常に課題を探しながら質の高いがん医療を届ける
―病院を取り巻く状況をどう捉えていますか。
「がんセンター」の名称を1966年から掲げ、四国唯一のがん専門病院として実績を重ねてきました。
4月、院長になった私が考えたのは、当院が何を目指すのか、一度みんなで問い直すべきではないかということでした。
今、医療機関の経営は厳しい状況に置かれており、当院も例外ではありません。
患者さんの数はむしろ増えている傾向にあります。現場の職員たちは十分にそれぞれの責任を果たしています。
それでも経営上の問題が解決されないのは、ひょっとしたら当院の機能が時代の要請とズレてきているからではないか?
地域医療構想、地域包括ケアシステム、社会保障制度改革などで国が進めようとしている医療政策と、四国がんセンターが提供してきた医療とのギャップを認識することから始めました。
ここ10数年の動きを踏まえても、がん対策基本法が施行され(2007年)、がん診療連携拠点病院の整備が進み、がん登録推進法(2013年)が成立するなど、がん医療に対する国民の捉え方、ニーズは大きく変わりました。
多くのがんで長期生存がかなうようになり、「がんになっても安心して暮らせる社会」を望む声が増えました。治療成績への着目から、医療そのものの質が問われる時代に入ったのです。
その中で見極めるべきは、当院に何ができるかではなく、何が求められているかということでしょう。
当院は6階が乳腺、7階が呼吸器、8階が消化器など、病棟ごとに機能をわけており、405の病床数(一般376床、緩和ケア25床、ICU4床)があります。
現在、その再編計画を話し合っているところです。愛媛県の地域医療構想でも、急性期病床は現状から3割程度減少する見込みです。当院でも全体の病床を削減し、一部地域包括ケア病床への転換を進める予定です。
働き方の改革を含め、職員が士気高く活動できる環境を整えることが、柱の一つになるだろうと思います。
日本全体が、明確な将来像を描けない時代です。思想がないまま「元気を取り戻そう」「意識を変えよう」と上意下達で、ものごとを進めても、職員に説得力をもって響くわけがありません。
ですから、現場の声を拾い上げながら、目の前の問題を一つずつ乗り越えていくことが大事だと考えています。
―体制づくりのポイントは。
「圧倒的に質の高いがん医療」を届けていきます。その「質」は、客観的な評価に基づいて「高い」と言えるものでなければならないと考えています。
ポイントは三つ。治療成績、第三者機関の認定、そして患者さんの声です。
がん専門病院群の治療成績に関しては、全国がん(成人病)センター協議会が情報を取りまとめ、ステージ別の生存率を公表しています。
今後、地域がん登録制度、全国がん登録制度によるデータベースで、施設ごとの治療成績の比較もできるようになるでしょう。私たちとしては偏りのない明確なデータを用意し、いつでも提供できる準備をしておきたいと思っています。
第三者機関の評価については、今年2月に日本医療機能評価機構による病院機能評価の3度目の更新を終えました。ISO9001、ジョイント・コミッションなどの規格の取得なども視野に入れています。
認定を受ける意味は、それでよしとするのではなく、指摘された問題点を間断なく改善できる病院にしていくためです。
今回、昨年11月の日本医療機能評価機構の訪問審査後、すぐに改善に向けて動きました。認定が公表された2月のタイミングでは、すでに課題のほとんどを解決しました。
人材の確保、建物・設備の改修など、時間をかけて改善していくべき部分は、引き続き対応を検討しているところです。
国立病院機構およびナショナルセンター計148病院では、毎年、患者さんを対象とした満足度調査を実施しています。
当院はこの調査において高い順位を維持しています。2016年は、全体の中で入院部門8位、外来部門12位。350床以上の46病院に限ると、入院部門1位、外来部門で2位でした。
一つ一つの取り組みの中で見つかる課題は尽きません。しかし、「課題がかならずどこかにある」との心構えでいることが大事なのかなとも思います。
―地域でどのような役割を担いますか。
「プレシジョン・メディシン(精密医療)」は大きなインパクトをもたらしています。
遺伝子の異常の特定が進み、次々と分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が開発されて治療成績が向上している今、本格的ながん克服時代に入りつつあります。
国立がん研究センターが2016年に発表した全がんの5年相対生存率「62・1%(男女計)」や現在の治療成績は、数年後には意味を持たなくなるかもしれません。
それほど劇的なことが起こっているわけです。がん専門病院の機動力を生かし、治療、研究の発展に貢献していきたいと思います。
一方で、糖尿病や脳血管障害など、併存症がある高齢のがん患者さんへの対応となると、当院を含めたがん専門病院群はやや弱い部分があることも事実です。
地域からは一定程度の「総合病院化」が期待されると思います。若年層から高齢者まで、ライフステージに合わせたがん治療に対応できる病院にシフトしていく必要があるでしょうし、検診の領域にも関与していくべきかもしれません。
がん診療拠点病院は高度な医療を届けるだけでなく、地域コミュニティーの再生や、ソーシャル・キャピタルの創出も大切な役割です。
併設の患者・家族支援センター「暖だん(だんだん)」で、月に一度、「がんカフェ・がん哲学外来」を開いています。
がんカフェにやってくるがん患者さんたちは、何かをしてもらおうと思って集まるわけではありません。順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授の樋野興夫先生が提唱されている通り、「与える側」として参加します。
一人一人が何かを持ち寄って、空っぽの器の中を満たそうというコンセプトです。「自分の体験を生かしたい」という気持ちで集まっているがん患者さんたちは、むしろ私たちよりも元気。
みなさんの話があまりにも面白いので、飛び入りでエピソードを話し始める人もいるなど、大いに盛り上がっています。
独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター
松山市南梅本町甲160
TEL:089-999-1111
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