神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 神経内科学分野 戸田 達史 教授

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たどり着いた「糖鎖」の新事実

【とだ・たつし】 1985 東京大学医学部卒業 1987 東京大学医学部脳研神経内科1988 国立療養所下志津病院(現:独立行政法人国立病院機構下志津病院)神経内科 1994 東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学 1996 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 2000 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学教授 2009 神戸大学大学院医学研究科内科学講座神経内科学分野教授

 筋ジストロフィーの中で最も重症度が高いとされる「福山型筋ジストロフィー」が報告されたのは1960年。戸田達史教授が生まれた年のことだ。2016年、戸田教授は疾患の原因を突き止め、その功績により「2017年度日本学士院賞」を受賞。始まりは、小さなヒントを見逃さなかったことだった。

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―福山型筋ジストロフィーの研究について。

 「雪埋梅花 不能埋香」という言葉があります。

 雪は梅の花を埋めることはできるが、香りまで埋めることはできないという意味です。

 いい仕事を続けていれば、ことさらに吹聴しなくても、人は必ずそれを見いだす。そんな仕事をしましょうと、神経内科学教室のメンバーには話しています。

 非常に「神経内科らしい」言葉ではないでしょうか。私たちの領域は、普通なら見逃してしまう小さな症状が、未知の疾患を見つける手がかりになります。神経内科医の心得に通ずるものがあると思うのです。

 私が福山型筋ジストロフィーの研究を始めたのも、あるカンファレンスで「福山型筋ジストロフィーと色素性乾皮症を合併している症例がある」と耳にして、興味を持ったことがきっかけでした。ささいなヒントが入口だったのです。

 福山型筋ジストロフィーは、1960年、故・福山幸夫先生(東京女子医科大学名誉教授)によって初めて報告されました。

 筋ジストロフィーの中でも症状が重く、ほとんどの患者さんが歩行不能で、知能・言語発達遅延を伴います。日本人に特異的に多い疾患です。

 2000年以上前に起こった突然変異が広がったのだと考えられます。日本は島国ですから、国内だけで増加したのでしょう。

 毎年、新たに数十例の患者さんが確認されています。国内には、2000人ほどの患者さんがいると推測されます。

 研究のために患者さんのDNAを収集し始めたのが1990年。8年をかけて、1998年に原因遺伝子を同定しました。福山型にちなんで「フクチン遺伝子」と名付けました。

 私たち人間は、誰もが持っている遺伝子です。ここに異常が起こると、福山型筋ジストロフィーになるというわけです。

 ただ、このフクチン遺伝子がどのような機能を持っているのか、長く判明しなかったのです。

 糖鎖(※)に関連していると考えられましたが、その役割は不明でした。

 私や共同研究者の東京都健康長寿医療センター・遠藤玉夫副所長は、「遺伝子が分かっても機能を発表できなければ意味がない」と言われ、悔しい思いをしたものです。

―発症の原因は。

 福山型筋ジストロフィーの患者さんのフクチン遺伝子には、「動く遺伝子」と呼ばれる、余分な遺伝子が入り込んでいます。

 この遺伝子が起こす「スプライシング異常」、つまり遺伝子の異常な切り取りによって、病態が発生します。

 フクチン遺伝子の働きがようやく解明できたのは2016年。「リビトールリン酸」という糖をタンパク質に移す酵素であることが分かりました。

 リビトールリン酸は、それまでバクテリアなどで確認されたことはありましたが、人体で存在が確認されたのは、今回が初めてのことです。

 フクチン遺伝子が欠損していると、リビトールリン酸がタンパク質にうまくくっつかず、糖鎖の合成に異常が生じます。

 糖鎖の形成不全でたんぱく質がこわれてしまい、福山型筋ジストロフィーや、類縁疾患である肢帯型筋ジストロフィーを起こすのです。

 ここで、本研究は一つの区切りを迎えたと言えます。今後、考えられるのは、リビトールリン酸の補充治療でしょう。

 もう一つ、私は2011年に、別のアプローチとして「核酸治療」を報告しています。

 スプライシング異常で遺伝子が切り取られないように、DNAを貼り付けて「妨害」する方法です。実際に創薬に向けた計画を進めており、近い将来、臨床での検証を目指しています。

 難病の中でも、脊髄小脳変性症やハンチントン病、ミトコンドリア病など、特に希少な疾患の患者さんを対象に、年に1回、相談会を開いています。

 福祉関係のスタッフや、遺伝カウンセラーも同席します。ふだん、希少疾患の患者さんたちは、医療についてさまざまな疑問を抱えていたり、医療費の助成などのアドバイスを受ける機会がなかったりします。

 そもそも、ちゃんと専門医につながっていないケースもあるのです。

 また、難病の患者さんは、なかなか疾患をオープンにできない傾向にあることも、支援が行き届かない理由です。

 患者さんたちが困っていることに耳を傾け、適切な医療や福祉に結びつける。そうした活動の幅も広げていきたいと思っています。

―11月15日(水)〜18日(土)の「日本人類遺伝学会第62回大会」の見どころは。

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 いわゆる「精密医療」とも訳される「PrecisionMedicine」が今大会のテーマです。「Genome Science,Precision Medicine andBeyond」としたのは、その先まで見据えた議論ができればという思いを込めました。

 2015年、米国のオバマ大統領(当時)が演説で提唱した概念で、特にがん治療の領域で進んでいます。従来のがん治療は乳がん、肺がんなど、臓器ごとに分けられていました。

 精密医療では、それぞれの患者さんの遺伝子情報に基づいて投薬します。例えば「RAS遺伝子変異にはこの薬」という考え方です。

 米国から、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子を発見したクンケル博士が来日します。

 また、大阪大学生命機能研究科・医学系研究科の吉森保教授の講演も予定しています。その他、今年5月に施行された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の一部改正など、倫理性についても議論します。

 私としては、PrecisionMedicine が他の領域にも広がることを期待しています。あらゆる科の医療者を対象としていますので、学際的な内容の学会であることが特徴です。

 4日間の日程を通じて、これからの医療に対する何らかのメッセージを届けることができればと思っています。

※糖が鎖状に連なり、タンパク質や脂質と結合したもの。細胞をつなぐなど、生体内で重要な役割を果たす

神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 神経内科学分野
神戸市中央区楠町7-5-2
TEL:078-382-5111(代表)
http://www.med.kobe-u.ac.jp/sinkei/index.html


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