患者さんに優しく プロとして研鑽を積む
大腸肛門病の専門病院として、医療関係者からも高い評価を受ける松田病院。昨年12月、開設者の松田保秀理事長・院長が死去。1月、長男の聡氏が理事長・院長に就任した。開設から30年が過ぎた同院の未来をどう描くのか。新院長に聞いた。
◎職員の満足度が鍵
当院での勤務を始めたのは、4年前。当時は大学病院勤務でしたが、父の体調が悪くなったため、アルバイトとして週に1度、外来や手術に入ることになりました。常勤になったのは2年前です。
肛門の手術は、人の手から手へ、技術を伝え、学んでいく職人技のようなところがあります。わずか数年ではありましたが、匠(たくみ)の技を持つと周囲から言われた父と一緒に仕事をした期間は、私にとって貴重な財産となりました。
大学病院にいるころはもちろん、この病院の副院長になってからも、経営にはほとんど関わってきませんでした。病院経営をする理事長・院長という立場になった当初は、戸惑うことも多くありました。
息子の私が言うのもおかしいのですが、父は大腸肛門科のカリスマでありながら「仏の松田」と呼ばれる人格者でもありました。
その父が亡くなったことで、求心力が一気に失われてしまった。前院長を信頼してついてきていた職員の気持ちを、もう一度、この病院に向かわせ「前院長に診てもらいたかった」という患者さんの気持ちを少しずつでも変えていきたい。そのための取り組みを続けています。
78床という小規模な病院ですので、職員の多くが「松田病院愛」を持ってくれています。これまでは経営側がそれに甘えて、職員のQOL(生活の質)をないがしろにしてきた部分があったのではないかとも思うのです。
そこでこの4月、職員へのヒアリングを始めました。手術室、外来、病棟など部署ごとにスタッフを招集し、現状や要望を聞いています。
病院建物の老朽化による危険箇所の指摘や「患者さんについてもっとディスカッションしたい」という要望、ボーナスの話など、さまざまな声が上がっています。職員はみんな想像以上に病院全体のことを考えて発言してくれる。みんなの中にも、病院をもう一度盛り上げたい、という意識があるのだと思います。
すべての要望を叶えることはできませんが、できること、できないことを整理して、職員にフィードバックしたいと考えています。
◎専門性を高め続ける
技術面で言うと、常に最先端を走りたい。医療の専門性という意味では、伝統を重んじながら新しいことにチャレンジする姿勢を大事にしたいと思っています。
今、肛門の機能温存が重要視されています。例えば、痔ろうの手術ならば「肛門括約筋」を損傷せずに痔ろう部分だけを処理する。この手術は、今まで40件ほど実施し、良好な結果を得ています。
便失禁の治療にも取り組んでいます。これまでは泣き寝入りしていた方も多い疾患ですが、薬物治療や括約筋を絞める手術によって、治すことができる病気です。
経産婦の場合、分娩(ぶんべん)時の会陰裂傷や切開によって、肛門括約筋が切れてしまい、数十年後、高齢になって筋力が低下してから便失禁が起こるケースがあります。
軽度な場合には、骨盤底筋を鍛えるトレーニングで、ある程度の改善を見込むことができます。便の水分量を調整する薬を使い、いわゆる「バナナうんち」にすることで、排便障害が改善されることもあります。
手術や保存療法で改善が見られない方に対しては、2015年から「仙骨神経刺激療法」を実施しています。排便をつかさどる神経に電気刺激を継続的に与える治療法で、現在、東海地区で実施しているのは、当院と藤田保健衛生大学病院の2施設だけです。
◎新たな取り組み「腸内フローラ相談室」
2016年7月、「腸内フローラ相談室」を開設しました。川上和彦副院長が担当し、週に1度、患者さんの相談にのっています。
相談に訪れた人には、食生活と排便の習慣を記録してもらった上で、希望者に腸内フローラ検査を実施。腸内細菌のタイプなどを患者さんに提示しながら、食事などのアドバイスをしています。
この検査によって、腸内環境はある程度わかります。しかし、この分野の研究はまだまだ始まったばかり。具体的な治療法にまでは、たどり着いていないと感じます。
ただ、近年潰瘍性大腸炎や偽膜性腸炎、過敏性腸症候群などの患者さんの腸内に健康な人の腸内細菌を注入する「糞便移植療法」という新しい治療法が一定の成果を上げています。当院ではまだ実施していませんが、希望する患者さんが今後、増えていくのではないでしょうか。
◎入ってきたときから出るときまで
近いうちに、病院のリニューアルもしたいと考えています。この建物は築約30年。配管が古くなったり、ラニングコストが掛かり過ぎたり、いろいろと問題があります。新しい病院になれば、患者さんにとっての療養環境もよくなりますし、職員も活気づくのではないかと思います。
建て替えの際には、大腸・肛門疾患に関わる検査室やトレーニング室などがまとまった、動線の短い病院にしたいですね。患者さんのプライバシーにも配慮したいと思います。
松田病院の特徴は、職員が優しいこと。患者さんに寄り添った診療、看護ができていることです。当院は、「恥ずかしい」というイメージが根強い部位を扱う病院です。だからこそ、受付に入ってきたときから、病院を出るときまで、嫌な思いをせずに帰っていただける病院であり続けたいと思います。
特定医療法人社団松愛会 松田病院
静岡県浜松市西区入野町753
TEL:053-448-5121
http://www.matsuda-hp.or.jp/index.php