【眼科特集】山口大学大学院医学系研究科 眼科学 木村 和博 教授

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プロトコルに沿った眼科医療を確立するために

【きむら・かずひろ】 1995 山口大学医学部卒業 1999 大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士) 2005 山口大学医学部眼病態学講座助教 2007 同講師 2010 山口大学医学部眼科学教室講師 2015 ロンドン大学眼科(University College London)留学 山口大学大学院医学系研究科眼科学講師(副科長) 2016 山口大学医学部眼科学教室教授

 山口大学医学部眼科学教室は1947(昭和22)年に開講。今年で開講70周年を迎えた。

 昨年11月に就任した木村和博教授に今後の教室運営や眼科医療について語ってもらった。

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―山口県の眼科医療の現状について聞かせてください。

 どの診療科も同様の悩みをお持ちだと思いますが、眼科においても都市部に医師が集中しがちです。

 県内でも比較的人口が多い県南部と、人口の少ない県北部で病院、クリニックを含む眼科常勤医師数の格差が見られます。

 医師が少ない地域では、必然的に眼科の幅広い領域を診られる医師が求められます。私たちは、そうした地域の医療ニーズに応えるため、専門に加えて眼科の幅広い領域に対応できる医師の養成を目指しています。そのため、大学では、私の専門の網膜硝子体疾患、緑内障さらに白内障・角膜疾患を含めた前眼部疾患を中心にバランスよく、その診断・治療を研修の初期から積極的に指導しています。

 その結果、これまで常勤医師がいなかった地域に少しずつですが常勤医師を派遣できるようになりました。

 県内各地にネットワークが構築できつつあり、地域完結型の眼科医療を遂行できる体制が整ってきたといえるでしょう。

―教室員が増えてきているということでしょうか。

 地方大学共通の悩みとして、卒業後、初期研修医が大学の研修を選択することが少なくなっている事が挙げられます。

 今は、外科、内科などいわゆる「メジャー」な診療科を指向する傾向が強く、初期研修で必修診療科でない眼科を第1希望にする人は残念ながら少ないと言えます。

 当教室では医学生、初期研修医などを対象に、随時、教室見学、説明会並びにシミュレーター実習をしています。またホームページの充実に加え、魅力をPRするためのパンフレットを作成し、配布しています。

 現在、とりわけ力を入れているのが、各地域での診診連携の一環としての講演会・研修会です。例えばその地域の内科医とともに糖尿病および眼合併症についてのお話をすると、足を運んでくれたその地域で働いている糖尿病に関係する医師や研修医が眼科に興味を持ってくれるかもしれません。

 そう簡単にはいかないかもしれませんが、興味をひくきっかけになれば良いと思うのです。

 私は大学での研修医、専門医育成部門の責任者を務めています。協力型病院とも協力して、魅力的な研修プログラムの提供に努めています。

 その甲斐あってか、今年度は当大医学部卒業生の約7割の人が、卒業後も山口県に残ってくれました。

―山口大学眼科学教室の教育面の特徴は何でしょう。

 現在、眼科診療のプロトコル(診断および治療計画)を構築中です。眼科では、同じ疾患でも外科手術、薬物治療、レーザー治療など、さまざまな選択肢があるケースがあります。指導する人によって治療法が違い、個々の医師の感覚が占める割合が大きいこともあります。

 当然「この人にしかできない」という特殊な診断・治療法もあるかと思います。

 私は、診断・治療上のばらつきをなるべく少なくするため、診断のための検査、ある程度、「この疾患の、この段階は、この治療法を選択する」といった診断・治療法の統一が必要だと思うのです。

 診断・治療法のコンセンサスが取れていれば、治療効果が思わしくない場合や予後が悪い場合も、何がいけなかったかが推測しやすいでしょう。しかし、それぞれが違う治療法を選択していたら、その検証は困難極まりないものになってしまいます。

 スタンダードを確立していれば、次の高みを目指すことができます。

 この人は80点、この人は100点というのではなく、全員を90点にする。90点レベルの人10人が、同じ治療をした結果、予後が悪ければ、対策を立てやすいでしょう。しかしレベルにバラつきがあると、そうはいきません。

 次のプロトコルを構築するためにも基本となる骨格を形成することが大事な作業なのです。

 それを覚えたら、その人が後輩に教える。その繰り返しで大学そして地域の眼科医療のレベルが少しずつ上がっていきます。

 また当院のみならず、県下の関連病院においても、ある程度の眼疾患に対して診断・治療法を統一しようと思っています。

 すべての眼疾患は無理かもしれませんが、ある程度症例数の多い疾患に関しては、治療前の患者さんに一度、当院にきてもらい、確立したプロトコルに従い、診断をつけ治療方針を決めて、地域の病院にお返しする。これを繰り返すことで、診断・治療による予後の違いが小さくなるのではないでしょうか。

 いわば疾患の診断・治療の山口版ガイドラインを県内で構築しようという試みです。

 地域の眼科医療が高いレベルで維持できるようになれば、大学はさらなる高度医療に取り組むことができるのです。

 実現にあと何年かかるか分かりませんが、今はそのための種まきをするべき時期だと思っています。

―これから力を入れていく取り組みはありますか。

 眼科だけでなく、大学全体で取り組もうとしているのが、AI(人工知能)を用いた、病気の診断・予測システムのプラットフォーム(基盤)開発です。私はそのプロジェクトの中心メンバーのひとりです。

 内科や外科など、さまざまな科からデータを集積することで、コホート研究をします。そして数年〜数十年かけて膨大なデータを集積することで、病気の予測システムを構築することが可能になるのです。

 基礎研究でも臨床研究でもいいのですが、若いうちに大学院で研究に打ち込むのは大事なことだと思います。

 臨床の現場でプロトコルに当てはまらない事象に直面した際、一番大事なことは知恵を働かせることです。その時に研究で考えるトレーニングを積んだ経験が生きるのです。

 常に考える姿勢を持ち、矜持(きょうじ)を保った眼科医師を育てていきたいと思いますね。

山口大学大学院医学系研究科眼科学
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~eye/


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