急性期から回復期まで信頼される病院を目指して
尾張西部医療圏に属する稲沢市民病院は、2014年11月に現在地に新築、移転した。同市に近接する一宮市、名古屋市には、大規模な病院が多数あり、患者獲得、医師獲得の面で、競争が激しくなっている。加藤健司病院長に、同院が抱える課題などについて話を聞いた。
◎苦境が背景 新病院建築
2000年代前半まで、市民病院の地域での役割は、非常に大きなものでした。
しかし、2004年度開始の新医師臨床研修制
度の影響などで医師不足が進行したことから、小児科、産婦人科、そして透析部門といった診療科を閉じることになりました。
これに伴い、残念ながら地域の患者さんが少しずつ当院から離れていくことになりました。医療収支も赤字となり、これに付随して、サービスも低下、悪循環に拍車がかかりました。
加えて、当時の病院建物は、1960年代から1970年代にかけてつくられていたため老朽化が進行し、患者さんからの印象も、医師の確保の面からも、あまりよくありませんでした。
地域では2007年ごろから「このままではいけない」という声が上がりはじめ、2010年にようやく新病院の建設が決定したのです。
◎専門性向上認定指導施設にも
こうして、2014年11月に新病院が開院しました。残念ながら病床320床のうち一部は休床しての開院となりました。
新病院開院にあたっては、医師の確保と救急をしっかりやることを方針に掲げました。
隣接する一宮市や、名古屋市の大きな病院を受診する患者さんも増加していたため、まずは、診療をできるだけ断らないことが大事でした。
医師確保に関しては、名古屋大学へ協力を要請。それまでいなかった整形外科、脳神経外科の常勤医を派遣してもらうことができました。
また、より専門性の高い医療に取り組むことも、課題でした。
そのうちの一つが、脳神経外科(脊椎末梢神経センター)です。名古屋大学脳神経外科の原政人准教授がセンター長・副院長として着任。脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の診断、外科治療を主に扱っており、2016年には、日本脊髄外科学会指導施設の認定を受けることもできました。
同学会の認定施設は、全国で41施設。愛知県内では大学病院を除くと、当院を含めて3施設しかありません。
センターの昨年度の総手術数は、467件。脊髄疾患、頸椎疾患などを手掛けます。経椎体的椎間孔拡大術など、低侵襲な術式に力を入れています。
このように、侵襲が比較的少ない術式で、実績が450例を超えるというのは珍しいようです。
◎地域包括ケア病床を取り入れる
急性期を終えた患者さんの受け入れのため、2016年、地域包括ケア病床39床を開設。
急性期を終え、ゆくゆくは在宅で過ごすことを目標とした患者さんのためにつくった病床です。当院が地域に密着するという意味で、必要な役割だと思います。
愛知県は、全国と比較すると、回復期の病床や医師も少ないためニーズは高いです。このため、病床の稼働率も高く、予定通りの稼働率といえます。
◎職員への教育情報発信にも力
当院の理念は「地域の皆さまに親しまれ信頼される病院を目指します」です。患者さんの心に優しく寄り沿っていけるような職員にならなければなりません。
このため、毎月1回全職員で研修会を開いています。テーマは接遇、医療安全、感染などさまざまです。
また、市民との交流にも力を入れています。病院を一部開放して、病院の取り組みなどを紹介する「病院まつり」は、5年目。毎年1000人以上の来場者が訪れます。
市民向けの出前講座では、理学療法士や管理栄養士が公民館などに出向き、健康に関する話をします。
院内で患者さん向けの糖尿病教室や介護教室も開いています。
糖尿病教室の場合、認定看護師、管理栄養士のほか、関係する診療科の医師も講師を務めます。
一方、介護教室は、家族などを介護する人向けの教室で、体位交換の方法、誤嚥(ごえん)など食事の際の注意点、そして、介護保険の制度的なこともお話しします。
地域包括ケアシステムを見据えて、医師会との連携はもちろん、介護関係者との連携、研修にも力を入れています。この研修では医師や看護師のほか、施設職員やケアマネジャーを対象としており、褥瘡(じょくそう)や嚥下(えんげ)などについて専門的に学びます。このような取り組みが、施設全体のレベルをあげ、ひいては地域の介護の力があがることにつながっていくと思います。
今後も、急性期から回復期を幅広く扱う方針を維持します。また、医師や看護師を確保し、休床している病床の開床を目指します。
◎地域の祭りに長年協力
稲沢市には、奈良時代、約1200年前から伝わる祭りがあります。国府宮(こうのみや)神社の「はだか祭」です。
毎年、2月ごろに開かれ、ふんどし姿の裸の男たち(今年は約8000人)が本殿に向かいます。
中心になるのは、年に一人選ばれる神(しん)男。この神男に触ると、その1年息災に過ごせるとあって、みんなが神男を触ろうと、もみくちゃになりながら参道から本殿に進みます。まだ寒い季節ですが、体と体の熱気で、かけられる水が一瞬にして湯気になって立ち上るほどです。
当院は、毎年、祭りの救護本部として、参加します。激しい祭りで例年多数の傷病者が出るため、さながら野戦病院の様相となります。歴史ある祭として有名ですので、当院としても、応援していきたいですね。
稲沢市民病院
愛知県稲沢市長束町沼100
TEL:0587-32-2111
http://www.inazawa-hospital.jp/