必ずいい医師に育てます
◎すべてを受けとめる
2000年、大分大学医学部附属病院に総合診療部が発足。2013年に総合内科・総合診療科となりました。「医学部総合診療・総合内科学講座」としては、今年2月に開講したばかりです。
私のもともとの専門は呼吸器。旧第三内科時代にも幅広い領域を診ていましたので、総合診療に近い位置にいたのかなと思います。
医局員は17人。私も就任してまだ5年目。発展途上ですので、教室が一丸となって勉強に励んでいるところです。
学生や研修医たちが抱く総合診療医のイメージは、「よく分からない」というのが本音でしょう。「入局したら将来はどんな医師になれるのですか?」と、しばしば質問されます。
働き方のモデルになる人が身近にいないのも、総合診療医の姿がつかみづらい一因かもしれません。
「広く診る」という意味では、日本医師会が定義する「かかりつけ医」がいます。かかりつけ医の先生は、1人1人が長い年月をかけて診療の幅を広げ、地域で頼られる存在となって活躍されています。総合診療医は、逆に「最初から広い」を目指すわけです。
日本プライマリ・ケア連合学会、日本病院総合診療医学会が、それぞれの立場から総合的な診療のあり方を発信しています。総合診療医の役割についてはさまざまな考え方があり、働く場も多岐にわたります。
どこで働くにしても、共通しているのは、私たちは「患者さんの訴えをすべて受けとめる」存在であるということです。
臓器を横断的に診療し、健康管理や予防にもかかわり、診断が難しい患者の入院診療、認知症やうつなど、精神疾患の領域も扱います。
当教室の研修先の一つに、高度な救急医療を提供している大分市医師会立アルメイダ病院(大分市)があります。総合診療医は救急の現場で救急医とも協働します。
また、2016年4月、熊本と大分に大きな被害をもたらした地震では、避難所に医局員を派遣。災害医療にも取り組んでいます。
当教室の吉岩あおい医師が中心となって、「もの忘れ外来」も開設しています。認知症患者さんの診療は、ご本人だけでなく、心身が疲弊しているご家族まで含めたケアが必要です。「ご家族も患者さんである」という視点に立った診療を、若い医師たちが学んでいます。
医局員の頑張りが少しずつ認められてきたのか、最近は医療機関から「総合診療医を派遣してほしい」という相談が多く寄せられています。
◎なりたい医師になれ
総合診療専門医研修プログラムは、内科研修、救急科研修、小児科研修、大病院と診療所での総合診療研修が必修です。3年間で複数の診療科を回り、いろんな環境で経験を積みますから、かなり忙しい毎日です。
プログラムの特色は診療所での研修にあります。地域の課題や患者が求める医療を、しっかり感じてきてほしい。ヘルパーやケアマネジャーたちと「仲間」として働く機会は、大学ではなかなか得られません。
この3年間で総合診療専門医を取得できるわけですが、これはプラットホームに立ったにすぎません。さらに10年、20年という時間をかけて、真の総合診療医になっていくものだと思います。自分がどんな研さんを積むべきか、方向性をつかむための期間だと捉えてほしい。
当教室の方針は「なりたい医師になれ」です。将来、精神科救急をやりたいという人がいるほか、家庭医療、臨床疫学、感染症、救命など、興味が多様なところが当科の特徴です。
私は地域での研修プログラム構築などを担う医学部附属の「地域医療学センター」教授でもあります。やはり、医師偏在に悩む地方の病院や診療所の力になってほしいと思っています。
一方で都市圏には人口が集中し、高齢者が増加します。複数の疾患のある高齢者を誰が診るのか。総合診療医のニーズは、都会でも高まっています。
◎下から支えたい
2018年3月2日(金)、3日(土)に別府国際コンベンションセンター(別府市)で開かれる「第16回日本病院総合診療医学会学術総会」の会長を務めます。
豊前中津藩(大分県中津市)の武士の子として生まれ、幼少期から青年期を中津市で過ごした福沢諭吉。著書の「学問のすゝめ」にちなみ、テーマを「総合診療医學ノスゝメ〜地方と都市の共鳴〜」としました。
総合診療医は地方にはまだ少ない。地域の中小病院で、どうやって総合診療医を育成していくか。みんなで知恵を出し合い、ストラテジーを組み立ててみたいと思っています。
この分野は研究活動による社会貢献が一つの課題です。学会が研究活動を推進する後押しになればとの思いから、京都大学医療疫学の福原俊一教授による招請講演を予定。疫学研究の第一人者の言葉を通して、地域における研究手法のノウハウを学びます。
私たちが取り組むべき研究は、疾患そのものを解き明かすものだけではありません。患者さんやご家族が困っていることを明らかにして、その解決策を探る臨床研究も重要です。
認知症の患者さんをデイケアに預けると、介護者の負担は軽減されると思うでしょう。
ところが私たちの調査では、「デイケアは介護者にとって大きなストレス要因である」。なぜか分かりますか?
おそらく、嫌がる患者さんをデイケアに送り届けることは介護者にとって大変なエネルギーを必要とするのでしょう。介護うつに至る要因の一つになりうるのだと思われます。
いずれ、大分県においても、久山町研究のように、特定地域の健康問題を取り上げ、地域住民の健康の増進に関わる研究に発展させたいと思っています。
講座開設の初年度ということで、今は土台づくりの時期だと考えています。
当教室には、やさしく、人間味のある人が集まっている気がします。先に進みたい人はどんどん成長してもらって、遅れそうな人がいたら押し上げる。上に立つより、下から支えるのが私の仕事だと思っています。
全員がフロントランナーにはなれないかもしれませんが、人の痛みが分かる、「いい医師」には必ずなれる。それをサポートするのが私のモチベーションです。
大分大学医学部総合診療・総合内科学講座
大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1
TEL:097-549-4411(代表)
http://www.med.oita-u.ac.jp/soushin/