近畿大学医学部循環器内科学 宮崎 俊一 主任教授

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ジェネラルを取り戻す

【みやざき・しゅんいち】 土佐高校卒業 1979 京都大学医学部卒業 1987 京都大学大学院医学研究科学位取得 米国カリフォルニア大学医学部研究員 1989 国立循環器病センター 2006 近畿大学医学部循環器内科学主任教授 2016 大阪府済生会富田林病院院長(兼務)

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◎幹なくして枝はなし

 「内科学」という学問は、今や消滅しつつある学問なのでしょうか。

 内科と言うと、一様に「どの専門分野ですか」と聞かれるわけです。私が京都大学医学部を卒業した1979年当時、内科学は「内科領域を全般的に診る学問」という共通認識だったと思います。

 真偽は定かでないが、米国には10ある肺区域のうちの「S6」を専門としている医師がいるらしい―。そんな噂が広まり、「ばかな」と笑った記憶があります。「なんでも診るのが当たり前だろう」と。

 かつて大学の講座は第一内科、第二内科といった「ナンバー制」が主流でした。現在でもいくつかの大学がナンバー制を採用しているものの、循環器内科学、消化器内科学、呼吸器内科学など、臓器別に編成されているのが一般的です。

 科学が未知の領域を解き明かし、多様な専門性が確立され、新しい分野が生まれる。学問の正しい進化だと思います。

 では、細分化した各教室は、内科学の「代わり」なのでしょうか。

 現在、日本内科学会が指定する内科系関連学会は13(※)。専門医が集まればどんな疾患にも対応できるのだから、1人の医師が全般的に診る力を身につける必要はない。そう考える向きもありますが、私はそうではないと思います。

※日本消化器病学会、日本肝臓学会、日本循環器学会、日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本腎臓学会、日本呼吸器学会、日本血液学会、 日本神経学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本老年医学会

 長い歴史の中で内科学の知識や技術が体系化され、その裾野として現在の臨床領域が広がっている。いわば「内科学」という幹が存在しないのに、「専門領域」や「最先端」の枝だけが大きく育つことなどあり得ないでしょう。

 医師不足や高齢化に悩む地域の医療に目を向けたとき、専門医という枝だけを接ぎ木し続けていて、本当に課題が解決できるでしょうか。

 「私はこの病気です」と医師に伝える患者さんはいません。頭が痛い、お腹が痛いと症状を訴えるだけです。

 内科診断学に基づいて直接患者さんの訴えを聞き、聴診器をあて、どこがどう痛いのかを確認することが適切な診断につながります。電話での情報だけで「専門ではないから診察できない」と判断するべきではない。特に救急の現場では、重大な疾患を見逃さないためにも、まずは診察をするべきだと考えます。

 私は日本内科学会の認定医制度審議会副会長として、新専門医制度の策定に関わっています。

 その立場から言えば、ジェネラルとスペシャルのバランスが偏りすぎているのではないか。もう一度、幹の重要性も再認識すべきではないかと思うのです。

◎2025年問題の本質

 「第65回日本心臓病学会学術集会」(9月29日〜10月1日・大阪国際会議場)の会長を務めます。「幹と枝のバランス」を見つめなおす契機になればとの思いから、テーマを「臨床心臓病学のジェネラリティとスペシャリティ」としました。

 会長特別企画の一つとして、パネルディスカッション「循環器診療における2025年問題を斬る!」を予定しています。

 座長を私と、全国自治体病院協議会会長で赤穂市民病院名誉院長の邉見公雄先生が担当します。

 厚生労働省医政局地域医療計画課の伴正海氏による2025年問題の解説を踏まえ、岩手医科大学・伊藤智範内科学講座循環器内科分野教授、京都大学医学部附属病院・稲垣暢也病院長、大阪府医師会・中尾正俊副会長、尼崎総合医療センター・藤原久義院長ら4人の医療者が、循環器診療の課題と解決策を議論。

 当大学の具体的な症例などを投げかけながら、高齢者が増加し、地域包括ケアの構築が進む時代に「ジェネラリストがなぜ必要か」を明らかにしていきます。

 2025年問題の本質を知っているのは、医療者ではなく、地域に暮らすみなさんでしょう。認知症による徘徊などをはじめ、身近な困りごとは急激に増加しています。すでに始まっている諸問題に対して、私たち医療者の準備は間に合うのか。危機感をもって、ジェネラルとスペシャルのあり方を問いたいと考えています。

◎「これしかない」はベストにあらず

 当教室はジェネラルを重視する私の方針を反映して、一つのことに特化しません。循環器にまつわる診療、教育、研究すべての領域で、高い水準を維持できる教室づくりを目指しています。

 冠動脈疾患チームは私、不整脈チームは栗田隆志心臓血管センター教授、超音波診断チームは平野豊准教授、画像診断チームは岩永善高准教授。それぞれがバランスよく活動し、循環器病学の全体像をカバーしています。

 若い医師には、少なくとも1年間はジェネラルとしての研さんを積んでもらいます。これから医師として長い人生を歩む上で、特に初期の段階においては、できるだけ多くのチャンスを得ることのできる環境を用意したいと思っています。

 循環器疾患は救急疾患が多いことを考えると、短時間で適切な意思決定がなされなければならない。「これしかない」と思っていた治療の選択肢が、明日には使えなくなってしまう。そんなケースは珍しくありません。

 国立循環器病センター(大阪府吹田市)のCCU(集中治療室)にいた17年間(1989年〜2006年)で、循環器疾患は「いつ発症したか」「いつ治療するか」が勝負であると学びました。

 一刻を争う現場でベストな判断を下すには、ベースメントとなるジェネラルが欠かせないわけです。人間は心臓だけで生きているわけではない。1人の人間の全体を診る能力があって初めて、救急医療は成立するのですから。

 外科領域との協働も積極的に進めています。2011年、心臓血管外科とともに、「心臓血管センター」を開設。患者さんにとって本当にベストな治療を届けるために、豊富なオプションをそろえています。

◎共に取り組む医療を

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 医療費や地域医療の危機といった問題の根本には、医療者と患者の関係性の希薄化が関係していると考えています。

 父親が心臓カテーテル治療を受けることになった友人が、「時間をかけて詳しく説明してくれたが、理解しきれなかった」と漏らしていたことがあります。ガイドラインや病院の方針として同意書を作成するわけですが、ややもすれば、患者さんは「すべてお任せします」と言わざるを得ない状況を招いている気がします。どこまでの説明が必要なのか、議論の余地があると思っています。

 医療の役割は、私なりに単純化した言葉にすると「長期予後とQOLの改善」に集約されると思います。患者さんにも「医療者の一員」として協力してもらうことで、医療はより質が高く、効率的なかたちに変わっていけるのではないでしょうか。

 「共に取り組む医療」の考え方を患者さんに理解してもらうためには、安心してもらうことが前提。ジェネラルな医療が、信頼関係を深めるのに貢献できるのではないかと思います。

近畿大学医学部循環器内科学
大阪府大阪狭山市大野東377-2
TEL:072-366-0221(代表)
http://www.med.kindai.ac.jp/junnai/


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