「見えない健康問題」にアプローチしていく
―病院の方針として「総合力」をキーワードに挙げています。
まず、「患者さんを生活の場でとらえる」という意味です。
超高齢社会に入り、認知機能の低下、独居、老老介護など、さまざまな問題が顕在化しています。
疾患だけで患者さんをとらえるのではなく、社会的、家族的な背景まで含めた医療を推進したいと考えています。
「医療」という視点に絞ると、当院は急性期病棟、回復期リハビリ病棟、特殊疾患療養病棟、緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟と、多様な機能を持っています。複数の身体的な問題を抱えた高齢者が増加する中、患者さんの病状に応じた対応が可能です。
岡山市内の急性期病院のベッド数は過剰な状態です。患者さんの退院後の生活をしっかり支援できる環境を、もっと整えていく必要があると感じています。
急性期から慢性期、在宅への架け橋となることを目指しています。
また、当院を運営する岡山医療生活協同組合の組合員の平均年齢も上がっており、地域における助け合いやコミュニティー構築の必要性が高まっています。
「医療者と地域の組合員が力を合わせて病院を運営していく」という医療生協ならではの価値、役割も、ますます重要になるだろうと思っています。
こうした内外の視点から、患者さんをトータルにマネジメントできる医療機関でありたい。それが「総合力」という言葉に込めた思いです。
―9月に透析センターが竣工(しゅんこう)予定。
10月オープンに向けて、建築工事が進んでいます。
当院は、40年近く前に人工透析を始めました。現在の透析室は25年ほど前に作った部屋です。
20数年前は40人弱だった透析患者さんは、高齢化による糖尿病性腎症の増加などを要因に、いまや倍近くになりました。
現状の透析室は狭いスペースに19の透析ユニットを設置しており、ストレッチャーが通ることもできないほど窮屈です。また、休憩所や更衣室を確保する余裕もありません。
医療が非効率になることはもちろん、安全管理の面でも、長年の課題でした。
新たな透析センターは、最大35ユニットまで対応できる設計です。
当面は25ユニットでスタートします。回復期リハビリ病棟や、特殊疾患療養病棟に入院している患者さんの透析にも、柔軟な対応が可能となります。
―2016年、岡山医療生協は「WHO日本HPHネットワーク」に加盟。
HPHとは「Health PromotingHospital andHealth Services」の略で、WHO(世界保健機関)が促進しているプロジェクトです。
「組織の構造、文化、意思決定とプロセスを改善し向上させることで、病院とヘルスサービスに関わる人たちの健康状態の改善を目指す組織」と定義されています。
ヘルスプロモーション活動は、まだ一般的にはなじみがありませんし、概念も正確には理解されているとは言えません。実際、医療機関などへの普及もこれからです。
世界中で、健康づくりや生活習慣の改善などに向けた取り組みが進んでいます。
しかし、個人の努力だけでは、健康はなかなか維持できないという現実があります。
経済的な理由からダブルワーク、トリプルワークを余儀なくされている人に、「毎日運動しましょう」と呼びかけても、実践できるわけがない。
「栄養バランスの良い食生活を続けましょう」「80歳になっても20本以上の歯を残しましょう」と啓発しても、満足な食事を取ることができない子どもたち、貧困にあえぐ高齢者たちが、現実に数多くいるわけです。
健康の社会的決定要因をコントロールしなければ、問題は解決できないということです。
―岡山協立病院が、課題解決の拠点になるということですね。
ヘルスプロモーション活動が対象とする領域は非常に広いのです。HPHネットワークには、医療機関だけでなく、薬局や介護施設なども加盟することができます。
最近、各所で増加している「こども食堂」などもヘルスプロモーション活動の例でしょう。
子どもたちが健やかに成長するには、栄養バランスだけでなく、「みんなでご飯を食べる」という体験が重要です。
将来の健康につなげるための大事なプロセスなのです。こうした場を提供するのも、ヘルスプロモーション活動の一環というわけです。
岡山医療生協は、1952年の創立以降、地域ごとに人が集まって血圧を測ったり、みそ汁の塩分について話し合ったりしてきました。まさに、ヘルスプロモーション活動をずっと続けてきたとも言えます。
ネットワーク加盟の目的は、職員の意識の向上です。岡山協立病院は、地域の人々の健康のために存在する病院である。「HPH」を掲げることで、より高い意識につながっていけばと思っています。
―今後に向けて。
7月、目に見えづらい孤立や貧困になんとかアプローチできないかと、新たな試みを始めました。外来患者さん全員に、簡単な質問項目を記載した用紙を配っています。
「急病の時に看病してくれる人がいますか」「1週間、誰とも話をしないことがありますか」「医療費に困った経験はありますか」など、「はい・いいえ」で回答できる内容です。
人は、他人に面と向かって「お金がない」とは打ち明けにくいものです。お金がなくなったら、何も言わず、病院に来なくなるのです。ですから、私たちがアンテナを高くしていなければならない。
アンケートの配布を開始してから、「患者なんでも相談室」へ「何か使える制度はないか」といった問い合わせが増加しているようです。
当院では無料低額診療を実施しています。こうした制度のことも、ご存じない人が多いのです。医療になかなかアクセスできない、「見えない健康問題」を抱えている方のサポートに力を入れていきたいと考えています。
組合員の子育て世代のママさんたちは、毎月、子どもの健康に関する勉強会や交流を目的にした「ママズカフェ」を開いています。
ときには当院の看護師などが参加して、専門的な知識を提供したり、相談に乗ったりしています。このように、組合員が集まって健康づくりに取り組む「班会」が、たくさん活動しています。
班会があることで、自分の近所にどんな人が住んでいるのかが把握しやすくなります。独居や引きこもりの高齢者をすくい上げるきっかけにもなっていると思います。
地域の主役は、やはり住民であり、患者さんです。生活支援も含めて、「困っている人を助けられる病院」でありたいと思っています。
岡山医療生活協同組合 総合病院 岡山協立病院
岡山市中区赤坂本町8-10
TEL:086-272-2121
http://www.okayama-kyoritsu.jp/