知症の方に対して、体操やゲームなど、さまざまなプログラムを提供しています。
日中の活動をデイケアによってしっかりサポートすることで、認知症の進行を遅らせ、在宅で過ごせる期間をより長くすることが可能です。そうすることで、介護をする家族の負担の軽減にもつながると思います。
また、今年の3月からは、新たに第4ケアセンターでMCI(軽度認知障害)や早期の認知症と診断された方を対象としたデイケアにも取り組んでいます。
このデイケアではまず、規則正しい食生活や睡眠、軽い運動といった認知症になりにくい生活習慣を身につけます。また、認知症で特に低下すると言われる能力を高めるための、当院独自の脳活性化プログラムを患者さんに実施してもらっています。
脳活性化プログラムは、「足踏みをしながら計算問題を解く」「床に引かれた線を踏まないようにしながら、手をたたく」といったように、同時に複数の課題をこなす運動のほか、臨床心理士と複数の利用者がディスカッションする心理教育、昔の生活を思い出して語る回想法などさまざまです。
◎連携型の認知症疾患医療センターに
10月、伊賀地区における連携型の認知症疾患医療センターの指定を受けました。
認知症疾患医療センターには基幹型、地域型、連携型があり、三重県は、基幹型が三重大学医学部附属病院。地域型では、ここ中勢医療圏の三重県立こころの医療センターなど4カ所が指定されていました。
2017年度からは「連携型」の従来の設置要件である診療所に、新たに病院を追加。鑑別診断や人員配置、検査体制などの項目で専門的な医療機能を持っていることが選定要件です。これまで連携型は三重県内にはありませんでしたが、4カ所の病院が連携型として指定。伊賀では、当院が指定を受けることになりました。
伊賀地区に、初の認知症疾患医療センターができれば、医療センターで受診したいと、わざわざ津市に行っていた患者さんも、身近にある当院で同様の医療が受けられます。また、センター化によって、医療機関同士の連携もスムーズになると思います。
当院としては、これまで病院の取り組みとして続けてきた認知症に関する情報の発信などを、今後は県のセンター事業として継続的にできるというメリットがあります。
センターとなることで、責任は重くなりますが、職員たちのモチベーションは高まりますね。
◎患者サービスの充実に向けて
患者さんに満足していただける医療を提供するために、当グループが早くから力を入れているのが「食」です。
病院やデイケアで過ごす患者さんにとって食べることは大きな楽しみ。旬の食材を使った季節のメニューにしたり、調理方法や盛り付けにもきめ細かな心配りをしたりします。
七夕のちらし寿司など、行事食も好評です。誕生日には、特別にデザートも用意しています。
人材育成にも力を入れています。看護部では、クリニカルラダー制度(看護師の能力開発、評価システム)を取り入れ、看護師自身が自分の能力レベルを確認しながらスキルアップを目指しています。
また、グループ独自の「ハートランド検定システム」を取り入れ、看護師を中心に、精神科病院で働くための知識を深めています。
このシステムには1級から3級まで階級があるのですが、年1回受験して最終的には1級取得を目指しています。
出題するのは、当院の精神看護専門看護師。求められる知識のレベルは高度です。先輩が後輩に勉強を教えながら互いに頑張っています。
◎存在意義のある病院に
20年後、30年後、日本の医療システムがどう変化していくのかは不透明です。
地区唯一の精神科病院であっても、安穏としてはいられません。時代を先取りする意識で病院運営に取り組みたいと思っています。
地方にある病院でも、特長があれば、患者さんは遠方からでも診療に訪れてくれると思います。
「上野病院がここにあって良かった」。患者さんからそんな言葉をいただくことがあります。地域の役に立ち「ありがとう」と言ってもらえる。それが私たちの喜びであり誇りです。スタッフが誇りを持って働ける病院であり続けたいですね。
一般財団法人 信貴山病院分院 上野病院
三重県伊賀市四十九町2888
TEL:0595-21-5010
http://www.heartland.or.jp/ueno/