林内科胃腸科病院 上津原 甲一 院長

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

患者の心と向き合う「音楽療法」

【うえつはら・こういち】 1967 鹿児島大学医学部卒業 1970 東京女子医科大学脳神経外科教室助手 1976 鹿児島大学脳神経外科講師 1981 カナダブリティッシュ・コロンビア大学脳神経研究所留学 1982 鹿児島大学脳神経外科助教授 1988 鹿児島県立大島病院病院長 1990 鹿児島市立病院脳神経外科部長 2005 同病院長 2014 林内科胃腸科病院院長

 慢性期患者とその家族が、少しでも前向きに病気と向き合えるように、と音楽療法に取り組む林内科胃腸科病院。上津原甲一院長は脳神経外科医として、脳の働きを治療に応用。音楽で右脳を刺激し、左脳を抑えて、患者とその家族の情緒安定に生かしているという。

k18-1-1.jpg

―音楽療法について教えてください。

 入院中の患者さん、特に慢性期の患者さんは、多くの場合、強い精神的ストレスを抱えています。ノルアドレナリンが分泌され、左脳が活発な状態に。過剰とも言える不安や焦燥感が出やすい状態です。

 私は、脳神経外科医として、知的脳と言われ、思考をつかさどる「左脳」をコントロール・鎮静化するために、情緒脳と言われ、音楽によって刺激を受ける「右脳」の活性を考えました。

 音楽で右脳を刺激することで、患者さんは心の穏やかさを取り戻す。これが、当院で継続的に実施している「音楽療法」の狙いです。

 音楽療法では、参加者の年齢層に合わせ、季節感に重きを置きながら10曲程度を選曲。患者さんの情緒を高めると思われる歌を看護師が選び、デイケアと病棟で、それぞれ月2回ずつ開催。寝たきりの患者さんを含め全員が参加し、看護師が手作りした歌詞カードを見ながら一緒に歌います。

 音楽療法の最中に、涙を流す患者さんもいます。その歌を歌っていた当時の記憶が刺激されるようです。

 音楽療法の開催日を知らせるポスターは、看護師が手書きで作成してくれます。この柔らかいタッチの手書きポスターが病院内を優しい雰囲気にしてくれます。

―音楽療法の反響は。

 音楽療法を始めて2年。徐々に患者さんに定着していると思います。この日だけは必ず来てくださるデイケア利用者も多いようです。

 病棟で音楽療法を受けた74歳の男性患者が、ある日、院長室を訪ねてきたことがあります。「退院を2週間延ばしてもらえないだろうか?」。理由を聞くと、驚くものでした。「入院中、音楽療法に参加して生きる希望がわいてきた。もう一度、2週間後の音楽療法を体験して、もっと気持ちを前向きにしてから退院したい」と言うのです。言葉通り、この患者さんは、後に元気になって退院されました。

 寝たきりで無反応だった患者さんが、音楽療法後に口を動かし、歌うかのような仕草を見せ始めることもあります。

 音楽療法を通して、病気と向かい合う「心=脳」を刺激し、患者さんの気持ちをポジティブに誘導できているのではないでしょうか。

 音楽療法を受ける患者さんが楽しげにハツラツと歌う様子を見て、音楽療法による患者さんの情緒の安定を実感しています。そして、改めて医療における精神的サポートの重要性を感じます。

―スタッフの反応は。

 患者さんとスタッフが共に歌う音楽療法を通して、両者に「絆」が生まれ、病気に対するバックアップの精神が生まれています。

 さらにスタッフは、患者さんの心がほぐれていく様子を目の当たりにして、患者さんに「人」としてどう接していけばいいのかを考えるチャンスを手に入れられているとも思うのです。

 私は、医療従事者は、専門家としての知識、技術と共に「立ち振る舞い」も重要だと考えています。近年、医療現場で一般的になってきた「インフォームドコンセント」は、相手を思う心、つまり医療倫理がベースになっています。医療は、知識や技術だけではなく、相手への思いやりの態度(アティテュード)がとても大切です。

 現在、私は、大阪青山大学(大阪府箕面市)で医療倫理講座の教壇に立っています。そこでも、患者さんに対するあるべき態度について、事例を踏まえながら丁寧に伝えています。

 学生たちの反応は上々で、医療の基礎となる「患者の安らぎを支えるケア」の大切さを理解してくれていることをとてもうれしく思っています。

 当病院では、リハビリ患者向けに「はやし体操」という音楽と体操を融合した療法も取り入れています。特に、デイケア利用者への取り組みです。体操に使う歌の作詞はリハビリ科スタッフ。職員が一丸となって、患者さんが楽しくリハビリに取り組んでくれるように工夫を重ねています。

 スタッフが医療人として、音楽療法を活用しながら、取り組むべき医療倫理を積極的に考えるようになっていると感じています。

―今後の取り組みを教えてください。

k18-1-2.jpg

 高齢化が進む現代社会では、認知症的な状態にある患者さんに対応する手立ても必要になってきます。

 そこで取り入れ始めたのが、フランス発の認知症ケア技法である「ユマニチュード」です。患者さんに対して、人間としての尊厳を大切にしながら、「見つめる」

「話しかける」「触れる」「寝たきりにしない」の四つの基本を重視します。

 知識に溺れていてはできない「人間と人間との関わり」を重視したケアです。

 当院では、医師・看護師をはじめ、すべての医療スタッフが、患者さんに対して、「いかに心と体を癒やすことができるか」を大切にしながら治療に取り組んでくれていると信じています。

 「音楽療法」や「ユマニチュード」を活用しながら「肉体的・精神的な治療」をさらに発展させていきたいと思います。

医療法人起生会 林内科胃腸科病院
鹿児島市武2-33-8
TEL:099-257-6969
http://hayashi-hp.or.jp/


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る