小さく見つけてやさしく治す
「切らずに治す」を掲げ、神戸ポートアイランドの医療産業都市に開院して5年目。高精度放射線治療のメリットが認識されるのに伴い、患者数も伸びつつある。「放射線治療をもっとポジティブなイメージにしたい」と語る藤井正彦理事長・病院長の思いとは―。
◎最先端の放射線治療
当院は「小さく見つけてやさしく治す」のコンセプトのとおり、がんを切らずに治す病院です。放射線治療を中心に、化学療法、カテーテル治療、内視鏡治療などに取り組んでいます。
特に放射線治療のためには、3台の高精度治療装置を備えています。
一つはトゥルービーム。広い範囲に、正確に照射できるだけでなく、呼吸によって微妙に位置が変わるがん細胞に対する呼吸同期照射も可能です。汎用型として、定位放射線治療や強度変調放射線治療(IMRT)にも対応します。
二つ目はトモセラピー、IMRT専用装置です。前立腺がんや頭頸部がんなど、動かない腫瘍に使います。360度全方向から集中的に、かつ複雑な形状に合わせて照射できるのが特長。周囲の正常細胞への影響を最小限に抑えます。
三つ目はサイバーナイフ。定位放射線治療専用装置で、脳の腫瘍を正確にピンポイントで治療するだけでなく、肺がんや肝臓がんなど、呼吸によって動く腫瘍を追尾して照射できます。呼吸同期照射と比較してロスがなく、正確に、高い線量の放射線を照射できることが特長です。
この三つの装置があれば、全身のどの部位でも高精度の放射線治療ができるので、現状ではベストな組み合わせだと思っています。
高精度放射線治療は効果が高いうえ、副作用を最小限に抑えられるのがメリットです。がん診療拠点病院でも高精度の割合は2〜3割に留まるところ、当院では7割が高精度治療です。そういった特徴から、神戸市内だけでなく県内各地、他府県からも患者さんが訪れます。
◎協力病院と補完し合って、安全と効率を確保
開院には、いくつかの目的と理由がありました。
まずは、神戸大学医学部附属病院の治療機能を補完するという目的。神戸大病院は敷地が非常に狭く、治療装置を追加できない状況だったため、当院が治療装置を完備し、役割を担うことになりました。
その経緯から、当院のドクターの多くは神戸大病院から移りました。
さらに、高精度放射線治療を普及させて、がん医療の新しい方向性を打ち出したいという思いと、ポートアイランドの医療産業都市に特色のある医療機関をという誘致があったことも理由です。
「切らない病院」ですから、他の病院との連携は必須です。
例えば入院中に心疾患や脳卒中などが発生した場合の搬送先として、隣接する神戸市立医療センター中央市民病院のほか、神戸大病院、神戸赤十字病院との協力体制を整えています。
逆に、市民病院や大学病院は高度急性期病院ですから、入院日数が限られている。そこで、長期の入院治療が必要な場合や、手術より放射線治療が適している患者さんなどは、当院が受け入れる。そういう意味での補完関係が強まっています。
これまでがん治療は「手術できるかできないか」といった尺度が前提にあって、放射線は「使いにくいもの」あるいは「終末期に使うもの」という認識がありました。
しかし、Ⅰ期の肺がんを治療する場合、手術よりもサイバーナイフの治療成績が優れていたというデータも出るなど、少しずつ高精度放射線治療の良さが理解されつつあります。
2016年度の新規患者数は1057人(前年比114人増)。装置1台当たり300〜350人です。フル稼働に近い状態ですね。
患者さんの85〜90%が他病院からの紹介で、うち75%は、がん診療拠点病院から。選択肢の一つとして浸透してきている実感があります。
◎臓器横断で全体を診る
当院では腫瘍内科、放射線科ともに、臓器にとらわれない総合診療的なスタンスで治療しています。
がんの5年生存の割合はすべての臓器で50%を超えて60%に迫ろうかという時代です。がんサバイバーが第2、第3のがんになったとしても、臓器横断型なら広い選択肢を提供したり、セカンドオピニオン的な視点でアドバイスしたりできる。患者さんの安心につながるのではないかと思います。
◎QOLを高めるケアを
放射線治療が発達して手術の成績とほぼそん色ないようになってきた今、放射線治療は患者さんのQOL維持にも優位です。
食道がんを手術すると胃の形が変わって生活に支障が出ますが、放射線治療なら本来の胃の機能を損なわずにすむ。高齢になればなるほど手術時の全身麻酔のリスクが高まり、短期間とはいえICUに入ると認知機能に影響が出て回復が遅れたり、その後の生活が一変したりすることもあります。
切らずに治せれば、治療前後の生活の変化を最小限に抑えることができます。
日常生活が制限されるのをできるだけ防ぐため、がんリハビリにも力を入れています。特に高齢の患者さんは体力、筋力が落ちやすい。1日10〜15分の治療時間以外をベッドで過ごしたら2週間で足が一まわり細くなって、退院時には杖や車椅子が必要になることもあります。
そんな機能障害を予防する目的で、回復期、維持期、緩和期などの病期ごとに有効な手法でリハビリを展開しています。リハビリで体力を維持することによって、化学療法の完遂率も違ってきます。この他、嚥下(えんげ)機能のリハビリや口腔ケアも実施しています。
さらに、専従医師を中心としたチームで、緩和ケアにも取り組んでいます。余命宣告された段階ではなく、診断されたときが緩和ケアのスタート。治療の早期からカウンセリングすることで精神的負担を軽減すれば、落ち着いて今後の生活の準備をする余裕ができます。「どう生きるか」をご家族も一緒に考える機会にできればと思っています。
◎放射線治療をもっとポジティブな存在に
放射線治療の進歩やメリットをもっと伝える機会が必要だと思っています。
現状では、放射線治療を受けていることを患者さん自身が公表しにくいところがある。手術だと「治る」というイメージがありますが、放射線治療だと「手術できないから?」と思われがちです。
それを「何で切ったの?放射線あてたらいいのに」という問いが当たり前に出て、「私は腫瘍を取り除いてすっきりしたいから手術を選んだ」とか「私はメスを入れたくないから放射線治療にした」などと、患者さん自身が選択できる時代になれば。それが、私の大きな夢です。
さらに放射線治療そのものも、増感剤を併用して線量や照射回数を減らすなど、もっと低侵襲な方向に発展していくだろうと思います。そんな可能性に希望を抱きながら、より専門性を向上させていきたいですね。生きるためのポジティブな選択肢として、放射線治療が進歩することを願っています。
医療法人社団 神戸低侵襲がん医療センター
神戸市中央区港島中町8-5-1
TEL:078-304-4100(代表)
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