改革を断行し、地域に頼られる病院を目指す
1979(昭和54)年、旧国立大分病院と国立療養所二豊荘が統合し、現在の地に国立大分病院として新たに開院した。2004年に独立行政法人国立病院機構へと移行し、大分医療センターと改称して現在の形となった。
今年4月に就任した穴井秀明院長に今後の抱負などを聞いた。
―地域の医療状況について聞かせてください。
当センターのある大在地域は1970年代半ばに土地区画整理事業を実施。公共施設、住宅地が整備され、現在も人口が増加中です。新興住宅地が多く、住民が若いのが特徴で、高齢化率は16.6%と非常に低くなっています。
一方、同じ医療圏の佐賀関・神崎地区の高齢化率は51.8%ととても高い。高齢化率がとても低い地域と高い地域を診なければならないわけで、自ずと幅広い医療が求められているのです。
今後、取り組まなければならないのが病棟再編です。そのために現在286床ある急性期病床を削減して、地域包括ケア病棟(一個病棟50〜60床)設置のためのプロジェクトチームを発足させる予定です。
私は院長就任のあいさつでイギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィンの「生き残るのは強いものではない。知的なものでもない。変化に適応できるものである」という進化論での名言を引用しました。
職員は変化に抵抗があるかもしれません。しかし、時には痛みを伴う改革を断行しなければならないのです。
―地域に幅広い医療を提供するためには医師会との連携が重要になりますね。
大分東医師会のみなさんが、すごく協力的なので、ありがたいですね。6月の理事会で、地域包括ケア病棟の設置を発表したのですが、快く受け入れてくれました。
同様のケースで大反対されるところもあると耳にしますが、こちらでは、まったくそんなことはありませんでしたね。
また近いうちに前院長の退職、私と副院長の就任祝賀会を医師会が主催してくれることになりました。
これまで密にコミュニケーションをとって顔の見える連携を構築してきたかいがあったのだと思います。
―4月に院長に就任しました。今後取り組んでいきたいことは何でしょう。
当院は大分県がん診療連携協力病院です。将来的には緩和ケア病棟の設置も視野に入れています。
私は外科医です。これまで多くの末期がん患者を診てきましたので、人生最期の時を有意義に過ごしてもらいたいという思いが日増しに強くなっています。
私の前任地は九州医療センターという急性期病院でした。急性期病院は手術後速やかに、患者さんを転院・退院させなければなりません。特に、末期がんの患者さんは最後まで診ることはできませんでした。
患者さんからは「もう退院しなければいけないのか。ここで手術したのだから、この後も診てくれ」と言われていました。
事情を説明して何とか理解してもらってはいましたが、やはり辛かったですね。
患者さんの住み慣れた場所でがんを発見、治療、看取りまでする地域完結型がん医療を提供するのが、理想だと思うのです。
当院は2次救急を担っています。標榜(ひょうぼう)科の救急患者は、極力断らないということを心がけています。しかし、中には断ってしまう事案も少なからずあります。そこで断った場合は、理由書を作成させるようにし、翌朝の幹部ミーティングで、検証をするようにしました。
―職員に心がけてほしいことは何でしょう。
「和を以て貴しとなす」という言葉を絶えず心に刻んでいてほしいと思います。この言葉は一般的には「カドを立てずに仲良くする」といった意味にとらえられがちです。
しかし、本来の意味は違います。人はえてして派閥や党派などをつくるものです。そうなると偏った見解を持ち、異なる思想の者と対立を深める。これを戒めているのです。
人々が互いにむつまじく話し合いをすることができれば、そこで得られた合意は自ずと理にかなっているものなのです。とにかく「他人との調和」を心がけてもらいたいと思っています。
「利他の心」も忘れないでもらいたい。自分を犠牲にしても、他人の利益や幸福を追求するのは医療者にとって大事な心構えです。「世のため人のために役にたつ」「自己の利益よりも他者の利益を優先する」ことを忘れないでいてほしいのです。
身だしなみにも気を使ってほしいと言っています。おしゃれは「自己満足」。一方、身だしなみは患者さんに対する「思いやり」です。
患者さんに不快な印象を与えないように、頭髪を整え、衣服を清潔にする。また外面を整えるだけでなく、あいさつなど、内面を表す正しい礼儀作法を徹底することが重要です。
個人の身だしなみと同様に病院の"身だしなみ"も整えなければなりません。毎月給料日には院内清掃をしています。私も病院敷地内と、その周辺の草むしりなどをしているんですよ。
―医療安全について、特徴的な取り組みをしているそうですね。
当院では医療安全についての意識を高めることを目的に、年に2回「ヒヤリハット小劇場」をしています。現在まで合計9回の小劇場を開催。これは重大な事故に至るおそれがあった事例を職員自身が演じるものです。同様の取り組みをしている病院は、それほど多くはないと思いますね。
講義形式の医療安全研修の参加人数は平均80人。一方「ヒヤリハット小劇場」にしてからは平均125人と参加人数が増加しました。
劇にすることで医療安全について具体的なイメージを膨らませやすいのでしょう。インシデントの0レベル報告件数も増加したのです。
医療安全を徹底して、充実したがん医療を提供。また断らない救急をすることで、地域の皆さんに頼られる病院にすることが私の目標ですね。
独立行政法人 国立病院機構 大分医療センター
大分市横田2-11-45
TEL:097-593-1111(代表)
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