関西医科大学整形外科学教室 齋藤 貴徳 主任教授

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低侵襲手術がもたらすパラダイムシフト

【さいとう・たかのり】 1983 関西医科大学卒業 同整形外科学教室入局 1989 米国アイオワ大学神経内科 2001 関西医科大学附属男山病院整形外科 2007 同滝井病院整形外科部長 2009 同病院教授 2017 関西医科大学整形外科学教室主任教授

 4月に就任した齋藤貴徳主任教授の方針は明確だ。自身の専門領域である脊椎分野の低侵襲化と手術支援技術の開発を両輪に、新たな教室の歴史が始まった。

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◎刻々と近づく変革期

 初代の森益太教授は関節リウマチ、2代目の小川亮惠教授は手のリウマチ、3代目の飯田寛和教授は股関節が専門。今年4月に就任した4代目の私が脊椎という流れで、当教室は歴史を積み重ねています。

 私が関西医科大学出身者として初めて整形外科学教室の主任教授となったことで、新しい伝統づくりに踏み出していく段階に入ったのではないかと感じています。

 1年目は再編の準備期間として、私の専門である脊椎と、前任の飯田先生が関西医科大学総合医療センター(旧: 関西医科大学附属滝井病院・大阪府守口市)で開設した人工関節センターの2本柱で運営。

 来年度以降で、膝関節、手の外科、スポーツ整形を加えた「5本柱」とする構想をもっています。また関西医科大学附属病院は研究開発、総合医療センターは臨床、関西医科大学香里病院(大阪府寝屋川市)は術後のフォローアップや地域医療を主体にしたいと考えています。

 「どこにいても関西医科大学整形外科の医局員である」というスタンスのもと、順次、同門の先生への訪問も進めています。これまでにも増して一体感を高め、互いにバックアップする「いい循環」を生むことで、地域医療の強化にもつながっていくでしょう。みなさんから、頼ってもらえる教室を目指します。

 当教室の脊椎治療は経皮的にねじを入れる脊椎手術やXLIF(エックスリフ)など、低侵襲手術に特化しています。

 出血量が少なく、手術は短時間で終了し、術後の回復も早い。入院期間も短期で済む。最先端の技術を駆使し、患者さんに低侵襲手術のメリットを提供できるよう努めています。

 医師の間でも近年の低侵襲化への見解は、いまだ定まっていない時期にあると思います。

 従来の手術でも痛みを取り去ることはでき、動けるようにもなる。術後1年もたてば、患者さんの回復の度合いに差はなくなるのだから、傷の大小に固執する必要はないのではないか―。

 そのような意見があるのですが、低侵襲手術の本質は「手術適応のパラダイムシフト」を起こす力をもっていることにあると思うのです。

 手術の対象者が高齢化し、合併症のリスクも高まっています。本来なら脊椎に「ねじ」を設置しなければならない疾患だが、高齢のため少し骨を削って、しばらく痛みを緩和する処置にとどめるしかない。

 このような、これまでなら適応が難しかったケースでも、低侵襲化によって「誰でも適応になる」時期を迎えているのです。超高齢社会の標準的な手法になりうるということです。

 私たちの術前カンファレンスでは、患者さんの年齢のことも合併症のことも、ほとんど話題に上りません。なぜなら当教室では、あらゆる年代の患者さんに対応できる低侵襲手術を提供しているからです。

 「ねじ」そのものについても、従来の大きく切開して入れるものと、経皮的に入れるものとは構造的な違いがあります。

 日本でのシェアはオープン用のねじが約7割、低侵襲手術用のねじがおよそ3割だと言われています。米国では5割程度に達しており、若い医師を中心にして伸びているという状況にある。

 おそらく日本でも、数年先には米国のようになるのではないか。スピード感は異なりますが、内視鏡が普及したのと同様の医療の変革期が近づいていると考えています。

◎ 30%のまひをどう予防するか?

 後縦靱帯骨化症(OPLL)などの難病や髄内腫瘍といった特殊な疾患は、まひの可能性を覚悟して手術に望まざるをえません。昨年、脊椎外科学会がまとめた統計によると、難易度の高い脊椎手術のうち、約30%でまひが発生しているということです。

 昔と比べると徐々にまひの割合は低くなっているのですが、ゼロに近づけていくために、手術支援技術の開発に取り組んでいます。

 「術中脊髄モニタリング」が普及期に入りつつあります。私は電気生理学をメインの研究テーマとしており、長年、モニタリング技術の向上と普及に力を注いでいます。

 微量の電気的な刺激を脊椎に与え、波形の変化を観察。神経にどの程度の力で触れているかが判別できますので、より安全に手術を進めることができるのです。当教室では、全症例でモニタリングを実施しています。

 米国では、私がちょうどアイオワ大学神経内科に留学していた30年近く前に、術中脊髄モニタリングの導入が始まりました。いまや患者さんは、「モニタリング設備が整っているかどうか」を基準にして手術を受ける医療機関を選ぶほど、米国では一般にも広く認知されています。

 私が理事を務める日本臨床神経生理学会では「術中脳脊髄モニタリング委員会」の委員長として、整形外科、脳神経外科、リハビリ科、麻酔科などさまざまな分野の医療者が集まり、当学でトレーニングを重ねる機会を設けています。

 現在、術中モニタリングのガイドラインの作成も進めています。学会は脳波分野の専門医、筋電図・神経伝達分野の専門医と専門技師の制度を設けており、2年後をめどに、術中モニタリング分野の専門医制度も創設する予定です。

◎脊椎治療の未来

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 2013年、私を含めて5人の医師でスタートさせた「MISt(minimally invasive spinestabilization=ミスト)研究会」の活動も、少しずつ知られるようになってきました。

 MIStは私たちがつくった言葉で「脊椎小侵襲安定術」を指します。低侵襲で脊柱の安定化を図る手技の総称です。北海道から九州までの各地域の研究会のほか、海外支部も順次開設予定。学会などでもずいぶん「MISt」という単語が定着してきました。

 現状、脊椎の治療法は骨を削って神経の圧迫を取り除く「除圧」か、不安定な脊椎に対する「固定」の二つがあります。

 MISt研究会の活動は、いわば第3の選択肢を探るものです。安定化とは、単に「動かなくする」という意味ではありません。

 人工膝関節や人工股関節では、「制動しながら動かす」技術を用いることで痛みを解消しています。脊椎の領域にも、きっとそのような時代がくるのではないかとイメージしています。

 腰椎変性すべり症や腰椎分離症などは、骨と骨の間の軟骨部分にねじを入れて、背骨が動かないように固定します。

 しかし背骨への負担がかかりやすくなり、10年ほど経過すると圧迫によって背骨がつぶれてしまったり、ぐらついてきたりします。再手術の頻度も高いのです。

 そこで、これまでは固定していた部分に「動くもの」を差し込むことで負担を緩和しようという試みが、米国で始まっています。

 われわれの研究会でも、例えば柔軟性のある棒状のもので固定させたり、ばねを活用したりと、さまざまな角度から技術開発を推進しています。

 人工膝関節も、人工股関節も、昔はすぐにゆるんでしまう製品ばかりでしたが、改良を重ねることで技術が確立されました。脊椎の領域も完成に至るには長い年月を要するでしょうが、私の夢として、追いかけていきたいですね。

関西医科大学 整形外科学教室
大阪府枚方市新町2-5-1
TEL:072-804-0101(代表)
http://www3.kmu.ac.jp/kansai-ortho/


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