荒尾市唯一の急性期病院としての責任を担う
荒尾市民病院は、1941(昭和16)年に、診療所として開設、76年の歴史を持つ。数年前から新病院建て替えの議論があるものの結論には至っていない。今年4月に就任した勝守高士院長に話を聞いた。
◎要(かなめ)は救急医療
当院は、荒尾市内で唯一、急性期医療を担う病院です。荒尾市民の健康を維持するためには、不可欠な存在だと思います。
特に脳卒中急性期拠点病院・急性心筋急性期拠点病院として、救急医療に力を入れており、内容的には2・5次の救急までを受け入れていると考えています。
加えて当院には、救急医療に特化した救急専従医が二人います。迅速により専門的な救急医療を提供するためで、この専従医がいるのは、県内は熊本市以外では当院だけです。
夜間の当直医も、できるだけ断らないことを基本にしています。また、荒尾市外の周辺地域からも、救急の要請がありますので、こちらにも、多数対応しています。
昨年の救急車の受け入れは2338件。前年度は2000件でしたから、19%増加しています。
私はこの病院に1985年から1年間、研修医として勤務したことがあります。職員が、市内唯一の急性期病院のスタッフとしての責任感を持って働いていたという印象が残っています。
それから、約30年を経ましたが、職員の責任感の強さは、今でも当院の大きな強みだと感じています。
◎新病院の建設計画
現在、病院の建物は3棟。どれも老朽化して、うち1棟は今年で50年目と修繕費もかさんでいます。
また、現在地での建て替えは建築費を考えると難しく、新たな場所を決めて移転、新築するというのが基本的な方針として決まっています。
今は2月の出直し市長選で当選した新市長がプロジェクトチームを作って検討を進めており、今年8月までには、新たな移転案を決定し、議会に提出することになっています。
新病院の移転については、われわれ病院関係者に決定権はありません。議会で決まったことを粛々と進めていきます。
今の病院は、救急を進める上で設備面が弱点だと思います。
新病院には、ヘリポートを設置してほしいですし、高齢者の患者さんが来院しやすいように、斜面に建設することは避けてほしいと考えています。
最近では、荒尾市や大牟田市周辺の高齢者が、福岡市に住む自分の子どもたちに呼び寄せられて移住するケースが増えているとも聞きます。
荒尾市の住民が、高齢者も含めて、安心して、医療を受けられるような病院作りができるよう、とにかく早く結論がでることを願っています。
◎今後の課題
急性期病院として、地域の開業医の先生方との連携を強化しています。
荒尾市医師会や玉名郡市医師会とは「地域医療支援病院会議運営委員会」で、定期的に情報交換しています。
私も4月から当院の相談支援センター長を兼務。センターの人員も増やしました。
診療面では、引き続き腹腔鏡手術に力を入れていきます。
国内で、初めて腹腔鏡下の胆のう摘除術が実施されたのは、1990年。当院も翌1991年には山崎勝美院長が、腹腔鏡下胆のう摘除術を実施しました。
その後、本格的に腹腔鏡下の胃がんの手術が始まったのは2004年。国内では、姫路医療センターの金谷誠一郎先生が、第一人者としてリードしていました。
その年の10月、私は、姫路まで足を運び、金谷先生の手術を見学する機会を得ました。これまでは、開腹でしていたリンパ節郭清も、腹腔鏡下でする、すばらしい手術でした。
当時私は45歳。「このような手術をやりたい」と密かに誓ったのを覚えています。
同じ年の11月22日、九州初の完全鏡視下幽門側胃切除術を金谷誠一郎先生に執刀していただき、当院で実施することができました。
数日後には同じ手術を荒尾市民病院のスタッフのみですることができました。手術から13年経ちましたが、手術をした患者さんは、2人とも健在です。
腹腔鏡下の手術は、ハイビジョンの3D技術も取り入れられ、今後、より精度が上がっていくと思います。裸眼では見えないものが見えることで、より安全な手術になっていくでしょう。
現在、国内では、地域や診療科によって医師が足りない、という問題が浮上し、苦労している医療機関も多いと思います。
当院でも、医師確保に関しては、苦労した時期もありました。私は日本国民であれば、どこに住んでいても、等しく同じ医療を提供されるべきだと思います。地域によって、受ける医療内容が違っていたり、同じ治療であっても、予後が違うといったことは許されないと思います。当院も、最新の情報やスキルを取り入れながら、地域のみなさんに貢献したいと考えています。
荒尾市民病院
熊本県荒尾市荒尾2600
TTEL:0968-963-1115
http://www.hospital.arao.kumamoto.jp/