連携強化で目指す地域完結型医療
「地域に選ばれる病院でありたい」と佐藤四三・姫路赤十字病院長は言う。
同病院に外科医として約30年勤務。患者の声、現場職員の声、地域の開業医の声を聞いてきた。4年前、病院長就任。取り組んできた「地域完結型医療」とは。
―病院の特徴と地域での役割を聞かせてください。
この病院は、1908(明治41)年創立。私は11代目の病院長になります。およそ30年前、ここに赴任してきて驚いたのは、この病院が住民から「日赤さん」と呼ばれて親しまれていたことです。当院の歴史を物語っていると思います。
われわれは、高度急性期、急性期を担い、対象患者数は83万人。ここ姫路市は、中播磨医療圏ですが、患者さんは隣の西播磨医療圏からもお見えになります。
このエリアでは、555床ある当院が最も大きな病院です。これまでは地域に五つある基幹病院 が、それぞれ強みを生かして機能を分担してきました。
ただ、5年後には基幹病院のうちの二つが統合し、740床の新病院が誕生します。患者さんの流れも変わるでしょう。
当院の特徴である、消化器を中心としたがん、小児、周産期医療は継続しながら、提供すべき医療の幅がさらに広がっていくのではないかと考えています。
―就任からこれまでの取り組みで特徴的なものを。
就任時、職員に話したのは、「医療情勢の変化の中、今後、病院単体で医療を完結するのは難しい」ということです。
さらには「地域全体の医療の質を上げるために、急性期の基幹病院である当院が果たすべき役割は何か」「地域から求められていることは何か」を一番に考えるように、とも伝えました。
最初に力を注いだのは、地域連携の強化です。
それまで地域の皆さんはちょっとしたかぜや腹痛でも、当院を受診していました。ありがたいことですが、それをすべて受け入れるのは、ハード面でもスタッフなどのソフト面でも、限界でした。
そこで、患者さんのトリアージを開始しました。紹介状を持たずに来院された患者さんには専任の看護師が対応。急を要する状態でなければ、かかりつけ医を紹介することにしたのです。
開始直後は、大変でしたね。「この病院は来院した患者を診ないのか」と患者さんから怒られることも多く、クレームだらけ。一時は経営も悪化したほどです。
しかし、だんだんと患者さんの理解も深まり、2年たったころには、「紹介状さえあれば断られることはない」とわかってもらえるようになりました。今となっては、患者さんに一次、二次、三次医療機関の違いを理解していただくよい機会になったと思います。
トリアージ導入と同時に、市の医師会にも出向いて「地域連携を強化したい。かかりつけ医になってほしい」と依頼しました。
紹介を受けたら1週間以内に初診の予約を入れることを徹底した結果、今は紹介率83%、逆紹介率103%。開業医の先生方との信頼関係もできつつあると感じています。
―そのほかに、注力されたことは。
医師の確保にも取り組んできました。地域の患者数、症例数、将来予測などを細かく分析したデータを持参し、大学の医局を訪問。4年間で派遣の医師は、呼吸器内科・外科、心臓外科、循環器外科などで計40人増えました。
高齢化に伴い、合併症のある患者さんは今後、一層増加します。幅広い診療科を持つ、いわゆる総合病院のような役割が必要になってきているのです。
当院のすべての診療科で先進的な医療を実現するのは難しいでしょう。しかし、一定の医療を提供できる環境は、求められていると思います。
人材育成も重視しています。研修内容を充実させ、高機能のシミュレーターも整備。指導医は熱意をもって取り組んでいます。
2004年の新医師臨床研修制度開始時には10人だった定員も、3倍近い応募が続いたことなどから、2014年、14人に増員が認められました。医師が不足しているこの地域に若い先生方が来てくださることは、大きな意味があります。
昨年4月、当院はDPCⅡ群(大学病院本院に相当する機能を有する)病院に選定されました。決して、DPCⅡ群を目指してきたわけではありません。限られた医療資源を有効に使って、地域の医療レベルを向上させる努力を続けてきた結果だと思っています。
―病院を運営する上で大事にしていることは何でしょう。
「ここで働きたいと思える病院」「職員自身がここで治療を受けたいと思える病院」を目指しています。
職員が働きやすい環境をつくるため、さまざまな策を講じました。2008年には医療事務作業補助者を導入。看護師は100床当たり113人と、全国に92ある赤十字病院の中で上位になっています。
2009年開設の院内保育所は2015年に拡張。定員をおよそ40人から倍の80人に増やしました。2016年からは病児保育もしています。
マネジメントする上で大事にしていることは、トップダウンとボトムアップのバランスです。
当院ではボトムアップの手段として、「クリニカルマイクロシステムメソッド」という改善活動を取り入れています。
「医療は現場にある」という前提に立ち、方向性だけを伝えるのがマネジメントする側の役割。改善活動の具体的な中身は、患者さんや一緒に働いている仲間、業務プロセス、改善の成果をよく知る「現場」すなわち部署単位で考え、実行してもらうというものです。
私は、月2回、ブログ「院長徒然日記」を書いています。内容は、地域医療連携や専門医制度、2025年問題といった医療に直結する話題から、院内外での研修で感じた自己研さんの重要性まで、さまざまです。
日々の業務の中で、職員一人ひとりに私の思いを伝えるのは困難です。このブログは職員に向けて書いていると言ってもいいかもしれません。
病院運営で最も大事なことは、「チーム医療」です。よく使われる言葉ですが、言葉だけでは意味がない。職員一人ひとりがどう動けば、チームとして効率的に機能するのか、具体的な動き方、手順を常に考え、ブラッシュアップし続けています。
日本赤十字社 姫路赤十字病院
兵庫県姫路市下手野1―12-1
TEL:079-294-2251(代表)
http://himeji.jrc.or.jp/