医師確保でつなぐ未来
「生命だけは平等だ」と、徳洲会グループの創始者、徳田虎雄氏は言った。
徳田氏が生まれた場所は、兵庫県高砂市。創始者の出身地で開院15年目の「高砂西部病院」は、今、転換期を迎えている。
◎やる気がある医師に積極的な投資を
「医師がほしい」。それが、一番の願いです。
私の実感として、近年は、患者さんを増やすよりも、医師を増やすほうが難しい。高齢化で増加する救急患者に対応するためにも、多様化する患者・家族の願いに応えるためにも、医師の増員が必要ですが、まだまだ不十分です。
現在の常勤医は9人。理想は20人超。年齢に関わらず、やる気がある医師、前向きな医師を求めています。
徳洲会グループの病院は、創設時から救急に力を入れてきました。
2003年に開設したわれわれの病院も、2008年に救急告示病院の指定を受け、翌年には、東播磨医療圏二次輪番医療機関に加入。
2016年は、救急車による搬入とウオークインを合わせて、市内の医療機関で最も多い約2300人の救急患者を受け入れました。
緊急手術では、私の専門である急性腹症全般に対応し、虫垂炎の手術を30例実施。高齢者の転倒による大腿骨頸部骨折手術は約80例。脊椎の圧迫骨折も増加しています。
しかし、今もなお、救急患者のおよそ半数は市外の医療機関に運ばれるなどしています。
もっと多くの人を、この病院で治療したい。治療は無理でも初療によって患者の状態を安定させ、高度専門医療機関につなげたい。
「断らない救急」は難しくても、なるべく多くの救急患者に対応することを目標に掲げています。
私の前任地は、岸和田徳洲会病院(大阪府岸和田市)です。341床の急性期病院で、三次救急を担う救命救急センターもある。その病院の姿が、モデルとして頭の中にあります。
今はできることが限られているとしても、常勤医が少なくて多少しんどくても、急性期のレベルを維持し、向上を図る積極的な姿勢は失いたくない。志を持ち、一生懸命取り組む医師には、投資を惜しまない、というのがわれわれの方針です。
◎年内に結論回復期リハ病床開設か
高砂市の人口は約9万2000人余り。市内には、当院と高砂市民病院があります。
隣接する加古川市には2016年夏、600床、30診療科の加古川中央市民病院が開院。姫路市内にも姫路赤十字病院(555床)のほか中小病院も複数あり、競争が激しくなっています。
現在、この病院は一般急性期病床168床、医療療養病床51床の計219床。そのうち20床を休床し、199床で運用しています。
休床している20床分をどうするべきか、数年間検討を重ねてきました。 「医師が増えれば急性期病床として使えるかもしれない」「診療報酬はどうなるのか」。不確定要素が多く、なかなか決断に至りませんでしたが、2018年に診療報酬・介護報酬の同時改定を控え、猶予はありません。
兵庫県地域医療構想の必要病床数等推計結果によると、2025年には当院がある高砂市を含む東播磨医療圏で回復期病床数が1586床不足すると推計されています。
そこで今、一般急性期から一部病床を移行し、計30〜40床で回復期リハビリ病棟を開始する方向で話を進めています。当院の急性期病床からだけでなく、近隣の急性期病院からの患者の受け皿となるはずです。年内には結論を出すつもりです。
医療療養病床は、常にほぼ満床。透析や酸素吸入、中心静脈栄養が必要な方などが入院しています。
近年、病院周辺に高齢者施設が増えてきました。超高齢者の誤嚥(ごえん)性肺炎など内科系疾患による受け入れ要請も多くなっています。
高齢者の入院は長期化の傾向があり、近隣の施設との連携も不可欠です。
当院には4人のケースワーカーがいます。地域包括ケア・回復期リハビリ病床がある病院、高齢者向け施設などに連絡を取り、患者さんの回復状況や家族構成などを見極め、迅速に次の医療機関や施設へとつなげています。
◎高いスキルと真摯な気持ち
医師、看護師、薬剤師、医療事務職、すべての職員に願うのは、「どこの医療機関に勤めたとしても通用するぐらいのスキルを持つ」こと。それがこの病院の患者さんを救うことになります。
新人として入職し、ほかの医療機関に移ることもあるでしょう。その時に、「高砂西部病院にいたからレベルが低いんや」と言われてほしくない。院内では、職種や役職に合わせたきめ細やかな研修を実施。学会などへの参加も推奨しています。
もう一つ、大事にしたいことは、患者さんに対する真摯(しんし)な態度です。
1999年、私は岸和田徳洲会病院から、奄美大島(鹿児島県)にある瀬戸内徳洲会病院へ赴任しました。1年間限定の院長職。これが大きな転機になりました。
それまでは、若い患者さんの特定の病気を手術で治せば、治療がすべて終わるという感覚でした。しかし、離島は高齢化が始まっていた。慢性病がいくつも重なっている人が多く、仮に手術が成功したとしても、その人の医療機関との付き合いはずっと続いていくのです。
超高齢社会を迎え、あの時の奄美大島と似た状況が、目の前に広がっています。患者さんがずっと通いたい、頼りたいと思ってくれる病院でありたい。真摯に患者さんを「診る」「看る」「見る」という気持ちを、職員全員で、共有していきたいと思っています。
◎年間6人研修医に希望
2016年度から、兵庫医科大学病院臨床研修プログラム内の「地域医療研修」枠で、初期研修医が当院で学ぶようになりました。2人ずつ2カ月間、年間3組。現在も2人が研修しています。
昨年の医師の口コミで、今年の医師が来てくれたことを考えると、評判は悪くないのでは、と思っています。いつか、この病院に戻ってきてくれたら。そんな期待も抱いています。
大学病院に来る患者さんは、治療が難しい患者さんが多く、すでに診断がついた状態で紹介されてくる場合がほとんどです。
当院には、軽症から重症まで、診断がついていないさまざまな状態、症状の患者さんが訪れます。
ここでの一番の特徴は、研修医の先生に、まず、患者さんを診てもらうこと。当然、その初期研修医の能力、人柄などを把握して、というのが前提ですが、われわれがきちんとフォローするから、ファーストタッチはしてみてください、と。
先輩医師が診察したり、治療したりする様子をただ見ているよりも、勉強になり、やる気にもつながると考えています。
今の時代は、初期研修医が保護されすぎていると思います。医療が高度化し、専門分化していると言っても、患者さんの話にじっくり耳を傾け、触れ、診察するという基本は同じ。医師免許を持っているにもかかわらず、何もさせないのでは、医師として一人前に仕事ができるようになるまでに、長い時間がかかってしまいます。
医師としての責任を感じながら、患者に向かい、自分で考え、診断を下す努力をする。それこそが、研修医にとって何よりも大事な経験となるはずです。
医療法人沖縄徳洲会 高砂西部病院
兵庫県高砂市中筋1-10-41
TEL:079-447-0100(代表)
https://www.takasagoseibu.jp/