羊膜バンク設立、眼瞼圧測定装置開発
四国の眼科医療の中心を担う
角膜領域を強みとしながら、緑内障、網膜・硝子体など、さまざまな分野もカバーする愛媛大学眼科学講座。四国だけでなく、中国、九州エリアからも患者が訪れている。
2016年就任の白石敦教授は、羊膜バンク設立、眼瞼(けん)圧測定装置の開発など、角膜領域で次々と挑戦を続けてきた。
◎進む「角膜移植」
角膜領域を専門的に診療できるのは、四国ではここ愛媛大学医学部附属病院だけです。
われわれは、年間60〜70件の角膜移植を実施しています。かつては、どの状態の患者さんにも全層角膜移植をしていました。
しかし、医療の進歩によって10年ほど前からは、角膜の層ごとにも移植できるようになりました。今は、全層角膜移植、角膜内皮移植、表層角膜移植、角膜輪部移植などを、疾患や状態に応じて実施しています。
角膜移植を取り巻く環境も変化してきています。以前は、県単位のアイバンクからの供給しかなく、献眼される方が出て初めて移植できるという状況でした。
今、われわれのような角膜移植を特徴とする専門医療施設は、アメリカのアイバンクと連携しています。アメリカは宗教上の理由などから献眼する人が多いため、供給に余裕があります。角膜が手に入りやすくなったので、患者さんにとっても移植を受けやすい環境が整ってきました。
◎増える「水疱性角膜症」
角膜移植が必要となる疾患の中で最も頻度が高いのが、角膜内皮細胞の機能が低下し、角膜に水分がたまって混濁する「水疱(すいほう)性角膜症」です。
角膜内皮細胞は、増殖しないため、再生能力がありません。外傷や加齢で、内皮細胞が傷ついたり減少したりすることで、本来の働きができなくなってしまい、水疱性角膜症になるのです。
近年は機器の開発が進み、手術の安全性が向上したことなどから、白内障、緑内障、硝子体疾患なども積極的に手術で治療するようになりました。手術自体の侵襲は低くなりましたが、手術数が増えたこともあり、水疱性角膜症が増えていると考えられます。
◎精緻なレーザー
最近、角膜手術などに使う「フェムトセカンドレーザー」を導入しました。
10年ほど前から使っていた「エキシマレーザー」は角膜全体に光を当てて角膜を削っていきます。一方、フェムトセカンドレーザーは、ピンポイントで光を当て、角膜を自由な形に切開できるのが特徴です。
今までできなかったミクロン(1000分の1mm)単位の操作が可能になり、より安全な手術ができるようになりました。
◎「羊膜」を生かす
角膜や結膜などに起こる難治性眼表面疾患に対する「羊膜移植」は20年以上の歴史があります。
羊膜は、胎児を包む薄い膜。通常は出産後の廃棄物として扱われています。移植の場合は、感染症を防ぐため、予定帝王切開の妊婦さんから提供されるものを使用します。
血管成分を含まないコラーゲンを主成分とする膜なので、上皮細胞の基底膜(土台)になる他、炎症を抑える働きもあります。また、移植しても、拒絶反応が起こりにくいという大きなメリットがあり、眼科や皮膚科、耳鼻科などでは治療に使われてきました。
当院でも、帝王切開で出産した妊婦さんから譲り受けた羊膜を使い、早い時期から取り組んでいます。手術件数は年間20件ほどになります。
2014年、羊膜移植が保険収載されたことで、規則ができ、日本組織移植学会の基準に沿う「羊膜バンク」から供給された羊膜しか、移植に使えなくなりました。そこで、2015年8月、国立大学として初めて羊膜バンクを立ち上げたのです。
認定移植コーディネーターが常駐することなどの基準をクリアし、「カテゴリーⅠ」を取得。当院で採取した羊膜をほかの医療施設に提供することも可能になりました。
このカテゴリーⅠを取得している施設は、当院を含めて国内3施設だけ。今年から外部への羊膜提供を始めています。
◎「瞬き」に注目
2010年、眼球とまぶたの間に発生する「眼瞼(けん)圧」をセンサーによって測定する装置を開発しました。本学に研究生として通っていた、コンタクトレンズメーカーの方との共同研究です。
人間は、1分間に約15 回、1日に約1万5000回、瞬きをしています。ということは、その摩擦によって、眼球表面に傷ができて引き起こされる病気がたくさんあると考えられるのです。
私たちが開発した装置は、平らな棒状で先端が円盤のようになっています。先端は直径1mm、厚さ0.5mm。これを目とまぶたの間に差し込んで、圧を測ります。
より詳細に眼表面の摩擦を評価するためには、眼感圧とともに摩擦係数を測定する必要があります。今は本学の工学部と共同で、眼球表面の潤いや摩擦度合いを計測する装置の開発を進めています。
近年、ドライアイに加えて、瞬きの摩擦によって眼球に傷ができる「摩擦関連角結膜上皮障害」が注目されています。コンタクトレンズによる摩擦・傷害も増えています。これらの疾患の軽減、治療につなげていきたいと思っています。
◎四国の眼科医療を支える
われわれは四国の眼科医療の中心的な役割を担っていると自負しています。愛媛県にとどまらず、四国全域に住む方々がどんな眼科疾患になってもきちんと治療したい。そのための体制を整えていきたいと思います。
教室には角膜、緑内障、網膜といった主な領域の専門医がすでにそろっています。今後は、それらの領域の臨床、研究、教育を一層充実させるとともに、眼部がん、斜視、弱視などさらに広い領域で、レベルの高い専門医を養成していく。それがこれからの私の一つの目標です。
国立大学法人愛媛大学大学院医学研究科 眼科学講座
愛媛県東温市志津川
TEL:089-960-5361
http://www.m.ehime-u.ac.jp/school/ophthalmology/