佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科講座 西田 誉浩 教授

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テーマは研究面の底上げ 日本発のエビデンスを

【にしだ・たかひろ】 1988 九州大学医学部卒業 1990九州大学医学部附属病院心臓外科 1997 ベルギー王国ルーバンカトリック大学心臓外科 2013 九州大学病院心臓血管外科講師 2016 横浜市立市民病院2017 佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科講座教授

 心臓血管外科領域と呼吸器外科領域からなる佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科講座に、9月、西田誉浩新教授が就任。自身が培った実臨床への橋渡し研究の経験を生かして「臨床と研究が一体化した教育体制を構築していきたい」と述べる。

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―どのような講座を目指しますか。

 私たちの時代は臨床研修制度もありませんでしたから、大学を卒業した学生の多くは母校への入局を選びました。もともと外科医を志望しており、医局説明会で「やりがいがありそうだ」と感じたのが循環器。九州大学で心臓外科医を目指そうと決めました。

 なかなか手術を経験するチャンスは巡ってきませんでした。一方で、他の大学に入局したり、関連病院に赴任したりした同期たちは、一足先に手術を任される機会を得ていた。それぞれの教育方針があることは理解しつつ、やはり、はやる気持ちがありましたね。

 そのような自身の経験もあって、一定のスキルに達した若い医師には、できるだけ早い時期に手術をしてもらいたいと考えています。

 9月の教授就任からまだ日が浅いですから、まずは医局の先生たちの手術に入ったり、私の手術を見てもらったりしながら、みんなの技量や、佐賀大学のやり方などを学んでいるところです。

 大学時代には研究にも打ち込みました。心臓外科の研究室で私たちがスタートさせたプロジェクトが、循環器内科をはじめ、多様な分野との共同研究に発展。臨床応用に至るなど、成果を残すことができました。

 臨床面だけではない大学の魅力を生かして、トランスレーショナルリサーチのノウハウを得られたのは、現在の私の土台になっています。

 これから佐賀大学で私に求められ、担うべき役割の一つは、研究面をしっかり底上げすることだと考えています。

―最新の取り組みは。

 佐賀大学では種々の臨床研究に加え、iPS細胞を応用した再生医療など、さまざまな興味深い研究プロジェクトが同時に進行しているのです。中でも実用化に最も近い位置につけているのが「再生血管」の開発です。

 本学の医学部臓器再生医工学講座教授・中山功一先生は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2014年度採択事業「バイオ3Dプリンタで造形した小口径Scaffold free 細胞人工血管の臨床開発」のプロジェクトリーダーを務めるなど、「立体造形による機能的な生体組織製造技術」の確立に注力しています(2016年度に国立研究開発法人日本医療研究開発機構=AMEDに移管)。当講座も、伊藤学助教らが共同研究者として参画しています。

 ヒトから採取した細胞を大量に培養し、凝縮した団子状の「細胞塊(スフェロイド)」を作製。バイオ3Dプリンタにセットした「剣山」にどんどんスフェロイドを刺して積層していくと、やがてそれらが融合し、一つの組織になる。剣山を抜去すると「血管」の形状が出来上がるのです。

 従来の人工血管は異物ですから、感染症や血栓などのリスクがあります。また、現在の技術では、実用に耐えうる内腔4ミリ未満の人工血管をつくることはできません。

 「細胞製」の血管なら感染症のリスクは極めて低く、研究の進展により弾力も強度も問題ありません。内腔も3Dデータの調整により任意に設定することが可能です。動物に植え込んだ細胞製血管は血流も良好。2019年の臨床応用を目指しています。

 研究は高い評価を受けており、9月、国による「第15回産学官連携功労者表彰〜つなげるイノベーション大賞〜」日本学術会議会長賞を受賞しました。これまで治療が困難だった血管障害の克服に向けて、さらなる成果が期待されています。

―今後は。

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 私が九州大学にいたころ、臨床のデータをまとめて新たな発見につなげる研究に精力的に取り組みました。佐賀大学でも私の経験を生かして、データベースの構築や関連病院との多施設共同研究による前向き研究など、アカデミックな発想で医療にアプローチできる教育環境を整備したい。

 循環器の分野における日本のエビデンス創出は海外に大きく水をあけられています。

 日本循環器学会「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」2012年改訂版の前書きにも「我が国発のエビデンスの蓄積は十分になされたとは言い難い」とあり、特に「忸怩(じくじ)たる気持ちである」という部分に、危機感が表れていると思います。

 注目している研究テーマの一つは「人工弁の長期成績の検討」です。

 人工弁の種類によって合併症が起こる確率はどのくらいか、寿命に差が生じるのかなどのデータを収集し、分析します。製品によって明らかな優位性があるのなら、治療の選択も精度が上がる。

 このような研究も日本では少なく、諸外国が先行しています。海外のデータが日本人にもすべて当てはまるわけではありませんから、独自の研究でエビデンスを発信したいですね。

 今、このようなフレーズを使うと流行を意識したように思われるかもしれませんが(笑)、学生時代、九州大学第一外科の助教授の先生が「Erstens Kranke(患者ファースト)」だとおっしゃっていたのが印象に残っています。

 ドイツ語ですが、「いい外科医」の条件とは、そこに集約されるのではないかという気がします。

 佐賀県で初めてのTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)実施施設として症例を重ねるなど、佐賀大学では診療科や職種を横断したチーム医療がますます深化、高度化しています。

 その一員となり、症状に応じて「患者さんに最良の医療とは何か」を考えることのできる医師になるには、豊富な知識を有し、実行に移すことのできる技術をもたなければならない。どんな局面でもあきらめずに、継続を力に変えることができる。そんな外科医を育成したいと考えています。

佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科講座
佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511(代表)
http://www.thoracs.med.saga-u.ac.jp/


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