"オンリーワン"になる
―4月就任。運営方針は。
この春、院長となり「地域・社会にさらに開かれた病院、評価される病院を目指す」と職員に伝えました。「地域医療への貢献」と「専門医療の維持・発展」が目標です。
当院は、80年ほど前、結核の療養所として創設。時代の要請に合わせて重症心身障害児(者)医療、ALSなどの神経難病に対する医療といった国の政策医療を展開するようになりました。
結核を診ていたことから呼吸器を専門としたスタッフが充実し、肺がんや喘息(ぜんそく)、慢性呼吸不全の患者の治療も開始したという変遷もあります。
現在、一般255床、結核25床、重症心身障害児(者)120床の計400床で運営しています。強みとする専門分野を維持、さらには発展させつつ、地域の住民や医療機関から信頼される病院になっていきたいと思っています。
―「地域での役割」とは何でしょう。
この地域には、超急性期から急性期を担当する1000床超の大病院として、「倉敷中央病院」「川崎医科大学附属病院」の2病院があります。今後もこの2病院が急性期を担う大きな柱であることに変わりはないでしょう。
そこで、当院がすべきことは何か。
超急性期後、引き続き入院医療が必要な「ポストアキュート」、そして高度急性期医療までは必要としないものの在宅で状態が急激に悪化した「サブアキュート」の患者を積極的に受け入れていくことだと考えています。
病床機能としても、急性期主体から回復期主体へと、シフトしていく時期に来ているのでしょう。
2016年9月には、地域包括ケア病棟を開設しました。今は、255床の一般病床のうち、95床が急性期、60床が地域包括ケア、100床が神経・筋疾患関連の病床です。
さらに、地域の介護施設や診療所、大病院との連携を強めるため、訪問活動を強化しました。
地元エリアの医師や医療従事者、介護従事者を集めた懇話会、研修会に力を注いでいます。
この病院の診療内容を紹介することで、強みとする領域の、地域からの紹介患者を増やすのが目的の一つ。もう一つは、地域の医療の質向上の後押しです。
―救急医療への関わりは。
この地域には、夜間や休日の救急搬送のほとんどを倉敷中央病院、川崎医大病院が担っているという現状があります。
当センターはもともと結核療養所だった経緯から、救急への関わりがほとんどなく、体制も十分には整っていません。外来で通院している患者さんの状態が急に悪くなった時に対応する程度です。
しかし、大病院に運ばれる患者さんの中には、軽い脱水や誤嚥(ごえん)性肺炎など、われわれが診ることができる人もいる。どこまで、どう対応していくのか、という点が今後の課題です。
まずは近隣の同規模病院2施設との分担・連携を考えています。
それぞれの病院で日によって異なる当直医の専門診療科を、医師会に公表する方向で調整中。開業医の方は急を要するものの高度救急を必要としない患者を紹介しやすくなり、紹介されるわれわれ病院側は大きな負担なく、患者を受けられる可能性がある。双方にとってメリットがあるのではないかと思います。
―在宅移行が進む中、重症心身障害、神経難病の方の在宅支援は。
重症心身障害児(者)の方への支援の一環として空床を利用した「医療型短期入所サービス」を提供しています。いわゆる「レスパイト入院」です。
利用者に応じて、普通食、ミンチ食などを提供し、経管栄養も可能。人工呼吸器が欠かせない方など、医療的ケアが必要な利用者にも対応できるのが特徴と言えるでしょう。
神経難病についてもレスパイト入院のニーズは確実にあります。
すでに、人工呼吸器が不要な方のレスパイト入院は、地域包括ケア病棟のベッドを使って始めました。
一方、人工呼吸器装着の方のレスパイト入院は、設備の関係で長期入院の方が多い神経内科の病床の空いているところを利用することになり、なかなか空床が出ない。ニーズはあるけれど、受け入れられないもどかしさはあります。
―「専門医療の発展」の面での展望を。
一つが、肺移植をはじめとする移植医療の支援です。
当院も関連病院となっている岡山大学病院は肺移植が盛んで、1997年からこれまで160人に実施されてきました。私は岡大にいた期間が長く、移植適応患者の診察や術後の合併症への対応に関わってきた経験もあります。
さらに、当センターはかつて、岡大病院で肺気腫の肺容量減量手術を受けた患者の術後の入院とリハビリを担当していたという、大学病院の後方支援の歴史もある。
そこで、近い将来、移植の患者さんの術後のリハビリや管理を、このセンターでできないかと思っているのです。
今は術後2〜3カ月間大学病院に入院する移植患者を、ある程度病状が安定した術後1カ月程度の段階で受けたい。
今後、移植を受ける患者数が多くなり、移植外科医のマンパワーも呼吸器外科病床も、足りなくなることが懸念されています。そこを補い、当センターの特色も生かせる方法だと考えています。
―そのほか、伸ばしていきたい専門分野は。
喘息、小児の食物アレルギーなど、「アレルギー」の患者が多くなっていることから、アレルギー専門外来を3年ほど前に開始しました。
2015年12月にはアレルギー疾患対策基本法が施行。全都道府県で拠点病院の整備が進むことも決まっています。
当センターは岡山県内の拠点となることを目指し、体制を整えているところです。難治性の患者や重症化した患者の治療だけでなく、患者・家族向けの講習会や学校の教職員向けの対処法指導などにも、注力しています。
当センターはこれまでも、学校関係者や医療職を対象としたセミナーなどを定期的に開催。さらに今年、センター全職員を対象としたアナフィラキシーへの対応の研修会もしました。
アナフィラキシーは死に至る可能性もあります。拠点病院を目指す以上、「あの時、こうすれば助かったのではないか」と後悔することがないよう、予測できることは予測し、適切な初期対応を職員全員が身につけておく必要があるのです。
今から重要になってくるのは、われわれの病院に対するニーズをリサーチし、的確にとらえること。さらにオンリーワンの分野をつくっていくことです。必要とされる病院を目指し、10年後を見据えて、今から考え、歩んでいかなければならないでしょう。
独立行政法人 国立病院機構 南岡山医療センター
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